去る9月13日から16日までの4日間に渡って開催された「第35回 共同通信社杯」。
開催場となった松阪競輪について前回のコラムでこのようなことを書きました。
「松阪競輪場のバンク(競走路)は他の場に比べてカント(傾斜)がきついです。カントがきついとゴール前でスピードの乗りが良くなるため、捲りや追い込みが決まりやすいです」
2車ラインが4つというコマ切れ戦になった最終日のS級決勝戦。単騎を選択した1号車の郡司浩平選手は先行するラインの3番手を付き回り、最終バックから一気の捲りで優勝を決めました。
ダイジェストを観ていただければわかりますが、2センターから4角を抜ける辺りでさらに加速が増したのは、松阪競輪場のきついカントによるものでしょう。これがカントの浅い静岡競輪場とかだったらスピードに乗りきれず、後ろから勢いよく追い込んできた7号車の佐藤慎太郎選手に長い直線の果て、差されていたかもしれません。
このように競輪場によって特性は異なります。特性によって展開や決まり手が変わってきます。
バンクとカントの組み合わせで競輪場の特性が決まる
競輪場の競走路=バンクはメインスタンド側にあるホーム・ストレッチ・ライン(通称:ホーム)と向かい側にあるバック・ストレッチ・ライン(通称:バック)という2つの直線と左右2つの半円=コーナーを組み合わせた、陸上のトラックに似た形状をしています。
ただしそれは上空から見た場合で、横から見ると左右のコーナーがせり上がっていることがわかるでしょう(ちなみに直線部分も2~4度内側に傾いています)。このせり上がった傾斜を「カント」といい、コーナーには24~36度のカントが付けられています。
1周の長さも統一されておらず、333m(通称:サンサンバンク)、400m(通称:ヨンヒャクバンク)、500m(通称:ゴヒャクバンク)の3種類あります。
9月20日現在、開催可能な場は全41場あり、333mは前橋(ここだけ335m)、松戸、伊東温泉、小田原、富山、奈良、防府の7場。500mは宇都宮、大宮、高知の3場。ほかの31場が400mとなっています。それぞれの基本的な特徴としていわれているのは……
・333m:ゴール前の直線が短いので先行有利で逃げが決まりやすく、捲りが決まりにくい。
・400m:ゴール前の直線はほどほどなので、頭に来るのは先行選手の番手差しが基本。
・500m:ゴール前の直線が長いので逃げる選手は脚がタレて、捲りや追い込みが有利。
になります。
これらのカントの特徴として言われている……
・カントきつめ:捲り、追い込みが決まりやすい。
・カントゆるめ:先行の逃げが決まりやすい。
などの組み合わせで、場の特性が決まるのです。
例えば同じ333mバンクでも、カントゆるめ(約29度)の松戸競輪場は「早めに先行したラインの逃げ決着」になりやすいですし、「すりばちバンク」と呼ばれるほどのきついカントを持つ小田原競輪場は「捲り、差し狙い」になります。
各競輪場のデータはココにあります。最初はこのデータを参考に。何度もレースを見ていれば、そのうち「○○競輪場は●●といった展開になりやすい」というのがわかってきます。ただしそれも出場する選手の組み合わせで変わってくるので、一筋縄にはいきませんが……。
場の個性が異なるからこそ、同じ選手のレースでも展開が変わる
つまり「バンクの長さ」と「カントのきつさ」、そして「出場する選手の特性」「番組」の組み合わせでレース展開予想は複雑になってきます。言い方を変えれば、それらの要素を知れば知るほど、展開予想の深みが増すのです。
「全場400mにしてカントも統一すれば、予想もしやすいのになぁ……」という人もいますが、それはそれで味気ないでしょう。場の個性が異なるからこそ、同じ選手たちのレースであっても展開や結果がガラッと変わる。だからレースとして競輪はおもしろいですし、ドラマが生まれるのです。
今はインターネットで全場のレースが見られますから、自ずと好きな場が出てくると思いますよ。そこにはきっと行ってみたくなる。そして行ってみて初めてわかることもあります。例えばバックの向かい風が強いとか、風が巻いているとか。それもまた、展開予想の要素に深みを与えてくれるものなのですが……詳しくは次回のコラム辺りで。
文/ウエノミツアキ