サッカーでもフットサルでも、日本においてGKは人気があるポジションとは言えない。
シュートが当たったら痛そう、ミスしたらGKのせいにされる、ゴールに絡めない……そんなイメージがあるからだろう。
だが、フットサル界にはそんな常識を覆す選手がいる。名古屋オーシャンズと日本代表の守護神、関口優志だ。
4年前のリベンジを果たすために
「最高の誕生日になりました」
その日、28歳になったばかりの守護神は、爽やかな笑顔を見せた。関口が誕生日を迎えたのは中国・オルドスでのこと。日本代表の一員として、AFCフットサル選手権の出場権をかけた東地区予選を戦っていた。
2日前に17-2でマカオを下した日本代表は、本大会のチケットをかけて韓国との“日韓戦“を迎えた。そんな重要な試合で、ブルーノ・ガルシア監督が先発起用したのが関口だった。
「韓国戦は先発で行くぞというのは、マカオ戦が終わった段階で言われていた」。ただ、特別な準備はしなかったという。所属クラブの名古屋オーシャンズでは篠田龍馬、日本代表ではピレス・イゴール。関口は自分とはタイプの異なるGKと、1つしかないポジションを争っている。先発で出ることもあれば、控えに回ることもある。先発でも控えでも、常に同じ準備をして臨むのが関口のルーティーンだ。
ブルーノ・ガルシア監督はイゴールではなく、韓国戦で関口を起用した理由について「カウンターになった時のGKからのスローが鍵になると思っていた」と明かした。
関口が最も得意とするのが、相手のシュートをキャッチした後のスローだ。ふわりとスペースに落とすボール、走り込んだ味方の足元を狙ったボールと、あらゆる状況に応じて球種を使い分ける。関口のスローからゴールが生まれることは珍しくない。
フットサルはピッチが狭く人数も少ない分、GKにはサッカー以上にスローやキックの技術が求められる。関口のように「蹴って、投げれて、守れる」と3拍子揃った守護神は、GKの理想像と言っていい。
北海道出身の関口がフットサルに転向したのは高校卒業後。大学でサッカーをするか、フットサルに挑戦するかを迷っている時に、Fリーグのエスポラーダ北海道のセレクションを受けて合格する。
北海道の小野寺隆彦監督は「目先の勝利にこだわるのではなく、優秀な選手に経験を積ませたほうがいい」と19歳の関口を正GKに抜擢した。日本最高峰のリーグでもまれることで、関口は右肩上がりで成長を遂げていく。
突出した才能はミゲル・ロドリゴ監督の目にも留まった。23歳で日本代表にも選出されると、その2年後には正GKのポジションをつかんだ。しかし、関口にとって悪夢ともいえる出来事が起こる。
2016年2月、W杯予選を兼ねたAFCフットサル選手権で5位以内に与えられる出場権を逃してしまったのだ。「史上最強」と呼ばれ、W杯での躍進を期待する声も多かったチームの予選敗退は大きな衝撃を与えた。
「今でも昨日のように悔しさが蘇ってくることがある」
関口にとってこの出来事は決して忘れられないものだ。2017年からはプロチームの名古屋オーシャンズに移籍し、フットサルに専念できる環境で自分を高めてきた。鋼のような肉体と、動物的な反射神経は、さらにパワーアップしている。
「ようやく借りを返す時が来た」
トルクメニスタンで行われる、W杯予選を兼ねたAFCフットサル選手権は来年2月。ただ、関口にはその前にやらなければいけないことがある。名古屋でFリーグ王者という目標を達成すること。その先にあるW杯出場のために、4年前のリベンジを果たすために、関口は戦い続ける。
文・北健一郎(SAL編集部)