「言い方はきつかったかもしれないが、曖昧に済ませてはいけないと考えた」原田義昭前環境相が語った”行政の責任”
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 「多少所管は外れるが、それ(処理水)を思い切って放出して希釈する」。新閣僚の発表を翌日に控えた。原田義昭前環境大臣の発言。原田氏は13日、自身のFacebookに「世の中が変わる、という不思議な自信も付いてきた。誰かが言わなければならない。自分はその捨て石になってもいい、と素直に自認した」と投稿した。こうした原田氏の姿勢に対しては賛同する識者がいる一方、「たとえ個人的な考え方であったとしても、決して許されるものではない」(岸宏・全国漁業協同組合連合会会長)など批判的な意見も根強く、退任目前というタイミングや、他の選択肢を排除したかのようにも聞こえる言い方に疑問を抱く人もいる。

 18日のAbemaTV『AbemaPrime』では、原田氏本人をスタジオに招き、発言の背景や真意について話を聞いた。

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 環境大臣を1年間にわたって務め、現場にも訪れる中で「なぜこういう形で進めなければいけないのか疑問を感じた」という原田氏。発言について「何より、政府の中で最も権威がある原子力規制委員会の更田豊志委員長も"この水は国際的な基準や、日本の基準もクリアする絶対に安全な水だ。なぜこの水を外に出さないのか"と言っている。日本人として、また日本政府として、どうして海に放出してはいけないのか、ということは当然考えるし、色々な人に話を聞いても、実は内々にはそのように考えている人も多いと感じた。経産省の小委員会で検討されている、蒸発させたり地下に埋めたりするといった案についても、いずれも現実的な政策になり得ないと考えた。環境省の職員や外部の専門家などに話を聞いていても、結局は放出して希釈するしかないのでは、という印象を持ち、ある時期からこれしかないなと思っていた。ところが色々なことが懸念されているため、どんどんタンクに溜まって行く。確かに現実に放出するかどうかの問題は厳密には経済産業大臣の下の、専門家からなる小委員会が結論を出し、経済産業大臣が官邸に届けるということになっているので、環境省や環境大臣は"所管外"だ。しかし環境省は原発の防災対策についての責任も負っているし、その意味では私も全体的な原子力行政の責任者の一人ではある。この1年間、やはり環境省の立場としても、どこかでしっかり発言しなければいけないと考えてきた」と説明する。

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 その上で、退任間際の会見における発言や、断定的な口調になったことについて尋ねられると、「そのために会見を開くのも違うと思ったし、発言するタイミングを失ったまま最後の日になってしまった。小泉氏が環境大臣に決まる半日前だったが、そのことは私の耳には入っていなかった。また、言い方について強い弱いは多少あると思う。しかし私は環境大臣という行政官であり政治家である以上、エネルギーの問題、原発の処理の問題について最終的に責任を取る一人だ。確かにリスクはゼロでないかもしれない。ただ世界的な基準、日本の基準に合うものだし、原子力規制委以上に信頼するものはない。言葉はきつかったかもしれないが、曖昧な形で済ませてはいけないので、スパッとした形で表現した。そのこと自体にはあまり反省はない」とした。

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 今週ウィーンで開かれているIAEA(国際原子力機関)の総会では、原田氏の発言を踏まえ、韓国政府代表が「もし海洋放出するなら、もはや日本の国内問題ではなく、生態系に影響を及ぼしかねない深刻な国際問題だ」と訴え、竹本科学技術担当大臣が「科学的根拠に基づかない批判」だと反論する場面も見られた。

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 一方、後任の小泉進次郎環境大臣は12日に福島を訪問、「新しく大臣になった私が、所管外とはいえ、そこで傷ついた方々にしっかり向き合うこともやらなければならないと思った」と言及。環境省及び経産省は、海洋放出の決定を下せない所管外であることを前提に、原田氏の発言について陳謝したことを明らかにしている。しかし17日には大阪市の松井一郎市長が、政府が科学的根拠を示せば大阪湾での海洋放出を受け入れると表明するなど、国内でも意見は割れたままだ。

