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(HARASHIMAにスライディングDを打ち込もうとする田中)

 他団体からの“大物参戦”が他の試合より目立つのは当然と言えば当然なのだが、それにしても圧倒的だった。DDTのリーグ戦・D王グランプリの公式戦Bブロック。無敗で決勝進出を決めたのはプロレスリングZERO1所属の田中将斗だった。

 田中は46歳、キャリア26年のベテランだ。FMWでデビューするとアメリカのECWでタイトル奪取。テーブルクラッシュダイブなどハードコア・スタイルは今も得意中の得意であり、新日本プロレスのNEVER無差別級初代王者も田中だ。

 1973年生まれ。年齢的にはアラフィフになるが衰えた様子はまったくない。D王リーグ戦でも高尾蒼馬との開幕戦を皮切りに5連勝。12.15原宿大会の最終戦では、現KO-D無差別級王者のHARASHIMAと30分時間切れ引き分けの熱戦を展開した。出場選手中最年長にして、無敗のトップ通過である。

 しかも田中は“ベテランらしいインサイドワーク”で勝つタイプではない。主武器はエルボーとラリアット。ひたすら打撃を叩き込み、場外戦でペースを奪取、コーナーからスーパーフライ(フロッグスプラッシュ)を投下して、最後は走り込んでのエルボー「スライディングD」で決める。“弾丸戦士”のキャッチフレーズそのまま、自らの肉体を酷使する真っ向勝負こそが田中の真骨頂なのだ。

 なおかつ、HARASHIMAと30分闘い切った後に「まだやれると感じた」というのだから恐るべきアラフィフだ。HARASHIMA、それに12月28日の決勝戦を争う遠藤哲也は、田中の強みとして「コンディション」を挙げた。

 実際、田中は何もかも昔のままで闘っているわけではない。真っ向勝負を貫きながら、モデルチェンジも果たしているのだ。

「余計な肉をそぎ落として、スタミナとスピードが今の自分の武器になってますね」

 ケガ対策もあって練習の中で走り込みの量を増やし“デカさ”よりもスピードとスタミナを取った。結果、田中の打撃には鋭さが増したと言ってもいい。打撃主体、スライディングDをフィニッシュとする闘いは「持ち上げられないくらい大きい相手でも仕留められる」という理に適ったスタイルでもあるそうだ。

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(決勝で対戦する遠藤と睨み合う。マイクでの挑発にあえて乗る余裕も)

 肉体改造に着手したのは10数年前から。練習と自己管理には自負がある。D王決勝に向け「インフルエンザの予防接種も受けてきた」とぬかりがない。

「他団体を見れば、鈴木みのる選手や杉浦貴選手のように、自分より年上の選手が凄い試合をしてますから。自分もやらなきゃなって思いますよ。確かに、今は若い選手が台頭してます。それを認めているからこそ負けたくない。負けるつもりもないですしね」

 12.28後楽園ホール大会は、DDTの年間最終戦となる。

「そこでよそから来た自分が優勝したら、DDT的にはバッドエンド。でも自分にとってはこんなに気持ちいいことはない」

 まずは決勝戦に集中するというものの、勝てばHARASHIMAとのベルトをかけた決着戦も見えてくる。田中の野望はそれだけではない。

「DDTでもっといろんなものを体感したい。男色(ディーノ)さんもいるし女子との対戦もあるのがDDT。リーグ戦では味わえないものもある」

 遠藤からはユニット「DAMNATION」に勧誘されたが「俺をトップにするんだったら入ってやるよ」と余裕の返し。

「いろんな団体で若い選手がトップに立って、年配の選手を下に見てるのかもしれないけど、俺は他の選手とは違うぞ」

 迫力のマイクで遠藤を威圧しつつ、2日後の記者会見では「DAMNATIONの看板持ち? どんな感じでやればいいの。いいおカネくれるんならやりますよ」と“ネタ挑発”に乗っかってみせた。

 試合、マイク、会見。リーグ戦に加えて“文化系プロレス”でも。田中はあらゆる面でDDTを味わい、そして飲み込もうとしているようにも見える。アメリカマットも『ハッスル』も体験している田中だけに、DDTに臆するところなどまったくない。

文・橋本宗洋

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