いわゆる“4マス”(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)ではなく、インターネットだけで情報を発信するネットメディアはどうすれば生き残れるのか。24日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、競争が激化する業界の中、対象的なビジネスモデルで先行する『NewsPicks』の編集長と『BuzzFeed Japan』のオリジナル編集長を招き議論した。
■NewsPicks池田編集長「動画コンテンツは実験フェーズ」
NewsPicksは「経済を、もっと面白く」をミッションに掲げる、経済に特化したネットメディアだ。他社が配信した記事の一部を取り込み、そこにDMM会長の亀山敬司氏やライブドア創業者の堀江貴文氏など、“この人の意見を聞きたい”と思う有名人や専門家が書き込んだコメントする無料部分の“キュレーション”機能を持つ。
「ユーザーは“ミレニアルズ”と言われる30代が多いが、彼らは“スマホネイティブ”だ。時短ニーズも顕著で、情報が溢れすぎている現状に疲れている。その点、NewsPicksは発売日も違う雑誌を買いに書店に行くことなく、ワンプラットフォームで全ての情報が読める。また、“これだけ知っておけば、ざっくりキャッチアップできる”というものを教えて欲しいという潜在的なニーズに対しても、“痒いところに手が届く”というところだ」(池田氏)。
また、有料会員向けのオリジナルのコンテンツにも力を注いできた。わかりやすさを追求するための見せ方にこだわるため、多くのデザイナーやエンジニアを抱え、内製にこだわる。「外の人たちが増えれば増えるほど、情報をシンクロさせるのが大変。本当に細部に宿るものだし、スピーディーにやれるのが内製の強み」(同)。
「動画コンテンツに関しては、どうマネタイズしていくかというビジネスモデル、ユーザーはどのくらいの長さか、ライトに作ったのかで満足するのかという実験のフェーズだ。今作っているのは、ショートドキュメンタリーシリーズ。例えば世間を騒がせているAIの源流は全てカナダのトロントで生まれていて、最初の引き金を引いた人物は未だメディアに出てきていない。その人を突き止めて、実際に会いに行くまでをドキュメンタリーにしている。そういうものに定期的に出会えるという期待感で、お金を毎月払ってくれているユーザーもいる」(池田氏)。
番組の現場では、観覧に来たユーザーたちが出演者のコメントを細かくメモするなど、少しでも多くの学びを得ようする姿が非常に印象的だ。そのため、いわゆる“意識高い系”が好んで見るメディアと言われることもある。慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「ネットのない時代にもあった、普遍的な自己啓発ニーズを捉えていると思う。30代は稼げるようになってきた一方、ステージが変わって伸び悩んだり、人生における師匠のような存在が欲しくなったりするし、いつでも誰でも入手できる情報だと浅く、もう少し強めなメッセージが欲しくなる。そのマーケットに洗練された形で登場したのがNewsPicksだと思う。アクセスすると、成長した感じが得られる」と分析する。
コンテンツに対価を払う根強いファンに支えられ、NewsPicksの広告とサブスクリプションの売上は2017年2Q・6.9億円、2018年・12.5億円、2019年2Q・18.9億円と右肩上がりだ。
「自己啓発的なニーズもさることながら、『東洋経済』など、伝統的な経済誌が深く掘ってきた経済報道をスマホ上で実現しているというところも大きいと思う。私は雑誌の出身なので、読者がお金を払うコンテンツを作っていたという意味では変わらない。ただ、我々は“ピック数”と呼んでいるが、反応が数字としてデイリーで跳ね返ってくる。そして、そこから新しくお金を払ってくれたユーザーさんがどれだけいるかということもわかる。私が入ったのは2016年4月頃、企業・産業報道をやっていたチームが丸ごと移籍するなど、記者も増えたそこから有料会員数が6倍くらいに増えて10万人だ。毎月1500円でこの会員数はすごい数字だと思う。限られた可処分時間の中、お金を払ってでも良質なものがほしいという人が増えている。経済メディアには専門性も求められるので、コアなファンがついてくれる可能性の高い有料課金モデルは非常に適している」(池田氏)。
そんなNewsPicksについて、インターネットメディア協会の藤村厚夫理事は「サブスクリプション、つまり情報の価値を買ってもらうんだという非常に強い意志をお持ちで、“コミュニティー”ということに対する尊敬、価値観を強く持たれている。大胆であり、かつ非常に伝統にも則した王道を行くようなアプローチをされている」と説明。
また、『東洋経済』の山田俊浩編集長も「日本に日経さんというWindowsのような巨人がいて、これが経済メディアを支配していた。しかし、その世界に多様な言論はあったのだろうかと。これが大きく変わりつつある。運営会社のユーザベースは上場企業でもあるので、株価も上げながらどんどん発展していく。私の『東洋経済』とは完全に競合だ。そこで言いたいのは、東洋経済新報社は古い会社だが、アップルだって古い会社なのに復活したではないかと。古い会社も息を吹き返すかもしれないので、一緒に頑張っていこうということだ」と語った。
