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 斎藤工永野金子ノブアキ、映像クリエーター・清水康彦氏による映像制作プロジェクトチーム“チーム万力”の長編映画『MANRIKI』が11月29日(金)より公開。物語は、ファッションモデルの若い女が仕事欲しさに小顔矯正を決意、美容クリニックを営む美しき整顔師に相談しに行くことから始まる…。今回AbemaTIMESは、役者として出演するとともに本作の企画・プロデュースを担当した斎藤工と原作・脚本を担当した永野にインタビュー。本作に込めた思いを聞いてきた。

いきすぎた美意識、己との戦いを続ける女性たち…斎藤工「外国の人にはどう映るのだろう?」

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ーー2016年のTGC(東京ガールズコレクション)で永野さんが若い子たちから感じた違和感を元に作られた作品だと伺いました。

永野:はい。TGCに初めて参加させてもらったとき、舞台袖に小顔マッサージ部屋があったんです。そこで、もともと僕からしたら小顔に見える人たちが、屠殺場の豚みたいに呻いてるんですよね。「ウウゥウゥ…」って。「そこまですんのかい!」って斎藤くんに話をしたところから始まりました。

ーーどういうシチュエーションでお話しをされたんですか?

永野:TGCの後にイケイケな打ち上げがあったんです。でもあまりにもイケイケ過ぎて怖くて、そしたら斎藤くんが別の打ち上げでその会場の別のエリアにいて、「そっちに行きますわ~」って行ったんです。見たことのないようなノリで、そこに逃げるしかないという状況だったんです(笑)。で、行ったら(斎藤サイドは)激シブなノリで。そこで話しました。

ーーストーリーはみなさんで話し合いながら決めていかれたのですか?

永野:それは結構僕と清水監督で話して決めていきました。斎藤くんは“プロデューサー”として見守ってくれていて、どちらかというと自由にさせてくれました。

斎藤:永野さんの高い純度の作品を、永野さんのコントを何度も映像化している清水さんが映像にするということが、今回の僕の一番の目的でした。最初は「小顔矯正」というものがワンフックだったのですが、時間とともに、どんどん永野さんの内側を掘っていくような作業をしてくださって。コンプレックスとかトラウマなどがバネになっている作品だと思うんですけど、作られ方もそれと同じ。僕は、永野さんという芸人さんが世の中からどう見られているかということと、その奥にある本当の、表に出ている部分の何百倍も広がる(永野の)世界に気づいてしまったんです。それは清水監督やこの作品に関わっている人たちもそうだと思います。それを世界に放てるのが映画という一つの表現だと思っていたので、僕も(気持ち・集中力が)途切れなかった。

万力で潰された人が、それを小顔だと思い込んで普通に街に歩いている。それを周りからどう思われているか。本人は満足げである怖さ。あそこは集約されているシーンかなと思います。

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ーー誇張していますけど、実際にもそういうことがありますよね。

斎藤:めちゃくちゃあると思います。実際、TGCにもオムツして最前列に並ぶ女の子たちがいると聞いて。そういう探究心みたいなものは、男性以上に女性の集団心理みたいなもので強まるのかもしれません。特にファッションや美に対するものに。「小顔」とか「纏足」とか、ちょっと無理をしてしまう精神。昨日も北九州のTGCに行って感じました。……あと、ゆきぽよさんが意外と優しかった(笑)。

永野:本当に(笑)。CDももらいました。

斎藤:ゆきぽよさんとみちょぱさん、優しかった。「ぱ」行が入っている人は信頼できるんじゃないかと気づきました。そういう結論は一つ出ました(笑)。 で、話を戻しますけど、ランウェイで、女子ベースの熱狂の先にある狂気を感じました。おそらく残酷なのも男性より女性。周りにどううつるとかじゃない試合をしている人たちが沢山いる。己との戦いというか。滝行みたいに。そんな打たれます?という。「For Me」で戦っている人たち。でも、それは集団がさせている。そういう世界がぎゅっとなったものが、外国の方にはどううつるだろう?と思ったところから『MANRIKI』は作りました。

