1992年の放送開始から、27年以上に渡り多くの子どもを楽しませ、さらにはその親たちも感動させてきたアニメ「クレヨンしんちゃん」。笑いの絶えないテレビシリーズ、大人も涙する劇場版と、今では無数にある子ども向けアニメの中でも、代表作としてすぐに名が挙がるほどになっている。10月14日からは、主人公・野原しんのすけとともに暮らす愛犬「シロ」が大活躍する「SUPER SHIRO」(1話5分・全48話)の配信も決定した。同作や、「クレヨンしんちゃん」のテレビアニメ・劇場版を多数手がけた湯浅政明総監督、霜山朋久チーフディレクターの2人に、近年話題になるアニメの表現について、本作の魅力について聞いた。
今や海外でも人気を誇っている「クレヨンしんちゃん」は、漫画家の臼井儀人さんによる同名漫画を原作として、1992年4月からアニメがスタート。埼玉県春日部市に住む野原一家の日常を描くホームコメディ作品だ。放送開始当初から原画、脚本、作画監督など、深く携わってきた湯浅監督は、当時をこう語る。
湯浅政明総監督(以下、湯浅) 最初は、あるある感のある子育てギャグ漫画としてスタートしたんですよね。同時期に「ちびまる子ちゃん」もありましたし。いろんな企画に挑戦していましたね。その中にはアクション仮面やぶりぶりざえもん、カンタムロボなどのファンタジーネタも散りばめられていて、本郷監督以下皆が競ってフォーマットを作り出す楽しい現場でした。
この斬新な作品を見て育ったのが霜山朋久チーフディレクター。初期の斬新さは、アニメを作る「中の人」になった今でも、非常に印象深い。
霜山朋久チーフディレクター(以下、霜山)
「クレヨンしんちゃん」のアニメって、初期のころから挑戦的で、いろんなアイディアがあった。今やっている「しんちゃん」の自由さも、初期のころにテレビシリーズや映画で、ずっと新しいことをやり続けてきたからだと思うんです。作り手も、割とむちゃくちゃなことをやっても、許されるというか。見ている人も、作り手も楽しめているのが、長く続いている理由だと思います。
キャラクターの特徴的なしゃべり方、おもしろいポーズなど、初期から視聴者の気になるポイントだらけだったことで、「クレヨンしんちゃん」では、他の作品にはない経験値を積むことができた。
湯浅 これだけ長く続くと、当時子どもだった人が大人になって、その子どもが見たりしている。「SUPER SHIRO」みたいなものを作れるようになったのだから、「クレヨンしんちゃん」は懐が深いというか、しっかりとした題材だなと思いますね。
野原家に住む愛犬シロが、実はスーパーヒーローとして活躍するのが短編アニメシリーズ「SUPER SHIRO」。派手なキャラクターではないシロも、2人にかかればギャップ感満載の、おもしろいスーパーヒーローに仕上がる。
破天荒な企画が盛りだくさんのシリーズ作品であるゆえに、本編で登場する表現についても早い時期から、問題に直面してきたとも言える。
湯浅 昔だったら、それはアニメの世界のことですからと、割り切りがあったように感じるのですが、今は現実とつながっていないといけない空気がありますよね。ヒーローが塀から飛び降りるシーンがあったら、真似をしてしまう子供が現れて、それが問題になってしまうとか。なので、空を飛ぶシーンとかでも、ハーネスとヘルメットをつけますから(笑)絶対に落ちない保証がないといけないのかもしれません。
“架空のおはなし”という前提がなくなってきた時代において、アニメの表現も各方面に配慮しなければいけない。ただ、経験ある2人であれば、対応しながらのアニメ作りも、十分にできる。
湯浅 最初は面食らったこともありましたが、だんだん慣れてきました。今では自分の方から「これは危ないんじゃない」とか、言うようになりましたから(笑)。制限があっても、僕らなら「じゃあこういう風にもできますよ」っていう代案は出すことができるんです。
霜山 中途半端に現実味のある嘘をつく方向じゃなくて、もっと大きく広げて作ってしまおうというのはありますね。『これ、嘘じゃん』って言える絵作りです。子どもって、基本的に暴れん坊なんですよね。それは誰かを傷つけたいわけじゃなくて、ただ単に元気だからそうなるだけで。でも、やっぱり表現として子どもに見せるものは、マネしてほしくないことはやらないようにはしています。子どもらしさの出し方は他にもあると思うので。
今回の「SUPER SHIRO」を作る上でも、テレビではなくWEBでの「配信」ということもあってか、日本だけでなく世界のルールに沿った作りも求められたという。様々な課題をクリアして、野原家の愛犬は、プロフェッショナルたちの力によって世界へ羽ばたく。
(C)臼井儀人/SUPER SHIRO製作委員会