DDT恒例のシングルリーグ戦『D王グランプリ』開幕戦の横浜ラジアントホール大会(11月29日)でメインを務めたのは、HARASHIMAと坂口征夫だった。現KO-D無差別級王者、団体のトップを張るHARASHIMAが初優勝に向けどんなスタートを切るか。それが基本的なテーマだったが、この顔合わせには独自の見どころもあった。両者の寝技だ。
坂口はもともと総合格闘技(パンクラス)で世に出たファイター。普段の試合でも蹴りやサブミッションを武器にしているが、HARASHIMAとの対戦では特にそれが“全開”になる。隠している引き出しをあけてくることもある。
一方のHARASHIMAは学生プロレス出身だが、その当時から総合の練習にも取り組んできた。プロレスならではの大技を使いこなしながら、序盤に見せるニーオンザベリーやガードポジションからの展開も密かな“見せ場”になっている。青木真也との試合でも関節技で張り合い、DDTの道場でファン向けに格闘技セミナーを実施することも。HARASHIMAと坂口は、DDTにおいて他の選手とはできない攻防を見せることができる、特別なライバル関係と言える。
今回の試合も坂口がイマナリロールの要領で足に絡みつき、抑え込んで変形のノースサウスチョーク、アナコンダチョークを狙うなど前半はひたすらグラウンドのしのぎ合い。HARASHIMAもクロスヒールホールドを繰り出し、またヒザを滑らせるパスガードなど手順を省かない丁寧な闘いを見せた。前半の7~8分、没頭するかのように寝技で競い合ったHARASHIMAと坂口。中盤、ミドルキックの蹴り合いから展開が激しくなり、最後はHARASHIMAが必殺技・蒼魔刀で3カウントを奪った。
(HARASHIMAのクロスヒールホールド。前半はグラウンドでの技術戦が展開された)
試合後の坂口は「自分の闘いができたから満足いってる。勝ち負けにはこだわんなきゃダメなんだけど、それ抜きにして今日は満足。DDTにはない試合が見せられた」とコメント。やはり充実した一戦だったようだ。勝ったHARASHIMAも「勝ちたいけれども試したいこともあって。坂口さんとやるとお互いが磨いてる技術を競い合いたくなっちゃう。いろんな部分で楽しんじゃいましたね。今はああいうレスリングというかグラウンドをやらない風潮があるんで。そこはしっかりした部分で(見せたかった)」と語っている。勝ち負けを超えた部分での“相思相愛”だ。
観客は2人の寝技を、固唾を飲んで見守っていた。その技術や戦略が100%伝わっていたわけではないだろうが、自分たちだからできる闘いにのめり込んでいることは分かったはずだ。
HARASHIMA自身も言ったように、今のプロレスに対して「派手な技ばかり」、「闘いがない」、「基本がおろそかになっていないか」といった批判は付き物だ。これが10年前でも20年前でも同じで、常に古参から批判されるのが“今”の宿命かもしれない。DDTは特に冷笑されがちな団体だ。だがそのDDTで、現代ならではの技術を使った寝技合戦が披露されることもある。プロレスファンは「もう一つのDDT」の実力と面白さも、知っておいて損はない。
文・橋本宗洋