ラグビー日本代表、躍進の理由に“スクラム教授”の理論も…ブームを一過性のものにしないためには?
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 自国開催のラグビーワールドカップで歴史的な快進撃を見せ、ベスト8という成績を残した日本代表。記者会見での選手たちの言葉には達成感が滲み、4年後の次回大会に向け、さらなる飛躍を誓っていた。

 元日本代表選手で、今大会のアンバサダーを務める伊藤剛臣氏は「ラグビー界に30年以上いるが、日本全体がこれだけラグビー・フィーバーになっているのが未だに信じられない。僕は2度出場したが1度も勝てなかったし、堀江翔太選手が2011年ニュージーランド大会終了後に帰国したとき、記者が2、3人しか来なかったと言っていたが、僕らの時代は本当に

そうだった。視聴率も、行って5%くらいだったのが、今回のスコットランド戦では50%を超えた。本当に現実か」と感慨深げに振り返る。

 日本代表の全試合を取材したノンフィクションライターの石戸諭氏は「ラグビーは実力差が点差に反映するスポーツ。2003年大会では同組だったフランスとスコットランドに対し、はっきり言って手も足も出ない状況だった。それが今回は強かった。スコットランド戦やアイルランド戦も完勝だった」と話す。

■目覚ましい進化を遂げた4年間

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 躍進の理由について伊藤氏は、「やはり2015年からワールドカップでオーストラリアを準優勝させた実績のあるエディー・ジョーンズさんや、世界最高峰のプロ・リーグであるスーパーラグビーで優勝させた実績があるジェイミー・ジョセフさんという世界的な指導者が来てくれたこと。また、外国出身選手たちがチーム強化に役立っている」と説明。

 「前回大会では世界一の練習量を積み、得意なスピードのある連続攻撃を見せ、ボールをキープしながら戦っていた。今回は流行りのオフロードパスやキックパスを取り入れた。これらはフィジカルが強く、前に行く推進力がないと難しいが、決まればトライになりやすい。ミスも多いが、そこにチャレンジし続けた。ジェイミー・ジョセフさんは“ミスを恐れることがミスだ”という精神の人で、選手の中には拒否反応もあったらしいが、挑戦し続けた。ディフェンスでもダブルタックルで相手を後退させたし、ターンオーバーもできていた。また、フォワードのセットプレーも安定していた。ラグビーは取りゲームなので、常にボール争奪戦が行われる。その象徴がスクラムだ。僕らの時代は世界の強豪が相手でも後半20分までは頑張れた。しかしスクラムが劣勢なので、ゲームを支配されてしまい、後半20分からやられてしまっていた。その点が2015年から今年にかけて安定した。だからゲームがマネジメントできる」。

 実際、日本のセットプレー成功数は、スクラムが30回中28回で約93.3%成功。ラインアウトが54回中48回で約88.9%成功というデータがある。

 「僕の同期で、“スクラム教授”と呼ばれている長谷川慎フォワード・コーチが、8人で組むスクラムを徹底した。僕らの頃は、“どうせ押されるなら、組んですぐボールを出す”といった方法だった。そこを長谷川さんは日本人に合った角度だったり、足の位置だったりの細かい所を突き詰めて、8人全体で押すというスクラムを作り上げた。本当に今回の決勝トーナメント進出の立役者だ。まさに頭脳戦で、細かなディテールが100ページくらいあるという。まさに日本独自のスクラムを作り上げた」

 石戸氏も「足の角度なども含め、どうやったら力が全体で伝わるかという組み方を科学的に解明することをやっていて、論文も何本か出ている。ディテールを突き詰めるとスクラムは勝てるということを証明した。相当すごいことだ」と絶賛した。

■実力向上を外国人選手たちが牽引

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 伊藤氏も指摘した、外国人選手たちの活躍。他国出身者を積極的に入れていくようになった背景について、同氏は次のように説明する。

 「1995年南アフリカ大会で、日本代表がニュージーランド相手に17対145で惨敗した。僕はテレビで見ていたが、試合が終わった後に気持ち悪くて嘔吐したくらいだった。僕は次の年に代表に選ばれ、日本ラグビー協会も選手も一丸となって誇りを取り戻そう、やはり世界で勝たなければいけないと戦う中で、1999年、スーパースターの平尾誠二さんが監督になった。ラグビーは国籍主義ではなく所属協会主義なので、その国で3年プレーしていれば代表チームに入れる。その時、日本代表になれる資格のあるいい選手を6人揃えた。今のヘッドコーチのジェイミー・ジョセフさんもその一人だ。あの人が入ってきてから、僕は試合出られなくなった、“ふざけんなよ!”と思ったが、今となっては正解ですね(笑)」。

