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 国際ピアノコンクールを舞台に、若き4人のピアニストたちの才能がぶつかり合う。史上初の直木賞&本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸の「蜜蜂と遠雷」の映画化で共演した松岡茉優松坂桃李。将来を嘱望されながら、表舞台から消え、今回のコンクールに再起をかける元天才少女・栄伝亜夜を演じた松岡と、楽器店勤務の妻子持ちで年齢制限から最後のコンクールに挑むサラリーマン高島明石を演じた松坂。映像化不可能と言われた音楽描写を実現させるため、演技だけでなく、それぞれのキャラクターに合わせたピアノの演奏もモノにしている。そのシーンは実に素晴らしく、原作者自身も絶賛するほどだ。そんな非常にハードルの高い作品に挑んだ松岡と松坂が、撮影のウラ話を語り尽くした。

松岡茉優、芝居で集中するときは“分厚いガラスを周りに張っているようなイメージ”

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ーー栄伝亜夜、高島明石を演じるにあたって気をつけたこと、また自分と似ていると感じたところはありましたか?

松岡:亜夜はピアノにしか本音を話せない孤独な少女だったんです。そんな彼女が、本選でプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を弾くときに初めてお客さんに聴かせる音楽家になる。少しエゴが強い彼女がコンクールでさまざまな葛藤や苦悩を乗り越えて、エンターティナーになる瞬間というのを演じたいと思っていたので、彼女が演奏している中で変わっていく過程は意識しました。3番を弾いている途中で、ぶわぁーっと花が咲くみたいな。そんなイメージになればいいなと。

松坂:明石の場合は、生活に根付いた音楽なんです。そこを大事にしようと。だから、ピアノの弾き方は、指導してくださる先生と相談して、彼の普段の生活から湧き出て来る音楽性みたいなものを大事にやっていきましょうと話していました。その先生は明石のプロフィールも作ってきてくださいました。明石のカバンの中には何が入っているとか(笑)。ディテールまで細かくて。その先生と2人で明石像を作っていった感じがあります。

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松岡:私が亜夜と似ているとしたら、彼女がエンターティナーになる前は、まるで水族館のような分厚いガラスを周囲に張っているようなイメージだったところです。私もお芝居で大事なシーンのときは分厚いガラスをイメージして、周囲の意識をシャットダウンすることがよくあるんです。とはいえ、亜夜ほど環境や周りに無頓着にはなれなくて、人の視線もすごく気にしてしまうんですけど(苦笑)。

松坂:僕は若干面倒臭そうなころかな。明石は一見穏やかなんですけど、自分は天才だと思っていないのに、他人から言われたらちょっとムッと来る。なんかヘンなスイッチが入るところは若干似ているような気がします。あ、僕が「天才」って言われるってことじゃないですよ(笑)。

こだわりの強い撮影監督の理想を具現化した美術部&照明部に感謝

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ーーあるインタビューで石川慶監督が「心理描写の部分をセリフで表現することは映画的によくないと思っているので、役者さんの演技に託した」とコメントされていたのですが、どのように思われますか?

松坂:えー、それ本当ですか? 今、聞いて良かったです。撮影始まる前に聞かされていたら、すごいプレッシャーになっていました(笑)。でも、僕の場合は家族で過ごす描写も多かったので、その空気感が明石像の核になる部分もありました。

ーー松岡さんはセリフが少ない反面、表情がとても豊かでしたね。

松岡:ありがとうございます。私たち役者がどんなにモノローグを気持ちで埋めようとしても、それを体現しなくてはいけないから限界があるんです。だけど今回は、そこを美術部さんや照明部さんが本当に素晴らしい技術で支えて働き下さいました。どうかMVPをあげて欲しい!

ーーポーランド人の撮影監督ピオトル・ニエミイスキの映像も素晴らしかったです。

松坂:ピオトルは基本ハッピーな方でした。カメラのアングルもすごい所から攻めるんです。一緒にいると、ワクワクして、楽しくて刺激的でした。

松岡:ニュアンスとして「ここ、こうなんだよ」と言っているのはわかるんですけど、英語ですし完全にはわからない。それに彼は自分がこうだと決めたら絶対に譲らなんです。そんな頑固な人が求める絵を作るために、照明部が考え抜いて完璧なものを作り出した。それから、モノローグの部分を埋めているのは美術部の働きが大きくて。この作品には実はファンタジックな演出というのが沢山ある。ピアニストにリアルに迫っているんですけど、心情を描く上で、「こんな空間はないでしょう」と後々ツッコミを入れたくなるような空間も出てくる(笑)。でもピョートルがこういう絵にしたいんだよというのを、美術部さんが深くまで理解していたので、出来上がったものに違和感を感じませんでした。ファンタジーとリアリティの境目を埋めてくれた美術部、欲しい絵を決めてくれた照明部…本当に各部の力に感動しています。

