日本代表が大躍進して盛り上がったラグビーのW杯。爽やかな笑顔と鍛え上げられた肉体で女性ファンを虜にしたのが"ジャッカル姫野”こと姫野和樹だった。
実力と人気を兼ね備えたスター選手の登場は、スポーツの盛り上がりに必要不可欠といっていい。
来年W杯イヤーとなるフットサル界にも新たなスーパースター候補がいる。Fリーグ・シュライカー大阪の加藤未渚実だ。
無名の新人から日本のエースへ
「あの選手は誰だ?」2014-15シーズンのFリーグの優勝チームを決めるプレーオフ。シュライカー大阪とバルドラール浦安の準決勝で勝負を決めたのは、数ヶ月前にFリーグデビューを果たしたばかりのルーキーだった。
同点で迎えたラスト13秒、右サイドでボールを持つと目の前の相手を鮮やかなタッチでかわし、ゴール前にラストパス。決勝点をアシストした。当時のミゲル・ロドリゴ日本代表監督から「最も印象に残った選手」として名前をあげられた選手こそ、加藤未渚実だった。
大学に通いながらプレーしていた加藤の人生は、ここから一気に変わっていく。
切れ味鋭いドリブルと、左足から放つ強烈なシュートでゴール・アシストを量産する。3シーズン目となる2016-17シーズンにはFリーグ優勝、ベスト5、日本代表選出。まさしく飛躍の時を迎えつつあった。
だが、2017年1月、加藤を悲劇が襲った。右足の前十字じん帯損傷――。丸々1シーズンを棒に振ることになった。アスリートにとって怪我はつきものだが、まばゆい輝きが失われてしまうことも少なくはない。加藤のように天才的なボールタッチを武器にする選手ならば、なおさらだ。
加藤未渚実はかつてのようなプレーはできないのではないか――。そんな不安もささやかれる中、加藤はピッチに帰ってきた。怪我をする前よりも強く、賢くなって。
ブルーノ・ガルシア監督が率いる日本代表では、攻撃的な役割を担うアラの常連になっていく。2019年10月、日本代表はW杯出場のための最初の関門に挑んだ。AFCフットサル選手権の出場をかけた東地区予選だ。
7チームが2グループに分かれて3つの出場枠を争う。韓国、マカオとのグループリーグを2連勝すれば、本大会の出場が決まる。まさしく絶対に負けられない戦いで、日本代表を救ったのが加藤だった。
マカオとの第1戦では3ゴール、韓国との第2戦でも3ゴール。2試合連続ハットトリックという大活躍を見せたのだ。マカオには17-2で大勝したものの、韓国との“日韓戦”は1-1で前半を折り返す、緊張感溢れる展開に。
「前半から何本かチャンスがあったので、自分が決めれば勝てると思っていた」
後半2分、右サイドの高い位置のフリーキックを直接ゴールに突き刺す。その3分後には強引に放ったシュートがGKに当たりながらも決まって2点目。第2PKのチャンスも落ち着いてゴールネットを揺らして3点目。
4ゴール中3ゴールを叩き出して勝利に導いた加藤に対して、ブルーノ・ガルシア監督は「よくやってくれた」と賞賛した。
加藤は26歳。30歳以上の選手が多い現在の日本代表の中にあって、貴重な20代選手の1人だ。本人も十分にそれは自覚している。「自分たちの世代がもっともっと引っ張っていかないといけない」。
爽やかなルックスと、人懐っこい笑顔で女性ファンからの人気も高い。実力と人気を兼ね備えたフットサル界のスター候補から目が離せない――。
文・北健一郎(SAL編集部)