「この作品を見たら、みんな嫉妬してくれると思います」俳優・成田凌がそう自信をのぞかすのは、『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』などで知られる名匠・周防正行監督と初タッグを組んだ映画『カツベン!』(12月13日より全国公開)だ。本作のテーマは、サイレントのモノクロ映画を独自の“しゃべり”で盛り上げた「活動弁士」、通称“活弁(カツベン)”。今からおよそ100年前、日本で映画が“活動写真”と呼ばれていた時代を舞台に、一流の活動弁士を夢見る青年が、とある小さな町の映画館に流れついたことからすべてが始まるエンターテインメント作品だ。
およそ100人のオーディションから成田を抜擢した周防監督。果たしてその決め手は何だったのか。そして、成田はどのように“カツベン”に変貌したのか。二人に撮影期間を振り返ってもらった。
約100人の候補者から選ばれた成田凌 俳優仲間からの反応は?
ーー監督から見た成田さんの魅力を教えてください。成田さんを抜擢した理由は?
周防監督:本人の前で恥ずかしいな(笑)。最初に会ったときの印象です。ベテランではなく若手の人を選ぶときは、自分が撮影現場で好きになれそうかが大きいんです。今からすれば(成田は)最初は緊張していたんだろうなと思います。
成田:当たり前じゃないですか!(笑)でも僕、(オーディションに)金髪にヒゲで行っていたんですよ。
周防監督:そういう格好だからこそ伝わってくるものがありますよ。最初から活弁の技術で選ぼうとは思っていませんでした。よっぽど滑舌が悪いとかあれば別ですけど(笑)。普通にきちんと声が聞こえていて、あとはもうその人がどれだけ頑張れるか、ということで。だから、あのときの成田くんの緊張感も、僕に好ましくうつったのかもしれない。
ーー何人くらいに会われたんですか?
周防監督:100人くらいですかね。
成田:100人!!でも、他の作品でご一緒した俳優が3人いたんですけど、その方たちも全員受けていました。決まった後で、「俺も受けてた~~!」って聞きました。結構いろんな人に言われました。
ーー周防組への参戦は、かなり羨ましがられたのではないでしょうか。
成田:面白いのが、俳優仲間と飲んでいて、結構酔っ払ってきたときに「実は…」って告白されることが多かったです。みんな、めちゃくちゃやりたかったんだと思います。でも、この作品を見たら、みんな嫉妬してくれると思います(笑)。
周防監督:でもね、オーディションはわからないんですよ。そのときのちょっとしたことで落ちたり受かったりする。成田さんの将来性を見て選んだわけじゃない。この映画にとっていいか、悪いかを考えて決めた。違う意味で、この人面白い、と思った人は何人かいるんです。でも、この映画にって考えたときに、違うかなと思いました。
成田さんを選ぶことに一番引っかかっていたのは身長ですから。大正時代の人にしては高すぎる。当時の日本人はもっと低かった。成田さん、もう10センチ低かったらな……なんて思ったりしました。でも、大正時代だからといって全員が全員低いわけではないだろうと。そこは気にせず、キャラクター優先で行こうと決めたんです。
成田:そのことで「お前電信柱みたいなやつだな」っていうセリフは増えましたね。
周防監督:脚本家が、どうしてもどこかで一言言わせたいって(笑)。
成田:最初の方に回収しておきたいって(笑)。
周防監督:大正時代にこんな身長の人がいたら奇異な目で見られたと思いますよ。
成田:竹中(直人)さんがわざわざ僕を高いところから下ろして、自分が高いところを歩くみたいなシーンもありましたよね。
周防監督:目線を合わせようとね。あれは背が高いからこそ生まれた演出ですね。
ーーそれでまた面白くなるんですね。ヒロインの黒島結菜さんのキャスティングは?
周防監督:アイドルに憧れてその世界に飛び込んで、「今私活躍できている!嬉しい!」、そういう素直な喜びを感じない子。黒島さんは「私はここにいていいのだろうか」「女優という仕事は私がすべき仕事なのかしら」とか、そういう不安や躊躇を感じる子だったんです。本人に聞いたら、全然違うかもしれないけど、僕からはそう見えた(笑)。もちろん可愛くて綺麗だというのはあります。今回のヒロインは、なるべく綺麗でキュートで、でも少し陰がある方がいいと思っていた。黒島さんは満面の笑みをたたえた明るい子には見えなかった。どこか不安気で、それが梅子というキャラクターに合うように見えました。
ーーすごく梅子に合っていましたね。みなさん、今まで見たことないキャスティングなのにハマっていました。
成田:竹野内(豊)さんも今まで僕の中ではないイメージの役でした。「イテー!」とか叫んでましたし(笑)。
周防監督:とにかく楽しい映画にしたいというのがあったので、出てくれた役者さんの姿が生き生きと映るというのを意識しました。全員に見せ場がある。映写技師役の成河さんが映写機を足で回した姿を見たときに、本当にできるんだ!って、みんな拍手でした。もちろん台本にはあったんですけど、まさかあんな風にできるとは。フィルムをつなぐ手つきも、撮影現場のスタッフが「本物みたい」って驚いていました。
竹野内さんだって、何も指定せず「ちょっとやってみましょうか」って動いてもらったら、意外にもお茶目に来たので、それに乗っかってその方向で演出しました。面白い人にしようとアイデアを出していったんです。ベースは竹野内さんが台本を読んで考えてこられたキャラクターなんです。
成田:音尾(琢真)さんも、台本だけ読んだら怖いキャラクターなのに、実際見たらかわいいが勝っちゃう。
周防監督:音尾さんのことはスタッフみんな同情していました。気の毒だって(笑)。
成田:やることなすこと全て失敗しちゃう(笑)。
周防監督:みなさん、そんな風にやってくれるんだって感動しました。井上真央さんだって、やってくれるかなーと思いながらオファーしたんですけど、遊び心たっぷりに楽しく演じてくれたと思います。
周防監督、成田凌の活弁っぷりは「想像を超えました」
ーーなんといっても本作は、成田さんの活弁ぶりも素晴らしかったです。どのように習得されたのでしょうか?
