(中指を立てながらのスリーパー。渾身の攻撃でナイトシェイドを攻略していった)
11月16日、東京女子プロレス名古屋大会で、伊藤麻希が“初”づくしの勝利をあげた。この日、伊藤はメインイベントでイギリスのナイトシェイドと対戦。獲得したばかりのインターナショナル・プリンセス王座の初防衛戦だ。
マット界では「ベルトは獲るより守るほうが難しい」とよく言われる。しかもナイトシェイドは大型重量級レスラー。伊藤が感じていた重圧は相当のものだったようだ。チャンピオンとして、メインイベンターとして結果も内容も求められる。今の伊藤は「負けたけどインパクトを残した」という段階の選手ではなくなっているのだ。
「ベルト獲ったら人生勝ち組になるかと思ってたんですけど、実際はコンプレックスで死にそうになるだけ。でもコンプレックスが人を強くするから」
試合後にそう語った伊藤。チャンピオンになっても、結局は自分の能力、実力と向き合い続けるしかなかったということか。ただ、伊藤がメインイベントのタイトルマッチをあくまで伊藤らしく闘ったのは間違いない。
序盤はナイトシェイドのパワーに押されまくった伊藤だが、自身の持ち味も存分に発揮。「世界一可愛いのは?」、「伊藤ちゃん!」のコール&レスポンスから繰り出すナックル連打は2度繰り出した。さらにブレーンバスターを切り返して投げ捨て、背中に飛びついてのスリーパーは中指を立てながら。ネックハンギングボムはカウント2で返し、ダイビングセントーンを自爆させる。かつて“アイドル界一デカい”と言われた顔面を持つ伊藤が、その石頭でナイトシェイドの攻撃をブロックする場面も。
最後はツインテールを振りほどいて頭突き、飛びつきDDT、そしてフライング・ビッグヘッドでフィニッシュ。薄氷の勝利でありつつ、同時に“伊藤の試合”でもあった。メインイベントのタイトルマッチで外国人相手に勝利。しかもインター王座を防衛したのは第3代王者の伊藤が初めてだ。そのすべてが得難い経験となった。
「伊藤は今まで結果が全然出なかったけど、結果が出せた。ベルトがない時のほうが伸び伸びバカやれてたって思うけど、これも経験かな。ベルトを巻いて、自分が見たくないものとかも見なくちゃいけなくなった。毎日苦しいけど、これは成長痛だと思う」
ファンからすれば、伊藤が王者としての自覚と苦しさと手応えを語っている時点で感慨深いのではないか。そして東京女子の“トップの一角”として、彼女は今も成長を続けている。ナイトシェイドには、こんな言葉でエールを贈った。
「初体験の相手はいつまでも覚えてるっていうじゃない。伊藤の初防衛戦処女を奪ったお前のことは忘れないよ。今度はイングランドまで行ってやる」
そして中指を立てるのではなく、小指と小指で再会を誓い合った。対世界、世界進出が伊藤の一大テーマ。来年4月、東京女子のアメリカ大会が開催されることも決まった。
「キューテスト・レボリューションを起こす。その種をアメリカでまきたい。“世界一可愛いのは?”って聞いたら、地球上すべての人が“伊藤ちゃん!”って答えるように」
選手としての視野、スケール感が明らかに巨大化している。この初防衛で、レスラー・伊藤麻希の新章が加速することになった。
文・橋本宗洋