“万歳三唱” 3人殺傷の被告が望んだ通りの判決に、さらなる厳罰求める声も…死刑に意味はあるのか
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 東海道新幹線の車内で女性2人になたで切り付け、止めに入った男性を殺害した小島一朗被告の裁判員裁判で、横浜地裁小田原支部は18日、無期懲役の判決を言い渡した。

 公判中、「3人を殺したら死刑、2人殺したら無期懲役、1人殺して他が重傷なら無期懲役になれると思っていた」「私は自分の命が惜しくてたまらない」「懲役で有期刑になれば出所後に必ず人を殺す。更生されることは全くない」などと主張し、無期懲役を主張してきた小島被告。判決を聞くや、法廷で「控訴はしません。万歳三唱します。万歳、万歳、万歳」と大きな声で万歳三唱した。

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 一連の小島被告の言動と、その“望み通り”の判決に、ネット上には、「刑務所出たらまた人を殺すと言ってるんだから、死刑にしろよ」「無期懲役が目的のやつに無期懲役の判決を出すって、コントかよ」「税金でぬくぬく刑務所生活して、被害者はただただ無念」と、日本の司法制度を疑問視する声も少なくない。

 2008年に茨城県土浦市で男性を殺害、その4日後に通行人8人を次々と切り付けて1人を殺害、7人に重軽傷を負わせ、後に刑が執行された元死刑囚は「自殺は痛いから嫌だった。人をたくさん殺せば死刑になれると思った」と犯行の動機を明らかにしている。

 このような犯罪に対し、社会はどう対処すればいいのか。また、死刑の基準、そして死刑制度の是非について、AbemaTV『AbemaaPrime』が議論した。

■「何のためにそういうことを言っているのか、何をしたいのかを考えたい」

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 小島被告が意識していたと思われるのが、死刑の判断基準である「永山基準」だ。1983年連続4人射殺事件の永山則夫元死刑囚への最高裁での判決で初めて示された9項目で、(1)犯罪の性質(2)動機、計画性など(3)殺害方法の残虐性など(4)殺害被害者数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)犯行後の情状からなる。

 横浜地裁小田原支部の無期懲役判決について、「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」事務局長を務める高橋正人弁護士は「被告は未成年ではない。自らの言葉に責任を持つべきだ。だから“死刑になりたくない、無期懲役になりたい。でも出てくれば人を殺す”という言葉を変に曲解、忖度する必要は全くないし、その通り受け止めるべきだ。そして、“自分には更生の可能性はない”とも言っている。そういう人間に更生の可能性はないと思う」との見方を示す。

 「私はそもそも、検察官が死刑を求刑しなかったことに非常に大きな問題があると思う。検察官が無期を求刑しているのに対し、裁判官が死刑判決を言い出すというのはなかなか勇気がいることだ。永山基準で最も重要なのは、9つの要素を踏まえた上で、犯罪予防のためにやむを得ない場合には死刑にする、ということだ。無期懲役でも仮釈放の制度があるし、被告が再び罪を犯すと言っている以上、検察官が死刑を求刑しなければおかしい事案だった。被告が再び人を殺めた時に、誰が責任を取るのか。死刑を求刑しなかった検察官、あるいは死刑判決を出さなかった裁判官は責任を取らない。それなら、どうやって国民は自分の身を守るのかという話になる。仕返しや復讐が蔓延すれば社会が乱れるからこそ、我々は国家に処罰の代行を委ねている」。

 高橋弁護士が懸念する「仮釈放」は、刑法上、無期懲役に対して認められており、法務省のデータによれば、平均在所期間は約32年、1800人の受刑者の中で、仮釈放が許可される者は例年10人程度だという。「審査は厳しいが、あたかも更生したかのようなふりをすれば、過去の言動とは関係なく出所させざるを得ない」(高橋弁護士)。

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 深澤諭史弁護士は「通常は、ムカついたから、うらみがあるから人を殺す。しかし被告の場合は無期懲役になるために人を殺している。動機としては異常だし、恐ろしいことを言っている。人間が人を殺すのはすごく大変なことで、殺せと言われてもそう簡単に殺せるものではない。それを、手段として実行したことにも恐ろしいものを感じる。了解不可能な発言もしているので、裁判官、裁判員も非常に苦悩しただろうし、弁護人にも大変な苦労があったと思う。非常に難しい事件ではあった」と指摘。