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 そもそも汚染水、そして処理水とは何か。燃料デブリを冷やすための冷却水や雨水、地下水を汚染水と呼び、これをALPSと呼ばれる多核種除去設備を通すことで、トリチウムを除いたほとんどのものが除去され、処理水となる。ただ、この処理水の中に安全基準を超えたものがあることが去年、明らかになったため、東京電力では再度ALPSに通すことで基準値以下になるとの見解を示している。こうして基準値以下になった処理水については各国も海洋放出処理しており、日本も放出すべきだということが原田氏の主張だ。

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 テレビ朝日社会部(原発担当)の吉野実記者は「実は福島第一原発からはトリチウムは海洋に投棄されている。どういうことかというと、建屋に入る前の段階の地下水をサブドレインという井戸から汲み上げたものについては、別の浄化システムで綺麗にしてから海に流している。これにもトリチウムは混ざっている。一方、建屋の中で燃料デブリに触れてしまったものは浄化しても出してはいけない。外のトリチウムは出していいが、中のトリチウムは出してはいけないというのは矛盾した議論だ」と補足する。

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 こうした原田氏の説明に対し、「聞けば聞くほど腹が立つ。まったく無責任だと思う」「なんであんな中途半端な無責任な言い方をしたのか」と厳しく批判するのが、ジャーナリストの堀潤氏だ。この日の午前中、福島第一原発を取材してきたばかりの堀氏は、「最大の問題はトリチウムに関する認識が追いついていない中、地元の人たちが風評被害から脱しようと奮闘している。発言すべきは、具体的どうやって安心・安全を感じられるかという仕組みづくりを考えましょうと言うことではなかったか。それが無いから余計な賛否も起きる」と指摘する。

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 「経産省の小委員会は先月13回目を迎えたたが、ここでは細かな各論が話し合われてきた。そのことを踏まえ、"海洋放出が議論されるべきだと思うが、こういうリスクがある。それに対しては環境省として検討した結果、こういった方法で臨みたい"と話したのであればいい。しかし私の印象では"議論喚起になるのであればということで私は反省していない"という姿勢に見える。国際的に見ても、海洋放出が安全だということは、関係者なら誰しもが分かっていることだが、それをトリチウムについての誤解も多い大衆社会に投げかけるなら、各論を述べるべきだ。環境省所管の中間貯蔵施設を使った延命策、ALPS増設など、他にもいろいろ話すことがあったはずだ。非常に危ういメディア環境の中、福島県では多くの人がデマや風評や疑似科学に右往左往させられる中で踏ん張ってきた。小委員会でも語られているのは、今SNSを使った情報発信だったり、丁寧に向き合わないといけないということ。例えば流通の現場では福島県産は安全だと認識している人の割合はここ数年でやっと増えてきた。ところがまだ"怖い"と言っている人たちもいる。現に国際社会ではこの問題が韓国に政治利用されてしまった」。

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 これに対し原田氏は「非常に大事なことを言われた。3年も4年もやってきた小委員会の会合では、出てきた策について"それぞれに色々な問題があるな"と言っているだけで、何の結論も出ていない。また半年先にやろうということなので待つのもいいが、その間にもタンクは増え、負担も大きくなってくる。やはり政治や行政の決断というものは、プラスもマイナスもあるが、トータルに見てどこかで決めなければ何も動かない、というもの。東京電力としてもタンクが広大な敷地を占める中、廃炉の手続きが遅れることを心配している。国民全員が納得するまで待たなければいけないということは、必ずしも正しい行政の仕方ではないと思う。ここまでという期限を決めてやらなければ、次の手続きはできない。だからこそ、誰かが言わないと議論が一歩進まない、そこを私は思い切ってやった」と反論。

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 吉野記者も「トリチウム水の問題についても経産省のタスクフォースの時代からもう5、6年議論しているが、一つも先に進んでいるようには見えない。だから担当記者の間では原田前大臣の発言はとても好意的に受け止められている。経産省の委員会も東電も、地元の漁業関係者の方たちからの批判から逃げ回っているのだと思う。安倍内閣はすべての大臣が復興大臣だと言っているし、ここで原田氏が一石を投じたことはとても大きい。これまでも環境省や原子力規制委員会は安全だというメッセージを発信してきた。その上で大臣は清濁併せ呑んで発信してくれたということだと思う。時間は限られている。2022年の夏には、今あるタンク容量137万トンがいっぱいになる。いま議論を始めないと遅いくらいだ」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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