父の通夜の夜、仕出し屋を突然キャンセルし、“通夜ぶるまい”に目玉焼きを出す母。そして、父が残した1冊のノートから作られた思い出の料理が次々と机に並んで行く。最初は戸惑いを覚える子どもたちだが、次第に料理とともに父との時間が蘇り、家族も知らなかった秘密が浮き彫りになっていく……。家族の再生を描く映画『最初の晩餐』が11月1日(金)より全国公開される。仕事に悩み家族との向き合い方もわからない主人公・麟太郎を演じるのは染谷将太。その姉・美也子を戸田恵梨香が演じる。今回AbemaTIMESは、料理を通して家族の秘密と向き合うことになる姉弟を演じた二人にインタビューを実施。現場の様子や自身の家族に対する思いを聞いてきた。
染谷将太が証言!戸田恵梨香の“お姉さん”的一面
二人の父・日登志役に永瀬正敏、義理の母・アキコ役に斉藤由貴、そしてアキコの連れ子で兄のシュン役に窪塚洋介と、錚々たる個性派俳優が一つの家族を演じる本作。初顔合わせは本読みの際(※)。そのときのキャストの印象について染谷は「すごい面白い家族だなと思いました。皆さんがただいて、しゃべるだけで、ドラマになる。すごく撮影が楽しみになりました」と振り返る。戸田も「それぞれパワーが強すぎちゃって、オーバーしてるんじゃないかって思いました(笑)。何がどういう空間になるんだろうってすごく楽しみになりましたし、それぞれのパワーが強すぎて家族に見えないんじゃないかっていう不安もありました。吸引力強めな家族でした」と、その豪華な顔ぶれに不安すら覚えたという。しかし、実際に撮影が始まるといい塩梅で抑えていたといい、「皆さん抜いて抜いて演技をされていて、『あ、そうだよな』って思いました(笑)」と納得したそうだ。
劇中で姉弟そのものといった絡みを見せる二人。どのように関係づくりをしたのだろうか。染谷は戸田に対し「お姉さん感がすごく出ていました(笑)」と語り、「僕はそれに甘えられたら、姉弟という関係が成立するなと思っていました」と戸田の醸し出す雰囲気に乗っかっただけだと語る。しかし、当の戸田は“お姉さん”感など全く意識してなかったそうで、「特に何もしてないです(笑)」と笑う。しかし、話を聞いていくと戸田の“お姉さん”的一面が明らかに。
「戸田さんは、結構いろんなサプリとか薬とか持っているんです。僕がブヨに刺されたときも塗り薬いただいたり、窪塚洋介さんが体調悪かったときに『これ飲んだら良くなりますよ』って飲み薬を渡していた。完全にファーマシー状態でしたね(笑)」(染谷)
この話には戸田も覚えがあるようで「“薬局のお姉さん”みたいになってました(笑)」とにっこり。もしものときのために薬を持ち歩いていると語り、お姉さんらしい頼れる姿をのぞかせた。
「鳥肌が立ちました」染谷将太、過去パートを絶賛
本作は回想シーンも多く、それぞれの子供時代を演じた森七菜(美也子・少女時代)、楽駆(シュン・青年時代)、牧純矢(麟太郎・少年時代)、戸川燎(麟太郎・少年時代)の活躍も目覚ましい。子役から大人への変化はあまりにもナチュラルで、成長過程が見て取れる。どれほどの打ち合わせがあったのだろうと思わされるが、実際には子役たちと顔を合わせたのは本読みのときのみで、二人は完成作を見て過去パートを初めて見たのだという。
染谷は「完成品を見たときに初めて繋がりました。過去パートの力にグッときました。永瀬さん、斉藤さん、お二人と子どもたちが作り出しているあの空気に、自分は鳥肌が立ちました」と絶賛。戸田は「通して観ると、過去も現在も斉藤由貴さん、お母さんが同じようにずっといて。お母さんがこの空間を作ってきたのだなと分かりました。お通夜の最中、3人で抜けて話しているシーンがありましたけど、わたしたちはめちゃくちゃお母さんに甘えてきたんだなと思いました。距離はあるけれど、すごく甘えている。そう感じたときに『これがこの家族なのかも』と気づきました。今まで経験したことのないような不思議な空間でした」と、本作における斉藤の力の大きさを語った。
「毎週土曜夜は餃子」戸田家の鉄板メニューに隠された父の愛
次々と出される母の手料理を食べるたびに、家族として暮らした過去を思い出す二人。チーズ入り目玉焼きは父・日登志が初めて振る舞った手料理、焼き芋は義兄弟の麟太郎とシュンが距離を縮めるきっかけになったおやつ、きのこのピザは山で日登志がシュンのために焼いていた。戸田にも思い出の料理があるといい、そのメニューは「餃子」だ。
「戸田家は毎週土曜の夜が餃子だったんです。わたしたちは『また餃子?』って不満に思っていたんですけど、中学生のときに母のご飯の手伝いをしていたら、父が『家族で作れるんやからええやん。お父さんはこの時間が好きや』って言っていて。コミュニケーション取るために餃子にしていたんだと気づいて、びっくりしました。そんなこと考えていたんだって。いい両親だなと思いました」(戸田)
両親から愛情をたっぷり感じて育ったという戸田だが、今回の出演をきっかけに「“家族”というものがよく分かんなくなっちゃいました」とポツリ。「この作品を通して、いくら家族でも簡単に糸は切れちゃうんだなと思ったので、自分も切れないように向き合い続けなければいけない。諦めないで繋がり続けることが大事」と、コミュニケーション面でも甘えがちになってしまう“家族”の脆さに気づいたそうで、自身の家族についても「守られてきたけど、同時にこっちも守らなければいけない存在だなと思います」と語る。
染谷も「脆い部分もあるのに、固く繋がっているんだなと改めて感じました」と戸田の意見に同意し、自分の家族に対する感情もより豊かになったと告白。「自分は帰るところであり、外に対して背中を押してくれるところであると思っています」と、家族の支えに感謝していた。
(※初顔合わせには、窪塚のみ参加せず。劇中では15年ぶりに麟太郎たちがシュンと会うため、現場でも同じ温度感でいたいと配慮されたという)
テキスト:堤茜子
写真:You Ishii