 「日本人同士の戦いと、日本人対外国人の戦いは全く違う。特にポリネシアンのトンガ、サモア、ニュージーランド、そしてヨーロッパの選手はフィジカルやスピード、身のこなしが日本人とは全然違う。やはり彼らと試合をすることで慣れてくる。特にオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチンが参加、世界で最もレベルが高いと言われるスーパーラグビーに参入したことも大きい。日本人選手はチームメイトの外国人選手に勝たなければいけないということを学んだと思うし、いいところも盗める。2015年のイングランド大会で、2回優勝したことのある南アフリカに勝ったことで、外国人選手がいることへの免疫もできたと思う。一方、日本代表としては“ワンチーム”というスローガンを掲げた。ジェイミー・ジョセフさんが皆に日本の歴史・文化を勉強させたことで、チームに深い絆ができたと思う」。

 韓国・ソウル出身で、元韓国代表の東春氏を父に持つ具智元選手も存在感を示した。大分県佐伯市の中学卒業後、日本文理大付属高校に進学し、拓殖大学卒業後、ホンダで活躍している。具選手は「僕は日本と韓国、両方から応援してもらえて、注目もしてもらえる。それはとてもうれしい」と話している。

 石戸氏は「東春さんは伝説の1番、左プロップの選手で、当時“アジア最強”と言われた前線の選手だ。具選手もスクラムの才能に関しては日本トップクラスと言われていて、前回大会でフォワード・コーチを務めたフランス人のダルマゾさんが惚れ込んで、“何としてもフランスに連れて行きたい”と言ったくらいの選手だ。東春さんから言われたこと。“外国の選手が来たことによって日本人選手のレベルが上がっている”ということ。昔から“日本人をポジションにつけろ”“外国人が多すぎる。本当に日本代表か”などと言われていたが、それは違う。日常的に外国人選手と競争することで、間違いなく日本人選手の技術レベルは上がっている」と指摘した。

■ブームを一過性のものにしないために…Jリーグの経験が参考に?

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 今回の大会でラグビーの魅力に気づき、ファンになった多くの人々。選手たちは今後、その人気を持続させなければならないという課題も口にした。会見で田中史朗選手は「今来ていただいている記者の方々、メディアの方々、そしてファンの方々、この方々を継続して次の2023年まで来て頂けるように、僕たちももっと努力して普及活動もしないといけないし、日本のラグビーが強くなるようにしないといけない」と述べている。

 実際、日本のラグビー界を取り巻く現状は厳しいようだ。協会の決算は過去12年中7年が赤字となっており、財政基盤は不安定だ。また、企業依存になっており、6割のチケットは企業が買っているという。強化・普及の予算も足りないため、7人制ラグビーについては国内で大会がない。さらには急激な人口減少や少子化の影響もある。ラグビーは1チーム15人必要だが、チームが組めず、他のチームと合同で大会に出るというケースもあるという。そこで急浮上しているのが、ラグビーの“プロ化”だ。“新プロ・リーグ”の構想が11月を目安に発表されるようだ。これは2021年秋開幕を予定しているという。今回のワールドカップ開催の12都市を地盤に強固なコミュニティを形成していくという。世界のトップ選手を集め、収益化の高いリーグ、グローバルコンテンツ化を目指すという。

 伊藤氏は「僕が中学生の時にスクールウォーズが放送されていて、高校1年生でラグビーを始めたが、あの頃が競技人口はもっとも多かった」と話す。

 石戸氏も「高校ラグビーの取材もしたが、地方大会などになると合同チームを結成して、とりあえず試合経験をなるべく多くという方針のところも多い。そのため、全国大会である花園に上がってくる学校は限られている。競技の活性化というところでは課題は残る」とした上で、「1998年にサッカー日本代表が初めてワールドカップに出た時に、当時スターだった中田英寿さんが“Jリーグを見に来てください”ということを言っていた。その後、Jリーグはさらに普及に成功して、裾野を広げた。ラグビーも頑張れば大丈夫だと思う。また今回、Jリーグのスタジアムをかなり使っているので、その意味ではJリーグとの連携や、Jリーグの経験から学べることは多い。地域密着はやはり人気が出る。20日の試合後、ニュージーランドでもプレーしてきた田中選手が“今やっと自分が思い描いていた日本にラグビー文化を根付かせる最初の一歩がやっと作れた。それをどう広げていくかが僕たちの課題だ”と言っていた。下の世代は確実に育っているし、今回選ばれる可能性のあった有力な若手もいっぱいいる。彼らが次を担っていく」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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ラグビー日本代表会見ダイジェスト
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