 その上で、「永山基準は大いに有効な尺度だが、“読み方”の問題がある。刑罰というのは、あくまでもやった行為に対して科せられるもの。反省していないことが罪なのではなく、反省しないといけないことをやったことが罪だからだ。ただ、9つの要素が並列になっているので、たくさん殺していてもしっかり反省していれば死刑は免れるのか、あるいは1人も殺せなくて殺人未遂でも情状が悪ければ死刑なのかという議論が出てくる。それは誤解で、やはり最も重要なのは殺害した人数だ。また、求刑というのは法律の適用に関する検察官の意見であって、裁判所はそれに拘束されない。したがって、無期懲役の求刑に対して死刑判決を出すということは法的には可能で、多少の判例もある。例えば、アスペルガー症候群の被告人が殺人を犯した事件の裁判員裁判では、受け入れ先が十分にないので、なるべく長く刑務所に入れておくのが健全な社会常識だと判決文に書かれた。私はそれを読んで驚いたが、それで求刑を超えた判決が出た。ただ、それは高等裁判所で取り消された」と説明した。

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 死刑制度に関する取材を重ねてきた作家・映画監督の森達也・明治大学特任教授は「被告の言葉をどこまで真に受けるべきなのか。真に受ければ、本当にこいつは許せない、ふざけるなという意見が出てくるのは分かる。もしかすると“炎上している、しめしめ”と思っているのかもしれないが、やはり社会の側は同じ土俵に立つことなく、万歳三唱をしたり、“自分の命が惜しくてたまらない”と言葉にしたりすることについて、考えることを優先させた方が良いのではないか」と提言する。

 「どんな事件でも特異性と普遍性があると思う。しかし、事件が注目されればされるほど、メディアは特異性を強調する。いかに異常な人間か、いかに異常な犯人か、いかに異常な事件か。その方が視聴率も上がるし、部数も伸びるので、ある意味では仕方がない。しかし、普遍性も大事だ。何が自分たちと違うのか、どの部分が自分と重なるのかを考えないといけない。こういう主張をすることが、加害者に寄り添っていると見られると承知の上で、言い続けないといけない。例えば附属池田小事件を起こし、法廷でさんざん遺族に毒づいた宅間守元死刑囚の言動に近いものがある。死刑になりたいと言ったり、やっぱりなりたくないと言ったりと、不安定ではあったが、自分を悪く見せることに必死になっていた気がする。死刑執行の後に弁護士に聞いた話だが、実は遺族の話を法廷で聞いて、こっそり泣いていたらしい。そのことを弁護士が新聞記者に話してしまったため、記事になった。そし、それを読んで激昂した宅間元死刑囚に、“絶対そんなことは言うな”と詰め寄られたという。つまり、必死に自分が外道かということを強調したいという状態にあったと思う。その理由の深いところは分からないが、人にそういう瞬間があるのであれば、司法手続きは粛々と進めながらも、何のためにそういうことを言っているのか、何をしたいのかを考えたい」。

■「死刑囚とはどんな人たちなのか、死刑制度とはどんなものなのかを知るところから」

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 2014年11月に内閣府が行った世論調査によれば、“被害者や家族の気持ちがおさまらない”“凶悪犯罪は命で償うべき”“再犯の可能性がある”といった理由から、「死刑の存置はやむを得ない」と答えた人が80.3%に上り、“冤罪になったら取り返しがつかない”“生かして償うべき”“国家でも人を殺すことは許されない”と理由から「廃止すべき」と答えた人の9.7%を圧倒している。 世界的には死刑制度廃止の流れがあり、2018年12月31日時点で法律上・事実上廃止した国は142カ国、存続しているのは56カ国だ。

 死刑制度賛成の立場を取る高橋弁護士氏は「死刑制度については被害者の利益を最初に考えるべきであって、犯罪抑止ということはあまり重視すべきではないと思っている。というのも、事件の最大の当事者は加害者と被害者であって、刑事司法手続きの目的の一つは被害者の被害回復だ。加害者は“生きて償いたい”と言うかもしれないが、被害者からすれば、生きて償ったとしても亡くなった方は帰ってはこない。だからこそ、“死んで償ってくれ”と言う。そして死刑が執行されて初めて、被害者遺族の中から加害者の映像が消え、回復の第一歩が始まる」と説明。

