「一生、立ち直り途上」田代まさし容疑者が語っていた“答え”と、抜け出せない薬物依存症の恐ろしさ
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 「もう二度と、自分の気持ちは全く薬物に手を出すって気持ちは全くありません」ー。2008年、薬物依存症からの脱却について語っていた田代まさし容疑者。しかし2010年、ふたたびコカインを所持していたとして逮捕され服役。その後は回復支援団体「日本ダルク」の職員として、法務省主催の啓蒙イベントなどにも登壇していた。

 その一つ、2015年7月の講演では、「薬物依存症のマーシーです。おそらく日本で一番有名な依存者です」と笑いを誘いながらも、自分に言い聞かせるように「僕はまだ立ち直っていません。あくまでも“立ち直り途上”です。それが薬物依存という病気です」と語り、「確かに刑務所は薬が使えないし、身体的依存もなくなります。でも、精神的依存は抜けません。刑務所の中でずっと夢を見ていたし、出たら薬をやりたいなってずっと考えていました」「法務省の方たちの前でこんな事を言うのも…。でも、刑務所はあんまし意味ありません。覚醒剤を使ってた人たちが僕のところに来て、“マーシー、今度は俺、捕まんないから”って。そんなような輩ばっかしがいるところでは中々回復は望めない」と、一生続くと言われる治療の過酷さを訴えた。

 その上で田代容疑者は「“田代さん、もう大丈夫ですよね?”っていわれた時も、“いや、ちょっとお約束できません。でも、今日1日やめる、ということを怠らないことは皆さんに約束します”、と言えるように変わりました、今日一日、ということですよ。それが回復に必要。薬物依存に特効薬はないし、回復したとか、立ち直ったということがないんですよ。1日1日、守りつづける。それを重ねていくことしか俺たちには残ってないというか」との“気づき”を明かし、「今ちょうど梅雨時ですけど、梅雨時にアジサイがたくさん咲きますよね。アジサイの花って知ってます?土とかその土壌をかえてやると、花の色が変わるんですよ。それと同じように、俺も違う環境に置かれたら、違う色の花を咲かせられる」「今の田代まさしにできる事、俺にしかできなこと、あるなって。それがこうやって、皆さんにメッセージを届ける事だったり、仲間たちの手助けをすること、それが今の俺に与えられた新しい生き方、そうなんだなって、思えるようになってきました」と聴衆に語りかけていた。

■「“今日くらいいいかな”というのが続いてしまったのでは」

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 この講演の模様を撮影、田代容疑者とも会話を交わしたという8bitNewsの堀潤氏は、「罪を犯した方の復帰についてシェアする場。時折笑いも交えながら、観衆も暖かく登壇者を見守っていた。田代さんも、こうやって公の場で伝えられて良かったと、どこか誇らしげだった。この動画はYouTubeにもアップしていて、コメント欄には応援するメッセージもたくさんついていただけに、凄くショックだ」と振り返る。

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 9月に自助グループの催しで田代容疑者に会ったという、「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」発起人の田中紀子氏は「本当に驚いたのが率直な感想。あの時にはもう再発していたのかなと思うと、気付けることがなかったのかなと思う。おそらく、1日1日やめていく努力の中で、“今日くらいいいかな”というのが何日か続いてしまったのではないか。また、例えばイベントへの出席など、非日常的なことを経験した後にはスリップ(再発)が増えると言われている。仲間のサポートをしようとするのは決して悪いことではないが、自分が安定しているからこそできること。やはりちょっと焦り過ぎてしまったのではないか」との見方を示す。

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 そして、自身も重度のギャンブル依存症だった田中氏は「脳の回路が一度できてしまうと、なかなか抜けないし、何かあるとパッと思い浮かべてしまう。私も仲間に繋がりながらも4年間にわたってやめられなかったので、気持ちはよく分かるし、どのくらいで回復、あるいは使用をやめ続けられるかは人によって様々。1日1日やめ続ける努力については本人の責任だが、それを温かく支援し、チャンスを掴んでほしいと見守るのが私たちの役目だと思う。また、そのための治療の選択肢がもっと多ければいいと思うが、回復施設の設置に反対する運動が起きたり、自助グループのミーティングで会場が借りられなかったりと、社会の偏見やスティグマがある。国に対しては、これを是正することに力を注いでもらえたらと思う」と語った。

■「依存症は失敗しながら治っていくもの」

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 薬物依存症の問題に詳しい筑波大学の原田隆之教授は「ちょっと活動をするのが早過ぎたのではないか。依存症のレベルが浅い人もいるが、田代さんの場合は相当重症だと思う。法務省を始め、色んな団体が有名な田代さんを使ってしまう部分があったと思うし、彼も期待に応えようとして頑張ってしまったのではないか。とても残念なことではあるが、そもそも依存症というのは繰り返す病気のことであって、失敗しながら治っていくもの。治療に意味がないというわけではないと強調したい」と話す。

 「使わないといくら決心していても、使っていた知人、使っていた場所、あるいは気分が落ち込むなど、“引き金”を引いてしまうような環境と薬と結びついてしまう。そういう、記憶として残っているものを消していくような作業になるが、長く使っていればいる程、そこに時間がかかるし、難しい。そして落とし穴があれば繰り返してしまう」。

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 また、再犯防止の観点から、日本の現状について「ほとんどの場合、自らの意思で繰り返しているというよりも、その意思をコントロールできなくなってしまっている。日本は予防という意味では相当成功している国だが、田代さん自身が「一番有名な依存症者だ」と言っていたように、著名人の場合、色々な人が付け込んでくるという特有の難しさもあるかもしれない。そういう側面を考えれば、刑罰だけでは解決しない。確かに刑務所の中でも、私が開発した治療プログラムが実施されているが、科学的には刑務所の中よりも外でやった方が、はるかに効果は上がるもの刑務所では年間400万円くらいの税金が投入されることになるが、外の病院では10万円もかからない。コスト、効果という意味でも、はるかに効率的だ。また、罰することでむしろ再犯率が高くなってしまう事実もある。これも田代さんが言っていたことだが、社会から孤立させず、仲間をつくって治療や予防をすることが効果的だ。薬物依存の人に甘すぎるのではないかと思われるかもしれないが、そういう事実があることも押さえてほしい」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:原田氏、田中氏を交えた議論の様子

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