成田:最初の1、2ヶ月の監督やプロデューサーの皆さんの不安そうな顔は本当に怖かったです。プレッシャーがすごくありました。大丈夫かな、できるようになるのかな、ってくらいゼロからのスタートでした。
ーー最初はどのように?
成田:「とりあえずやってみて」って言われるんです。
周防監督:日本の伝統芸能のやり方ですね。師匠が「とりあえずやってみて」。
成田:それで師匠のを見て。僕が師事した坂本頼光さんという方が、感覚的に教えてくれました。そのやり方に救われる部分がたくさんあって、僕に合っている師匠でした。
ーーそれはどういう意味で?
成田:それも感覚的になっちゃうんですけど、お互いうまく伝えられないけど「なんかここが!」というところがあって、言葉にしちゃうとそれが狭まってしまう可能性がある。すごく僕を尊重してくれた。で、(同じく活動弁士役の)高良健吾さんが教えてもらったのは別の方だったんですけど、一緒に練習しましょうってなったときに、全然違くて。これは面白い!と思いました。
周防監督:高良さんと成田さんの弁士としてのキャラクターを全く別のものにしたかったので、最初から指導者を変えることにしていたんです。坂本頼光さんはお笑い芸人的な一面もある人で、やんちゃでお茶目な感じ、自由奔放で天才肌。かたや、片岡一郎さんは学識派。サイレント映画史をしっかり調べてらっしゃいますし、サイレント映画に関わるものを収集したりしている。きちっとやる方。だから大正時代のコテコテの凝り固まった活動弁士役の高良(健吾)さんを教えていただいた。 日本の芸能は本当に師匠に似るんです。共通に使えるメソッドがないので、「俺の喋りを聞いとけ」と習うから似る。そういう教え方しかできないから。面白いですよね。
ーー成田さんの活弁っぷりは想像した通りのものでしたか?
周防監督:想像を超えました。現場で聞いたときに、「これは活弁については何も言わなくていいな。それ以外の演出をすればいいな」と思いました。僕の映画は役者が訓練しなければいけないことが多い。でも、やるもんだと思っていますし、やってくれるんですよね。ありがたいです。
ーー高良さんと練習で会ったときにライバル心みたいなものは芽生えたりしましたか?
成田:「あ~そういうスタイルね~」みたいなものは思います(笑)。タイプが違うとそうなるんでしょうね。ただ、高良さんは声がものすごく美しいので感動しました。女の人の声をやっても素晴らしい。女役の声がそのときの僕の課題だったんです。半年間、禁煙しました。変わらなかったら吸ってしまおうと思ったんですけど、ちょっとでも変わる可能性が見えたので。もう本当にちょっとですけど、高い声が出るようになった。それでだいぶ変わるんです。もちろんボイストレーナーの先生のおかげでもあります。
ーー声作り以外にも苦労した点はありましたか?
成田:「アクションシーンがいっぱいあったね」とか言われてもそれを思い出せないくらい活弁が大変でした。でも、監督が井上真央さんに「とろけるようなキスをしてください」って演出していて、そのシーンは印象に残っています(笑)。
ーーキャラクター的にその誘惑に乗ってはいけないですもんね。
成田:ダメです!(笑)でも、そのくらい敵と言われる方たちもみなさん、とても魅力的でした。 あ!一番大変だったのは、竹中さんが笑わせてくることですね。竹中さんが写っていないカメラの横でふざけるんですよ。こっちはすごい我慢しているんですけど、「ちょっと今笑ってたからもう1回」って監督に怒られるんです。
ーー竹中さんはいつもそういう感じなんですか?
周防監督:そうです。最初に竹中さんと仕事したときに、僕が笑っちゃうから、本番ではその場にいなかったんですよ(笑)。後でチェックしたという。
成田:竹中さんの笑いを我慢するのは活弁と同じくらい大変ですね(笑)。
ーーいろんな意味で大変な現場だったんですね。今日は楽しいお話ありがとうございました。
テキスト:堤茜子
写真:You Ishii
(c)2019 「カツベン!」製作委員会
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