松岡茉優が感動した“天才女優4人が発する空気”

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ーーこの物語では亜夜に明石、そしてマサル(森崎ウィン)、塵(鈴鹿央士)という4人の天才が競い合いますが、いわゆる戦いというよりも海辺を一緒に散策したり、嫉妬など超越した関係性が見えます。同じようなことは役者同士でも成立するんでしょうか?

松坂:あると思います。くやしさや嫉妬心もあるとは思うんですけど、それを超えた、「よくやった」「さすがだね」という気持ちが。

松岡:傑出した才能が出会うという意味で言えば、2年前の東京国際映画祭で、「4人の映画ミューズ」というので、満島ひかりさん、宮﨑あおいさん、安藤サクラさんと蒼井優さん。その4人が同じ円卓に座っているところを見たんです。

松坂:それはすごい空気ですね。

松岡:そう。でも、周りには一切緊張を与えない。あの4人が座っているというのに…。たまに同世代が揃って、一触即発があるんじゃないだろうかと、ひやひやする時があるんですけど、この時は周りを緊張させない空気を4人が放って、それぞれ楽しくおしゃべりしていらっしゃった。だから、きっとそういう特別な次元というのはあるんだと思います。私には無理だけど、その4人だから成立している。天国かと思いました(笑)。感動したな。いつか私も…と思いました。

鈴鹿央士の演技に衝撃「彼の前では嘘つけない」

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ーー鈴鹿央士さんの存在感も素晴らしかったですね。鈴鹿さんのような若い俳優さんを見ると、自分の若い日々を思い出しますか?

松坂:そうですね。彼はセリフを当日、覚えることもできる。今の僕は何日も前から入れないといけない。若いなー(笑)。

松岡:塵くんは縦横無尽にそう来るかというお芝居もあって、本当に驚かされましたよね。塵くんはまるで発光体のようでした。みんなが彼に近寄ってくる。

松坂:本当にまぶしい人でしたよね。何事も新鮮に捉えることができて、何でも楽しんで向き合える。傍で見ていて本当に気持ちがよくって、「俺にもあんな頃、あったかもな」なんて思いましたね(笑)。

松岡:私は、初めて塵くんと二人きりのシーンのリハーサルをしていたんですけど、そのときにセリフが飛んじゃいました。彼があまりにまぶしくて。頭が真っ白になっちゃったんです。

松坂:そんなことがあったんですね!

松岡:セリフを飛ばすなんてびっくりでした。次の言葉が浮かばなくなっちゃったんです。自分でこう演じようと作ってきたものもあったと思うんですけど、それが全部飛んで。本当に彼の前で嘘はつけないぞと思いました(笑)。

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ーー松坂さんにとって、今回の作品はどういうものになりましたか?

松坂:『蜜蜂と遠雷』は僕が30歳になって初めての作品なんです。だから特別なものになりました。とくに今回は家族を持つ役で、そういう役が他でも増えてきている。大きな変化というわけではないですけど、20代後半攻めまくって演じていたときが懐かしく感じます(笑)。

ーー今回、松岡さんは主演として座長を務めることにもなったと思うのですが、聞くところによると、クライマックスの本選シーンでは撮影前に、エキストラの方たちに挨拶をしたとか。

松岡:やっぱり座長として、挨拶をするのは当然のことかなと思い。撮影現場は本当に「ポツンと一軒家」並みの山奥にあるホールだったので、エキストラの方たちにそこまで足を運んでいただいて、長時間の撮影に協力していただいた。だから、「この作品をいい作品にするから、お集りいただいたことを後悔させないように頑張ります」とお話したんです。 でも、座長としては一つ一つのシーンに頭を使い過ぎて、現場の雰囲気づくりという意味では務めを果たせていなかったです。松坂さんに謝ったら、「作品によって、集中しなくてはいけないことがあることも周りはわかっているから大丈夫ですよ」と言われて、その時はとても心がラクになりました。

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テキスト:前田かおり

写真:You Ishii

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