(東京と地元・新潟を往復しながらの活動。この日も東京到着から即取材となった)
12月28日のDDT後楽園ホール大会で、スーパー・ササダンゴ・マシンvs青木真也という異色カードが実現する。“煽りパワポ”を駆使し、テレビ、ラジオでも人気の“文化系”レスラーと現役バリバリ、日本トップの総合格闘家。しかも対戦前にプロモーション映像の撮影で2人で街ブラロケを行なってもいる。いったい何が起こるのか、何を狙っているのか。ササダンゴ・マシンことマッスル坂井に聞いた。
(聞き手・橋本宗洋)
――青木戦が決まったのも驚きましたが、煽りVTRで街ブラっていうのも驚きました。
「煽り。なんでしょうね煽りって」
――……お得意じゃないですか。
「まあ試合の告知、プロモーション用の映像ですか。試合直前に流れたり、あとは僕も煽りパワポをやってますけど。最近はYouTubeに上がったりSNSに短いバーションが上がったりもしてますよね。でもそれって、試合が終わってしまったら用済みなんですよ。試合が始まるまでの数日間だけ楽しまれる動画って。なんか悲しいですよね」
――映像として賞味期限が異様に短いと。
「僕はそれが気になって。もともとDDT映像班として煽りVTRを作ってきた人間ですからね。煽りパワポもそうなんですけど、動画として残って楽しまれるものをという気持ちがどっかにあって。そこはクリエイターなんで。作品として残したいっていう気持ちがあるんですよね」
――そういう意味で、街ブラは試合後に映像単体でも楽しんでもらえると。
「そうなんです。なおかつ街ブラというもの自体がプロレスを楽しむ気持ちと似ているような気がして。格闘技とか一般的なスポーツというのは、ある地点からある地点までを効率よく移動するようなものじゃないですか」
――無駄なことをしないのが一番いいですよね。
「最短距離で行く世界。青木さんもそういう世界でやってきた人間だし。また普段の移動が自転車なんですよね。当然、最短距離で行ける。交通費という支出も抑えられますし、なおかつ有酸素運動にもなるという」
――めちゃくちゃ効率いいんですね。都内は自転車最強説ありますもんね。
「そういう青木さんも、実は無駄を愛する資質があるんじゃないかと思って。最短距離で効果、勝利を求めるだけじゃない部分があるんじゃないかと。目的地とは違う場所にたどり着いても、それはそれでいいというのがプロレスですから」
――街ブラはプロレス的でありDDT的なんですね。青木選手もDDTでプロレスやってるわけで、そういう部分を愛する資質はあるんでしょうね。
「勝利と敗北という目的地に向かいながら、どんなルールで歩き、どんなお店に立ち寄ってどんな会話をするか。本当にプロレス的ですよね」
――青木真也がそれをやるっていうのがまた新鮮ですね。
「街ブラやりませんかっていう企画に乗っかってくれただけで“おっ!”と」
――ロケ地が高田馬場っていうのもいいですね。
「僕たちはまったく違う人生を歩んでますけど、その中で唯一、重なっているのが早稲田大学出身という(笑)。青木さん、大学の近くの定食屋さんとかよく知ってるんですよ。その土地での思い出がしっかりある人で」
――どんなお店に行ったんですか?
