11月22日に開催されたONE Championshipシンガポール大会で、ムエタイ・バンタム級頂上決戦、さらにムエタイ界の「井上尚弥vsドネア」ともいえる一戦が実現。「生きる伝説」が若きチャレンジャーの挑戦を“戦慄の右”で退けてみせた。
33歳のベテラン、ノンオーに挑むのは25歳の新進気鋭のセーマペッチ・フェアテックス。ノンオーはルンピニーで四階級制覇、ラジャダムナンでも戴冠し、今年2月に新設されたONEのムエタイ王者にもなっている。一方セーマペッチはイギリスのムエタイ大会MTGPの王者で、ONEでも3連勝と勢いに乗る。格と実績は明らかにノンオーが上だが、年齢差や置かれた状況はどこか、先日行われたノニト・ドネアと井上尚弥が脳裏をよぎるような組み合わせだ。下馬評でも、やや衰えはじめているノンオーに対し、気鋭のセーマペッチによる“ジャイアントキリング”という声も少なくなかった。
ONEムエタイの最大の特徴はオープンフィンガーグローブで殴り合うことだ。百戦錬磨のムエタイやキックの選手が、薄いオープンフィンガーの一発に沈む場面が何度も繰り返されてきた。この試合でもそんな想定外のシーンが続出することとなる。
1ラウンド、通常ならば両者が距離を測る様子見の展開だが、ノンオーがジャブからロー、ミドルを叩き込む。この強烈なミドルは5月のタイトル戦で日本の「怪物くん」こと鈴木博昭の腕を完全に破壊したことでも印象が強い。セーマペッチも返す刀で1発、2発強いパンチを放つが、ノンオーの強打が目立ちラウンドが終了。
2ラウンド、ノンオーのミドルを軸にした攻撃は続く。セーマペッチも呼応するようにローで反撃に転じるがノンオーのテンポでの攻防。カウンターの打ち合いでもミドルを執拗に打ち込むノンオーだったが一転、コーナー際ではセーマペッチのアゴへ右ストレートを2発、アッパーを連発した。勢いのあるラッシュに加え、一発一発の威力・精度は鋭い。たまらずセーマペッチが前から倒れ込むが、ラウンド終了のゴングに救われた。
すでに大きなダメージを負い後が無くなったセーマペッチだが、3ラウンドに入ると意地をみせパンチの連打やミドルで反撃にでる。諦めずに力を出し切る、タイ人選手の気持ちの強さを象徴するようなシーンだ。一方のノンオーは、少し余裕をみせスウェイでかわし、要所で着実にダメージを積み重ねる。そして4ラウンド、ついにノンオ―の狙い澄ましたノーモーションでの右ストレートがセーマペッチを捉え、マットに沈めた。
タイ人同士の注目カードは、生けるレジェンド・ノンオーの圧勝。33歳限界説を囁かれたベテランが、拳も蹴りも未だ錆びてないことを証明した。ONEムエタイ・キックの全く新しいルールにムエタイのマスターたちが苦労する中、誰も納得する圧倒的な強さでタイトルを防衛した。一方、欧州経由でタイ人の強さを発信してきたセーマペッチは完敗。ONEにおける王者vs王者の残酷な答え合わせの生贄となってしまった。