 「よく“死刑制度廃止が世界の流れ”と言われるが、アメリカがバグダディを殺しに行ったように、正当防衛でなくても“現場射殺”するのが世界の潮流だ。日本の場合、どんなに警官が殺される危機にあろうが、とにかく生きて捕まえ、適正な手続きで裁判を行い、本当にやむを得ない場合のみ死刑にしている。むしろ、これだけ加害者の命を大切にしている国は欧米にはないし、そのことは誇っていいと思っている。一部の弁護士会のアンケート調査や、私が話を聞く感触からすれば、弁護士の中でも絶対廃止は3分の1、賛成は3分の1、そもそもどちらともいえないが3分の1くらいに分かれると思っている」。

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 一方、死刑制度には問題があるとの立場を取る深澤弁護士は「補足しておきたいのは、特に先進国で死刑廃止している国も多いが、ほとんどが廃止時点では死刑の支持率が過半数を超えていて、一部のリーダーが頑張って廃止したそういう歴史があるということは前提知識として持っておいた方が良い。そして、私は犯罪抑止を重視したいと思っている。なぜかといえば、被害者も被害者遺族も、一番の望みは“殺されなければ良かった”であって、“犯人が死刑になること”ではないからだ。そして、代わりに何万人を生贄にしたところで、1人だって被害者は帰ってこない。悲劇を防ぐためにも、どういう社会を作ればいいのか、そのための抑止力としての刑罰はどうあるべきかを重視すべき」と反論。

 「私は弁護士になって10年弱だが、司法修習の時に被疑者の取り調べをさせてもらって、本当に衝撃を受けた。そこには自分と全く違う世界があった。生まれた時から不幸な境遇だったり、社会に居場所がなかったりする中でボタンの掛け違いが続き、犯罪者になったという被疑者たちがいた。もちろん、どんな環境であっても犯罪をせずに生きている人がほとんどである以上、彼等を正当化することはできない。しかし、もし彼らと同じ境遇で生きてきたとしたら、ここに座っていたかどうか、その自信がない。だからこそ、ひとりひとりの居場所を奪わないよう、福祉を充実させたり、職を一度失っても全てがお終いにはならないようにしたりする生きていてもいい、みんな違っていいという社会を作っていくことが大事だと思う」。

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 死刑廃止の立場を取る森氏は「“生きて償うなどとんでもない”、確かにそうだろう。しかし、死んだとしても命は帰ってこない。だから何をやったとしても償いようがない。だから“生きて償え”も“死んで償え”も、僕には空論に聞こえる。やはり被害者に対して、遺族に対して、できる限りの救済、サポートをしつつ、償えないようなことをやったんだということをしっかりと意識に刻む方がいい。そして、なんでこんなにぬくぬく暮らしているんだと思われるかもしれないが、近代司法は誰かの指を折った、じゃあこいつの指を折れというような刑罰ではなく、自由を束縛する以上のことはしないということが大前提だ。僕もその道筋は別に間違っていないと思う」と話す。

 さらに「被害者遺族の心情を死刑の理由のファーストプライオリティに置くのであれば、家族のいない人が殺害された場合にどうするのか。遺族がいない、誰も悲しんでいないホームレスを殺害した加害者の刑は軽くていいとなってしまう。どんな場合でも命は同じ価値でなればいけない。それは建前かもしれないが、やはり大事なことだ。そうした法の建前が今、厳罰化などの中で崩れていき、非常に殺伐とした司法になってしまっているのではないかという気がしている。僕はオウムの元死刑囚13人のうち6人と面会し、刑が確定し交通権利が制限されるまでは手紙のやり取りも続けていた。彼らは1人残らず“死刑になること以外、自分たちが償うことはできない。それで少しでも遺族の方の気持ちが和らいでくれるのであれば、死刑になるのは当然だ”と言っていた。そう言う人たちを死刑にすることの意味は何だろうと、僕はずっと考えながら面会していた。無期懲役をどうするのか、終身刑を導入するのか、そうした議論をする上で、死刑囚とはどんな人たちなのか、死刑制度とはどんなものなのか、もう少し情報公開がなされ、皆が理解した上で議論をしないと結論なんか出ないに等しい。本当はこの番組に出たくはなかった。それはネットで叩かれるのが目に見えているから。それでも出なければいけないと思ったのは、少しでも関心を持ってほしいし、議論してほしいと思ったからだ」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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