10月13日東京・両国国技館で開催されたONE Championship「ONE:CENTURY 世紀」で、ONEライト級世界王者・クリスチャン・リー(シンガポール)がザイード・フセイン・アサラナリエフ(トルコ)に3-0判定で勝利。2週間前に急遽、代役出場が決定したONEライト級世界グランプリ決勝戦に勝利し、2本目のベルトを手にした。
青木真也が後継者としてタイトル挑戦者に指名し、期待に応えて5月に「青木越え」を果たした20歳。その類まれな才能の本質が詰まったのが今回の両国大会の決勝だった。
当初ONEライト級世界グランプリ決勝戦として組まれていた試合は、エディ・アルバレス(アメリカ)とアサラナリエフの対戦。2週間前にエディの欠場が決まり駆り出されたのが、ONEライト級世界王者のクリスチャンだった。タイトル保持者が決勝戦の代役というのも異例だが、2週間前の決定という余りにも不利な条件。にも関わらず「正直なところ、他に誰もいなかったから、自分がいくしかなかった」と若き王者はこの試合を受けた。
下馬評もアサラナリエフ有利の声が多かった。準備期間の短さもさることながら、トーナメントを通じて最強との呼び声高かったストライカー。クリスチャンがどこまで通用するかが未知数ということだろう。
1ラウンドこそ、余力のあるアサラナリエフの打撃への警戒心からあっさりテイクダウンされてしまったクリスチャンだが、相手の攻撃を巧みに交わし、ラウンド半ばにはテイクダウンに成功。気がつけばマウントからのパウンド攻撃でアサラナリエフ相手に有利に試合を進める。2ラウンドに入ってもクリスチャンは組んでヒザ攻撃などでダメージを与える一方で、アサラナリエフの強烈な打撃に対して大げさに吹っ飛ぶようなリアクションでダメージを最小限に押さえているように見えた。
決定的な一撃を貰わないが、自分の距離になると左右の強いパンチやヒザをまとめて打ち込み、組合いで主導権を握る。この戦術にアサラナリエフのスタミナが削られて、徐々に勢いや鋭さが失われていった。そして3ラウンド、明らかにガス欠ぎみのアサラナリエフ。クリスチャンは余裕をもって打撃、タックルと試合をリードする。パンチを貰うシーンはあるものの、打撃に対しては必ず組み合い、気がつけば上になりパウンド、ヒジと手数で相手を完全に封じる。
一見消極的に見える戦術だが、攻撃は極めてアグレッシブだ。試合は判定に持ち込まれたが、満場一致でクリスチャン・リーの完勝といえる3ラウンドだった。
クリスチャン・リーというファイターの凄さ、青木は昨年自身のブログでクリスチャンの特徴を次のように挙げている
「彼には予定調和がない。構えて相手を見ての攻防が存在しません。自分が打ったら打ち合わずにタックルや間合いを外す。その中でコンビネーションとして波状攻撃があります。(中略)予定調和がないので、見方によってはかけ逃げのようにも思われるけども、クレバーな戦略です」
この試合で垣間見えたのはアサラナリエフの打撃に打ち合わないクリスチャンの戦術だ。相手が攻撃の際はしなやかにかわすしつつ、タックルを基点に自身の打撃を数多く繰り出す。天性といえる体幹の強さも大きい。打撃戦に持ち込みたいアサラナリエフがタックルで崩されてテイクダウンされる場面や、パンチを放った直後に首相撲から動きを封じられるシーンも見られた。16歳から練習を見てきた青木の発言を元にこの試合を観てみると、クリスチャンの特異性、ニュータイプのMMAファイター像が見えてくる。
この試合で図らずもトーナメント覇者となり、ライト級統一王者となったクリスチャン・リー。次のターゲットに挙げたのは当然ながら欠場した元UFCライト級王者のエディ・アルバレスだ。アルバレスという世界的ビッグネームを倒すことで、クリスチャンの世界戦略も開けてくる。
奇しくも今回の両国大会はONE史上はじめてアメリカのテレビ局で生中継された。同日にはUFCとベラトールの中継があったにも関わらずONE Championshipが殴り込みをかけてきた訳だ。2020年にはアメリカでの大会に向けて着々と準備中だという。
当然ながらクリスチャン・リーも試合後には「次はニューヨークでアルバレスと戦えたら素晴らしい。ハワイでも構わない」と全米進出のメインキャストに立候補する意欲を示している。
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