「文在寅が作った軋轢を良い方向にする雰囲気を作ってほしい」「NAVERも日本の企業になるということか?」
ヤフーとLINEによる経営統合交渉のニュースは、LINEの親会社・NAVERがある韓国でも驚きを持って迎えられており、大手メディアも「韓日のIT大企業が経営統合を進めるのは異例のことだ」(ハンギョレ新聞)、「統合でアジア版Googleとなるか」(BizFACT)などと報じている。
日本では「NAVERまとめ」で知られているNAVERだが、人気カメラアプリの「SNOW」も開発、韓国では検索エンジンのシェア78.22%と、Googleの9.96%を大きく引き離す巨大IT企業だ。韓国の就職情報サイト「インクルート」による今年の調査では「大学生が働きたい企業NO.1」にランクインしている。
元日経BP記者で、現在はフリーランス記者の井上理氏は「日本におけるヤフー以上の存在感がある。先進国の中でGoogle以外の検索エンジンがこれだけ使われているのは韓国だけではないか。また、NAVERが作ったサービスには芸能人もすぐに飛びつくし、何をやってもうまくいく」と説明する。
そのNAVERを創業、一代で築き上げた人物が李海珍(イ・ヘジン)氏だ。「アジアで最も注目されている起業家25人」にも選ばれたこともあり、現在は同社のグローバル投資責任者(GIO)を務めている。李氏について井上氏は「韓国メディアにもほとんど登場せず、朝鮮日報でも10年くらい取材ができていない。韓国の記者たちの間でも、“本当に生きているのか”という噂が立つくらいの方だ」と話す。
そんな李氏の取材に成功した数少ない記者の一人である井上氏は「LINEが上場する時に“自分の子どもであるLINEのためなら一肌脱ごう。日本のメディアでは色々な誤解が生まれている。それは私にしか払拭できないので、お応えします”ということでお会いして下さった。とにかく人格者で、ものすごく優しかった」と振り返る。
韓国の中央日報によれば、李氏は日本に滞在して交渉の陣頭指揮を執ったといい、「李氏はNAVERについて“(Googleなど)帝国主義に対抗する企業と評価されたい”と話していた」「米国・中国の巨大ネット企業に対抗するためなら、いくらでも欧州・日本企業と手を握って協力するということ」と報じている。
また、李氏は井上氏によるインタビューの中でも「LINEを本当に独立した大人、一人前の会社にしていくことがNAVERとLINE、お互いの発展のためにもいい」「米国の会社は統一した技術とサービスで世界を統一していく方向性。しかし、国ごとに変えていくような“多様性”が必要だ」といった趣旨の発言をしている。
「これは3年前のインタビューだが、今でも全く同じことを考えていて、それがブレていないからこそ、今回のようなことが起きんだと思う。まず、このままではスマートフォンはAppleとGoogleが、検索はGoogleに世界が統一されてしまう。それは決して悪いことではないが、アジアのプレーヤーとして、それを看過していていいのか、という問題意識が彼にはある。文化はそれぞれの国で違うのに、統一されたサービスやグローバリズムのIT企業によって食われていくことへの危機感がある。そこに対する“多様性”として、アジアの企業が手を組んでいくべきだという考えだ。だから李さん自身はイグジットでお金を得るといった、損得やうま味で考えているわけではないだろう。ただ、顧客基盤は合わせても1億人規模だ。GAFAに対抗というレベルではない。それでも、今行動しなくていつするのか、という一歩を踏み出したという点は評価してもいいと思う」(井上氏)。
また、李氏と食事をしたことがあるという、2ちゃんねる創設者のひろゆき(西村博之)氏は「理系でプログラミングができるので、どうシステムを作るか、事業をどう組み立てるか、ということを純粋にやっていくタイプの、まっとうな人だ。プロモーションで何かするとか、お金を配ってTwitterのフォロワーを増やすというようなタイプではない」と明かした。
■「独禁法の問題も」「本当に対等では物事が進まないのでは」
一部では7月4日に行われたソフトバンクグループの孫正義社長と文在寅大統領との会談がその布石だったとも報じられており、実はこの日、孫社長は以前から親交のあった李氏とも面会していたという。今回の統合交渉とその行く末について、井上氏らはどう見ているのだろうか。
