反対の声の中、55万人に恩赦…小林節氏「時代錯誤だ。天皇陛下に成り代わり、総理がお仲間の公選法違反を赦すことになる」
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 政府は18日、天皇陛下が即位を国内外に宣言される「即位礼正殿の儀」に合わせ「恩赦」を実施することを閣議決定した。

 国としてのお祝いや、悲しい出来事があった際に、罪を犯した人々の刑を軽くしたり、刑罰そのものを無効、つまり判決の効力を変更したりする恩赦は、世界各国で行われており、アメリカではオバマ前大統領は恩赦により終身刑の受刑者550人以上を釈放、話題となった。日本では昭和天皇の「大喪の礼」(1989年)の際に1000万人、上皇さまの即位礼正殿の儀(1990年)で250万人、そして直近で両陛下がご結婚された際(1993年)に実施されている。

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 今回、恩赦の対象は軽微な犯罪に限定、自民党の鈴木総務会長は15日の会見で対象が約55万人であるとしているが、「罪を犯したら相応の罰を受けるのが当然では?赦される意味がわからない」「三権分立してなくね」「冤罪なら救済になるけど、犯罪者が恩恵を受けるのは納得いかん」「象徴であるはずの天皇が政治利用されるじゃん」などの疑問の声も多い。こうした意見に対し、法務省は「有罪判決を受けた人にとって更正の励みとなり、再犯防止の効果も期待でき、犯罪のない安全な社会を維持するために重要な役割を果たしている」との声明を出している。

 17日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、慶應大学名誉教授(憲法学)で弁護士の小林節氏に話を聞いた。

■「制度はあるが使わないのが一番良い」

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 恩赦について、憲法では「恩赦は天皇の国事行為と規定」(7条)「内閣の職務として規定」(73条)と定めている。

 小林氏は「そもそも恩赦という言葉には、“大御心”という意味が含まれている。天皇陛下のお気持ちで、まとめて赦してやるということだが、それは時代錯誤だ。神話の世界というか、法の世界の話ではない。また、現憲法下では天皇は象徴であり、天皇の名で政府が実施するということは、総理大臣が天皇陛下に成り代わり、3年前までのお仲間の公職選挙法違反、政治資金規正法違反を赦すということになる。こうした点を自民党の議員や党本部の職員に聞いてみても、あまり深く考えておらず、惰性でやっているように感じる。先例というものは時代状況によって変わっていくものだが、変えようという勇気がないと思う」と話す。

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 「今の日本は民主国家で、三権分立の法治国家だ。国民の代表が国会で“こういうことをしたらこういう犯罪になり、こういう刑罰がついてくる”ということを前もってリストにして皆に見せる。でもやってしまう人に対しては行政の一環として警察が摘発し、検察が起訴する。そして独立した裁判所が判断して個別に刑を決め、法務省に戻ってきて処遇されていく。そうやって世の中を回しているものを突然、せっかくのめでたい天皇の代替わりだからと変えてしまうということだ。メリットはない。政府の文書によれば、3年前までに罰金を食らって、医師・看護師免許や公職選挙の立候補資格などが停止されていた人々について、簡単にいえば“2年早く赦してやる”ということ。また、スピード違反、痴漢、未成年者買春、盗撮の類も赦されるだろう。今回は様々な議論があり、評判が悪そうだからということで、かなり工夫をしてこれまでに比べて対象者を減らしているが、それでも私は納得していない」。

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 実際、共同通信による全国電話世論調査では、今回の恩赦について賛成が24.8%だったのに対し、反対は60.2%に上っている。また、海外に目を向けてみると、アメリカでは大統領と州知事が恩赦権を持っており、先述のとおりオバマ前大統領は過去1700件以上の恩赦を与えている。また、韓国では度々実施されており、朴槿恵政権下では実刑判決を受けた財閥オーナーにも恩赦を与えている。一方、イギリスでは国王が恩赦権を持っているものの、一律の恩赦は1930年代以降行われていない。

 海外では死刑囚さえも恩赦になるケースがあることについて、小林氏は「我々日本人から見れば、アメリカは緻密な国ではなく、急ごしらえの開拓民の世界だ。元々はヨーロッパの王国と喧嘩別れしてできた国なので、王政に付随する恩赦などというものをきちんと受け継いで使えるはずがない。だから法の世界だと割り切って、お友達を許してさよなら、と。韓国も利害関係で同じようなことをしている。政治家によるこのような特権的な使い方は間違っている。逆にイギリスでは形骸化していて、女王が店じまいしたため、ほとんど“抜かずの刀”になっている。制度はあるが使わない。これが一番良い。やはり民度の問題で、世論調査で賛成が30%いなかったということは、これは決まりだ」と述べた。

■「被害者に救いを与えることこそすべきではないか」

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「SNSで情報が流通するようになって、慣例に対して疑問を呈しやすくなっているし、過度に公正さを求める人が増えているという時代状況もある。厳罰化も進む中、“恩赦はけしからん”となるというのは、少し嫌な感じがする。三権分立という中、天皇陛下が即位されたから赦しましょうというだけでは多くの人は納得しないのは確かだ。それでも公正さの保たれた恩赦というものはあり得ると思う。例えば長年にわたって再審が始まらない高齢の死刑囚などは特例的に釈放してもよいのではないか。あるいは大麻が合法化されたとしたら、それまでに逮捕されて服役している人を釈放するといったこともありえるのではないか」と問題提起。

 これに対して小林氏は「死刑に関しては中央更正保護審査会が活動しているし、高裁がコントロールしている。そうしたバランスをとるのは恩赦ではないし、法律を変えればいい。あるいは法務省での処遇を科学的に高めていくことだ。私も弁護士として関わった場合は個別恩赦、特赦あるいは減刑を申請する手伝いはする。だがそれは法務省で行っている個別の処遇に関する行政処分の問題であって、天皇陛下の大御心の問題ではないと思う」とコメント。

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 「ハグ屋」「えろ漫画家」のピクピクン氏は「僕は国民として陛下が好きだ。その陛下の名の下に犯罪者を赦してしまえば、犯罪者は救われても被害者に救われない。お祝いという大義名分なのであれば、むしろ被害者に何らかの救いを与えることこそ、イメージもセンスも良いと思う」と提案。これに対し、小林氏は「全く同感で、専門家である私が教えられたような感じがする」とした上で、「だからこそ、一見して被害者のいない公職選挙法違反や、スピード違反などを対象に選んでいる。ところがスピード違反は全ての人が被害者だと言っていいし、公職選挙法違反も直接ではないが国民が共有する被害であり、国政の根本が疑わしくなるものだ。分かりにくいから、反発がこないからと思っているのだろう」と指摘した。さらにピクピクン氏「僕の職業で言えばモザイク規制を緩くし、カルチャーを発展させるようなものこそが赦しだ。今回、恩赦に賛成した国会議員はきちんと名前を出して言ったのか」と畳み掛けた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:小林氏による解説

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