■BuzzFeed Japan伊藤編集長「“友達目線”を大事にしている」
NewsPicksとは好対照なのが、アメリカ発の「BuzzFeed Japan」だ。他媒体のニュースを転載するキュレーションの機能はなく、全てのコンテンツがオリジナル、しかもそれらを無料で配信している。また、経済分野を専門とするNewsPicksとは異なり、幅広い分野で顧客開拓を行っている。独自の目線で取材する硬質な報道もあれば、今年2月には女性向けの買い物情報に特化した「BuzzFeed Kawaii」を立ち上げた。「何をやっているのか、人によって“ニュースのところだよね”“料理動画のところだよね”と言われたりもする」(オリジナル編集長の伊藤大地氏)。
また、その名の通り、コンテンツをバズらせることに重きを置いている。LGBT問題を、非常にポップな作りの動画で紹介するなど、様々な工夫を凝らす。「今までのメディアは、どうしても“知っている人が知らない人に教えてあげる”という形だった。僕らはそれは止めにして、“友達目線”を大事にしている。その点で、コンビニの商品を紹介することとニュースに優劣はないと考えている。そしてSNS上で話題になるものを作るのがコンセプト。最初に驚きがなければ、無数のTweetの中に埋もれていってしまう。例えば環境問題やごみ問題と言ってしまうとなかなか読まれないので、作る側としては苦しむテーマだが、そこに身近な話題であるタピオカをうまく組み合わせることで、多くの若い方に読んでいただけた。また、ニュースの場合はインパクトも重視している。マイノリティや難病の問題は、どうしても当事者が少ない。それでも埋もれた問題を掘り起こせば気付いていただける。これがすごく大事な仕事だなと思っている」(伊藤氏)
コンテンツが生まれる過程も、既存のメディアとは異なるようだ。「全体の方針としては、“喜びと真実”。このコアは保ちつつ、それぞれが動いている普通の編集部の場合、デスクが“あれやれ、これやれ”と決めて、記者に書かせるパターンが多い。しかし、僕らの場合は経験のあるプロの人たちを連れてきて、それぞれのテーマでボトムアップ型にやってもらっている。そして、タイトルなどコアになるところに関してはチャットツールに投げて、みんなでディスカッション。クリックされたとしても、ガッカリさせてしまえば“BuzzFeedダメじゃん”と思われてしまう。そういうところには気をつけている」(同)。
こうした手法が奏功し、現在の月間閲覧者は3000万人を突破している。前出の藤村氏は「BuzzFeedさんの成功要因はいくつかあるが、一つはネットメディアのカルチャーを知り抜いていることだ。ジャーナリズムに徹した記事も書くし、料理番組を取り込むなど、カルチャーにも色々踏み込んでいく。そういう勇気を持っているというところも含めるとネットメディアらしい」と説明する。
無料にこだわるBuzzFeed Japanにとって、広告費こそが貴重な収入源だ。「僕が問題だと思うのは、インターネット広告費の多くがコンテンツを作っていない(Yahoo!ニュースやニュースアプリなど)プラットフォーム側に行ってしまっているということ。彼らは新聞、テレビや僕たちネットメディアが記事を配信しているからこそ回っている。そこは働きかけていかない部分でもあるし、“Yahoo!ニュースで読んだ”と言われ続けるのではなく、BuzzFeedだから読む、NewsPicksだから読むという何かを持たないといけないと思う。しかし、独自取材を続けながら存続できるメディアは、これから間違いなく少なくなる。しかし、僕らはその1つになりたい。たしかに媒体の存続だけを前提にすれば、売上げから適正な編集部の人数などはすぐにわかってしまう。でも、ちゃんとした組織があるからこそできることもある。僕たちが“無謀だ”とか、“お金や人をかけすぎ”と言われながらも続けているのは、そこにチャレンジしたいという強い思いと、支持してくださっている読者の皆さんがいらっしゃるから、だから僕もBuzzFeedに入ったし、一緒に働きたいと言ってくれる人もいる」と訴えた。
前出の藤村氏も、「チャレンジ精神のある人たちを迎え入れているということだ。新聞社や放送局で活躍され、実力を持っている人たちなどが飛び込んできて、情熱を発揮させる場になっているような気がする」と、対照的に見える2社の共通点を指摘する。今回の番組で、初めて会ったという池田氏と伊藤氏。伊藤氏は「A新聞を取ったらB新聞は取らないという具合に、昔はそこで同業者同士のライバル関係があったと思う。しかしネットメディアはAのサイトを見てすぐにBのサイトに移ることもできる。時間の奪い合いの中、スマホの中で起きていることは昔とは違う感覚で良いライバルだ」と話すと池田氏も賛同、意気投合していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)