ーー韓国とかでもすごくウケそうです。

永野:そうなんですよ。ワールドプレミアを韓国でさせていただいて、そこで殴られるのかな?と思ったんですけど、逆でした。めちゃくちゃ盛り上がってくれました。 斎藤:韓国のように、こういう文化が共有できるエリアと、真逆の、「え?なんでそんな美意識があるんだろう?」と文化の違いを感じてくれるエリア。その文化の違いを届けることが映画の役割だと感じています。イランの『別離』(2011)もそうです。サリーをとった夫婦の部屋の中での暮らしなんて、僕らには見えない。そういった半径の狭いところでのリアル、文化の違いを、映画は包み込んだほうが、世界に届くのではないかなと意識して作りました。

ーー合コンのシーンも、“いききった日本”の演出でしたね。

斎藤:そうですね。写されている側だけではなく、写している側のアートワークも、メイドインジャパンの底力として発信したかった。世界戦というものを意識しています。変な話、僕は日本で公開しなくてもいいんじゃないかと今でも思っているくらい。出し惜しみしたいくらい、どうだ!と思うものをまず世界に届けるという順番でやっていけたらと思っています。

「ラッセンの人」と呼ばれ…永野、『MANRIKI』始動で「助かった」

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ーー永野さんの世界観に惚れ込んで、それを世界に発信したいという思いで始まったとのことですが、お互いをリスペクトしあっているところは?その理由は?

斎藤:初めてお会いしたのが芸人さんの色々なネタを見ることができた番組で、永野さんが出ていらしたときに明らかに会場の空気が変わったんです。他の芸人さんは100人が100人、ある方向を目指して向かっているんですけど、永野さんだけは向かっていない。みんな走っていかなきゃ、とマラソンみたいになっているんですけど、永野さんは違う次元の方で、圧倒的な何かがあったんです。復讐みたいな感情も見えましたし(笑)。

永野:ありました。嫌がらせみたいな感情もありました(笑)。

斎藤:その第一印象が忘れられなくて。芸人さんの友達もいるんですけど、彼らに聞くとみんな永野さんをリスペクトしていて。単独ライブに行くと、テレビで見ている永野さんは、本当に氷山の一角の一角に過ぎないということがわかり、素晴らしく好きになってしまった。僕にとって誰よりも信頼できる芸人さんです。

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ーー永野さんも以前「東京に来て初めての友達」と発言されていましたが。

斎藤:(笑)

永野:すぐ見出しになるようなこと言っちゃうんですよね。そういう癖があるんです。

斎藤:目立ちたいみたいな(笑)。

永野:目立ちたいという気持ちが表れた色で売れたというのもあるし、青赤って(笑)。

ーー赤と水色の組み合わせってクールだなと思ってました!

永野:あれ?本当ですか!

斎藤:この服装で今日がっかりでした?

永野:この服も意味を知ってると爆笑ものなんですけど。リンプ・ビズキットって!(※アメリカのミクスチャーバンド)

ーー(笑)永野さんはなぜそんなにも斎藤さんのことを信頼しているのでしょうか?

永野:特にはっきりした理由があるわけではなく、感覚的なものです。一緒にいて気持ちがいい、話があう。「MANRIKIやろう」って話をしたときに、斎藤くんは飲んでなかったんですけど、僕は飲んでいたので、酒の席のノリかなと思っていたんです。でも、翌日も「やろう」っておっしゃってくださって。「ラッセンの人」って呼ばれている時期だったのに、全然違うことで盛り上がれたんです。昔から僕を知っている人以上に知ってるような感じでした。変な話ですけど、『MANRIKI』というプロジェクトが動くことで「助かった」と思いました。「ラッセンの人」だけでは、本当のところが出せないって思ったんです。自分の捨てなければいけないと思っていたところを出せる。しかも映画で出せる。命拾いした感じがしました。

斎藤工「スムーズになりすぎているこの時代に、僕らは引っ掛かりを大事にしている

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ーー今後もチームMANRIKIで生み出していく予定はありますか?

永野:冗談みたいなノリで始まったので、今後も冗談みたいなノリで出てくるかもしれないですね。

ーーこの間のTGCでも気になるネタはありましたか?