元経産省キャリアの宇佐美典也氏は「霞が関ではソフトバンクをどうやって止めるか、ということが最大のテーマになっていて、財務省も悩んでいる。事業会社がファンドを持って会計を連結でいじくることで税逃れをしているのではないかということが言われているし、金融と事業の分離といった原則の部分がずれ込んでいるのではないかと。やはりソフトバンクは経営がきつい状況なので、お金を回さないといけない。だから株を担保にお金を借りる、株式交換するといったスキームで自転車操業しなければいけないことになっている。今回のことも、もちろん現場がやりたいと言っているという面があるとは思うが、何とかお金を作るために、新しい成長ストーリーを作らなければならない。これで世界を覆すような狙いがあるといったことではないと思う」と厳しい見方を示す。
井上氏は「物事はいつも孫さん起点で始まってしまう。一休の買収の時もそうだし、PayPayのネーミングも、急に“PayPayだ”と言い始める。今回も、ソフトバンクやヤフーは何年もLINEに秋波を送ってはいた。しかし今回はヤフーとLINEの経営陣が水面下で真摯に話し合いをし、“親”を説得した、というのが正しい見方だ。孫さんや李さんは、子どもたちがやっていることを温かく見守り、追認し調整したぐらいの話だ。LINEの3人の経営陣が決断し、李氏もそれを受諾した。よく決断した、よく受諾した、という印象がある」とコメント。
一方、「実はあまり変化は起きないのではないかと思っている。まずはバックエンドのシステムでのコスト削減や、あるいは店舗開拓やプロモーションの部分で共通化してコスト削減を目指すのではないかと思うし、その先にサービスの統合・整理は是々非々で考えていけばいいのではないか。そもそも、ここまでのコングロマリットになると、ほとんどがソフトバンクの息がかかった企業になる。ライドシェアもソフトバンクはウーバー(Uber)を持っていて、グラブ(Grab)も持っている。もうめちゃくちゃだ。どうやってグローバルのポートフォリオを整理するのかというところで、正直整理しきれていない。また、独禁法の問題もある。各国の当局がどう判断するのかに注目している」と指摘した。
ひろゆき氏は「そんなに騒ぐほどのことではない。あまりうまくいっていないもの同士が手をつないだら何とかなるかなという感じだ。QRコード決済が日本では普及せず、PayPayとLINE Payも使われていない。Yahoo! Japanというのは名前の通り、ヤフーのライセンスをもらって日本限定でやっているサービスなので、海外で展開することができない。また、LINEはメッセンジャーツールとしてLINEは便利だが、ではLINEでお金を払っている人がどれだけいるのかというと、LINEショッピングなどがあるがあまり使われていない。東南アジアでは普及しているが、英語圏では全く使われていない。もともとLINEの前身のNHNが韓国の会社で本当はアメリカに行きたかったが、文化的に近い日本でまず成功してニューヨーク証券市場に上場したが、アメリカでは全然勝てないという状況がある。なので、成長することが欧州やアメリカではできないのであれば、日本や韓国などでうまくやるというところで、日本で1番組みやすい相手だったヤフーと組んだというところだろう。その2社がくっついたとしても、所詮は日本の中だけで、GAFAに対抗ということはまずない」と指摘。
「今回の統合は資本上は対等だが、それでは話が進まないことがある。NHNはライブドアを買って、その優秀なスタッフをうまく使った。だから孫さんが“対等だけど、韓国側の言うことをちゃんと聞けよ”とヤフージャパンに言うのであれば、かなり大きな変化を起こして成功する可能性がある。だが本当に対等のままだと、“お互い対等だし、ここはやらない。LINE PayとPayPayも別でやりますか”みたいなことになってしまう可能性がある。そもそもPayPayのシステムはアリペイで、アリババの株主がソフトバンクだ。全部アリペイにした方が世界戦略としては正解だ」。
最後にひろゆき氏は「大きな会社が大きな資本を入れてサービスを広め、ユーザーもみんなが使っているものを使う、という文化が浸透してしまった。この構造はもう変わらないと思う。2000年頃は個人でも面白いものを作れば伸びることがあった。昔からやってきた僕としては、もう物を作っても面白くないよね、という感じがある」とも話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:孫正義の参謀と言われた嶋聡氏が解説!ヤフー×LINE経営統合で見据えるITの未来とは
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