「仕込み一切なしだったんですけど、まず1件目はタピオカ屋さんですよ、それは。ちゃんと行きました。今年一番流行った飲食物の一つとして。そこでも面白いのは、青木さんは甘さを排除したノンシュガーのタピオカミルクティー。そしてすぐ飲み終わるという。残さないんですよ。それから『アッパーカット』というスパゲティのお店に行って『メルシー』ですね。
――早稲田の学生に人気のお店。有名ですよね。
「食べきれなかった分はディレクターの今成(夢人)が食べてくれたんですけど、それも青木さんは『あんまり押し付けるとパワハラだよ』って言ったり」
――ちょっとしたところで性格が出る。
「プロレスラーのノリとは違うわけですよ。青木真也にしかないものが出てくる。結果、何か大きな事件が起きたわけではないんですけど、長く見てもらえる映像になったんじゃないかなと思います。2019年年末の青木真也を切り取った貴重なVTRとして。ここで感じたもの、街ブラで得たグルーヴ感を試合にどう活かすか。今の僕はリングで試合する時間より新潟で街ブラをしている時間のほうが長い人間ですから、圧倒的に。街ブラアンテナの感度がビンビンに高まってる。その中で青木真也に共振するというか、リングで肌を合わせるだけでは分からないものもあったなと」
――よく「リングで肌を合わせてみないと分からないものがある」って言いますけど、それをも超える部分が。
「相手が拳に込めたメッセージとかは全然分からないので、僕は。街ブラで分かり合った上で試合をするというのは今回、非常に重要ですね。どんな試合になるのかはまったく分からないですけど」
――予測不能は予測不能なんですね。
「あと個人的にですね、1月に『まっする』があるので、口がそっちになっちゃってるみたいなところはあります。青木戦もその味に引っ張られるかもしれない」
――ひらがなまっする。『マッスル』の新機軸、スピンオフ的な大会ですね。
「もうあと一カ月ですから。どうしても口がそっちにね」
――とはいえ“マッスル坂井作品”としての連続性、作家性みたいなのはあって当然かもしれませんね。2月の『マッスル』両国大会と、脚本を担当された純烈のNHKホール公演もセットみたいなところがありましたし。それらがあって、青木戦もあって『まっする』に至るという。
「青木真也という選手の時系列もあるじゃないですか。今年いろいろあって、いいことばかりじゃなくて、その上で年末、僕と試合する。そこに感じるものがあるんですよね」
――青木真也の2019年、その締めくくりでもあると。
「そうなるといいなと」
――ちなみに母校・早稲田という部分でつながりを感じるところもあったんですか。
「それはありましたよ。ずーっとあった。青木真也というファイターが世に出てからずっと。『早稲田っぽいなー』って。みんな問題あるじゃないですか。石澤常光、マッスル坂井、青木真也」
――マット界で早稲田出身というとその3人になるんですね。確かに凄いメンバーだ。
「ちゃんとできない感じというか。この先には何もないと気づきながらもやるしかないという感じとか。結果を出すことでギリギリ、そこにいることを許されてる人たちじゃないかと」
――となると青木戦も『まっする』も結果を出さないといけない。
「興行の客入りって、前回の興行への評価だと思ってるんですよ。だからお客さんを満足させることが次につながるので」
――『まっする』は若い選手と組んでの大会というのもポイントですよね。
「これは上からでもなんでもなく、純粋に今のDDTの若い世代の力と感性を借りて何かしたいなって。それがあるとDDTもマッスルも底上げされるというか」
――坂井さんの手腕で若い選手を底上げする感じではない?
「いや、若い選手の底上げというのも大義名分としては言うんですけど、本心としては力を借りる感じですよね。でね、これって大きい団体からしてもかなり脅威なんじゃないかなぁと思ってて。『マッスル』をオッサンたちでやってる分には怖くないと思うんですけど、若い選手にそのエッセンスが加わったら怖い。そう思われてるんじゃないかと。警戒されてるような気がしますねぇ」
――DDTの若い選手に『マッスル』のDNAが備わってしまったらどうなるんだと。
「近い将来、地殻変動を起こしますので、大いに警戒を強めてほしいです」
――DDTは文化系プロレスとアスリートプロレスで分けられた部分があるけど、そこが合体するかもしれない。
「そもそも、いろんな選択肢がある中でプロレスを選び、DDTを選んだ人たちですから。クレイジーな部分を持ってるはずでしょう。どうなるかは分からないですけど」
――その道のりの中に青木戦もあるし、と。
「凄い刺激なんですよ、だから」
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DDT「D王 GRAND PRIX 2020 the FINAL!!」