永野:ネタは常にあります! 昨日も空港で、飛行機降りて駐車場まで歩いているときに、昔サーファーだったようなスラッとした白髪の初老の男と、その妻みたいな二人がいたんです。僕は、駐車場までいくドアを彼らのために開けていたんです。「通ってください」みたいな感じで。なのに、初老の男はなんのお礼も挨拶もなく……でも、それは僕がゴツかったら、会釈とかしてくれたのかなっていちいち感じてしまうんです。僕が小さかったから……。

斎藤:(永野は)リュックが不自然なくらい大きかったんです。機内持ち込みギリギリくらいの大容量のサイズのものを買われたようなんですけど、中身、全然入ってないです(笑)。

永野:やっぱりデカさを意識してしまいますよね。だから、昨日のTGCのも、マッドマックスにインスパイアされた衣装を着ているんですけど、それもそういう心理が働いています。

ーー(笑)そういう心理だったんですね。でも、斎藤さんもかなり大きく見せる衣装を着ていましたよね。

斎藤:そうですね。僕も肩いったろか、という感じの衣装でした。

永野:我々も知らず知らずのうちに『MANRIKI』の小顔コンプレックスのようなものを表現していましたね。

『MANRIKI』が始まってから、より初老の人のスッといく感じとかが気になってしまう。すごくそこに敏感になってしまっている。俺がその人だったら会釈するよな、俺が筋肉隆々だったら感謝するのかな、とか。その人の中の悲しみを見た気がするんです。

ーーその人の中にはそういう差別があると。

永野:そう。僕は、そういうのを感じがちな人なんです。『MANRIKI』はその負の要素を燃料に燃えたという作品ですね。

斎藤:実は、僕も僕で昨日感じたことがあるんです。普段もう一人ここにいるスタッフさんがいるんですけど……。昨日僕らは日帰りで、時間が結構押してしまったんです。会場から空港まで40分くらいかかるんですけど、もう40分後が搭乗時刻になってしまって。急いで飛行機に乗らないと!という状況で、めちゃくちゃ急いで準備してタクシーに乗り込んで、マネージャーと行こう、という瞬間に、そのスタッフさんがガッと車の前に来て止めて、普段のテンションで「あの、僕は今日ここで、失礼します」と、ゆっくりおっしゃったんです。「実家がこっちの方なので、そのまま残る」と。

永野:え!実家で!?仕事感出されたんですけど!(笑)

一同:(笑)

斎藤:僕らが急いでいるのもわかっている。でも、そのタイミングで伝えたい。そういう彼のエゴというか。僕らのタクシーはその1分くらいのロスのせいで、高速ちょっと飛ばしました(笑)。

一同:(笑)

斎藤:運転手さんも気を遣って飛ばして下さったんですけど、車内3人とも「あいつの挨拶さえなければ」と、共通の思いを抱えていました(笑)。

ーーそういうことが映画には現れているんですね。

永野:そうですね。『MANRIKI』に通じるかもしれない。

斎藤:人間らしいですよね。全てのことがスムーズになりすぎているこの時代に、僕らは引っ掛かりを大事にしている。 永野:見つめちゃうんですよね。あれ?みたいな(笑)。 斎藤:人間だなぁって。(スタッフは)全然伝える必要はなかったはずなんですよ。 永野:でも、斎藤くんは、そこでグッと口ごもっちゃうシーンがたくさんあるんでしょうね。

ーーそれをネタとして表現したり、口にしているから、永野さんのことが好きなのかもしれないですね。

斎藤:そうですね。冷静に考えたら、つっこめばいいと思うんですけど、そんな風に予想外のところで人に犯されたら、唖然。放心(笑)。

永野:僕も、あのサーファーの気持ちも汲んだんですけど、より怒りが増幅したんです。でも、世の中の人は汲まない。なのに、そういう人の方が評価される。でも、僕はそれが嫌なんです。例えば僕が今、この場でドーンと「お前!インタビュー中に!」ってキレたとして、その後に後悔して泣いたりしたら、それが「人間らしい」って評価されるんですよ。斎藤くんみたいに相手のことを汲みながら無口で震えてる人は、「不気味だ」とか言われるんですよ。そんなのは間違っている。『MANRIKI』はそういう人の復讐劇です!

ーー本日は楽しいお話ありがとうございました!

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テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

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