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(逆エビ固めで青木を仕留めた竹下。サブミッション・ホールドでの勝利は快挙と言える)

 DDTの頂点に立つ男、KO-D無差別級王者の竹下幸之介は、プロレスに対する探究心でも業界屈指の存在だ。

 チャンピオンでありつつ、その姿勢は“攻め”。何をすればプロレスをより楽しめるのか、どうすればプロレスの可能性を広げられるのかを貪欲に考えている。自身のユニット・ALL OUTとセンダイガールズプロレスリングの対抗戦興行も大成功に終わった。男子と女子の対戦を“バラエティ”や“キワモノ”にせず、シリアスな勝負として成立させたのは選手たちの力量。特に光ったのが竹下の自由さと“懐”だった。

 その竹下がライバルだと認めるのが青木真也だ。日本最高のMMAファイターとして名高い青木は、昨年夏からDDTに参戦。当初は“異物”を自称、DDTになじまないことで存在感を発揮していたが、最近は男色ディーノとも好勝負を展開している。“格闘家として譲れない一線”は、もはやなくなったと言っていい。

 竹下と青木は過去2戦し、1勝1敗。青木のグラウンドテクニックに、竹下が“プロレスリングの寝技”で対抗していくという展開だった。

 タイトルをかけての3度目の対戦も、隙あらばギブアップを奪いにくる青木のスタンスは変わらず。しかしそこに、ロープを使った腕攻めや場外戦など、プロレスならではの動きを混ぜてきた。そんな青木のファイトスタイルを「次に何が起こるか分からない。一寸先は闇」と評した竹下は「プロレスってそういうもんじゃないですか」とも。

 青木のスリーパーで「実は4、5秒くらい落ちてました」という竹下だが、アームロックをボディスラムで強引に返すなどパワーを見せつけ、最後はウォール・オブ・タケシタ、すなわち逆エビ固めを完璧に決めた。

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(9.29後楽園では朱崇花とシングル。「強さ、怖さを味わっていただきたい」と朱崇花も自信を見せる)

「(逆エビは)ぶっちゃけ狙ってました。青木真也から一本取りたかった。プロレスの可能性を広げるのが僕の永遠のテーマ。青木選手と闘うと、ある方向の可能性が広がっていく」

 試合の緊張感は竹下vs青木ならではのもの。本人にとっても手応えのある防衛だったようだ。次のタイトルマッチは11月3日の両国国技館大会。竹下の希望で、EXTREME級王者(9.29後楽園ホール、黒潮“イケメン”二郎vsHARASHIMAvs遠藤哲哉の勝者)とのダブルタイトルマッチが行なわれることになった。

 しかしその前に、9.29後楽園でもう一つ大事なシングルマッチが控えている。“ジェンダーレス・レスラー”として、男子・女子どちらの団体でも活躍している朱崇花(あすか)との対戦だ。これも竹下の希望によるもので「朱崇花選手は同世代でプロレスを盛り上げる存在として、いろいろリスペクトする部分がある」という。

 ノンタイトルでもシングルで闘いたかったという竹下は、最近のテーマが「シングル見たくないですか?」であると語っている。『TAKAYAMANIA EMPIRE』での6人タッグ戦で闘ったノア王者・清宮海斗にもシングル実現をアピールしている竹下は、自分を“受けて立つ立場”に置こうとしてはいないのだろう。実力のある相手、興味のある選手との対戦を遠慮する理由などないというわけだ。

 女子とも名勝負を展開した実績がある竹下と、卓越した身体能力で男子に勝つことも珍しくない朱崇花。2人の対戦にも、新たなプロレスの可能性が秘められている。

文・橋本宗洋

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