女子プロレス界屈指の人気団体、アイスリボンの取締役選手代表である藤本つかさは、好調の要因を「次々と新しい選手が成長してくるところ」だと語っている。引退したり離脱する選手もいるのだが、そのたびに新戦力が台頭して観客を魅了するのだ。
現在のアイスリボンで目が離せない存在になっているのは鈴季すず。昨年大晦日にデビューした17歳だ。まだキャリア1年弱。しかし11月に雪妃真矢のシングル王座に挑戦すると、12.1川口大会では星いぶきとの10代タッグで藤本&つくしのタッグベルトに挑んだ。
結果として敗れはしたが、ここで「Teens」タッグは目の覚めるような動きを披露。2人の成長に「闘いながら感動してしまった」という藤本は、即座にリマッチを受け入れた。舞台は大晦日のビッグマッチ、後楽園ホール大会だ。すずは2カ月で3回のタイトル戦を経験することになった。
新人ながらベルトに挑もうと手を挙げたのは「アイスリボンを引っ張る選手になりたい」からだ。女子プロレスを知るきっかけとなった世羅りさや藤本、雪妃のような“アイスリボンの顔”になりたい。そしてアイスリボンを「規模でも内容でも一番の団体にしたい」。
中学卒業後に故郷・宮崎県を出て入門。バックボーンがなかったからとにかく練習するしかなかった。幸い、アイスリボンには常設会場兼事務所兼道場がある。通常の練習以外に、すずは自主練習も重ねてきた。
「そうやって覚えていくしかなかったし、新しい技とか動きとかも、思いついたらすぐやってみたいんですよ。一人でリングのロープ張って、コーナーに携帯置いて動画撮りながら練習してますね。動画は本当に大事です」
デビュー当初は「右も左も前も後ろも分からなかった。私はいま何をやってるんだろうって。変わってきたのは9月の文体(横浜文化体育館大会)からです。周りを見渡して試合ができるようになってきました。相手をよく見て闘えるし、お客さんの声援や歓声が聞こえます。悪いことしてブーイングされる時もあるんですけど、それも嬉しくてニヤニヤしちゃいますね」
自分の狙い通りに観客の反応を引き出せるようになってきたというわけだ。
「今、プロレスをやるのが楽しくて仕方ないです」
そうなれたのも、デビュー決定からの「普通は味わえないような濃い時間」があったからだ。もともと、彼女がデビューするはずだったのは昨年8月の横浜文体。しかし試合を前に自転車で転倒、ケガでデビュー延期となった。
いわば“因縁の会場”となった文体で今年、対戦予定だったのは同い年でライバルと目されてきた朝陽。すずがデビュー戦で勝った相手でもある。だが試合直前になって朝陽が戦線離脱。カードが変わることになった。すずのショックと混乱は相当なものだったはずだ。それでも試合に勝利して「文体を乗り越えた」ことでプロとしての自覚が出てきた。自分がアイスリボンを引っ張っていきたいと思うようになったし、先輩からも「この勢いで次のステージに進みなさい」と言ってもらえた。文体以降の自分は「違う自分になったみたい」だとすず。
「あれから朝陽さんが復帰して、試合を見ていて思うんですけど、自分の中ではもうライバルという感じではないなって。文体でシングルができなかったのが一つの節目じゃないですけど、私はもう先に行きますっていう。私はアイスリボンを引っ張る人間にならなきゃいけないって、自分でそう決めちゃったので」
インタビューしながら感じたのは、自分の思い、考えを言葉に出すのが抜群にうまいということだ。リング上でも、喜怒哀楽すべてを全力で出し尽くす。「常に150%で試合をしないと気が済まない」と言うが、それは技だけの話ではないのだ。笑い、怒り、悔しがり、そしてよく泣く。新しい動き、新しい技も次々と身につけているが、最大の魅力はクルクルと(そして極端に)変化する表情だと言っていい。
(大晦日には先輩・テキーラ沙弥の引退試合も。タイトル挑戦に向け沙弥の得意技グラン・マエストロ・デ・テキーラを受け継いだ)
シングル王座戦で敗れた直後、リング上でタッグ王座挑戦の名乗りを挙げたいぶきを見て「(パートナーは)私だ!」と叫んだ。藤本に「またタイトルマッチやりましょう」と健闘を称えられると「じゃあ今やれ!」。その流れで大晦日の再挑戦を決めてしまった。
「気持ちが顔に出ちゃうんですよ(笑)。それをいっぱい写真に撮られて、ツイッターに上げられちゃうんですけど。でも自分を隠そうとは思ってなくて。泣きわめいたりするのが恥ずかしいとか、見られなくないという気持ちが1ミリもなくて。可愛く見られたいとかカッコよく見られたいとかは全然ないです。むしろ“鈴季すずのすべて、顔も感情も全部見て感じてくれ”って」
感情はすべてリングで出し切るから、悔し泣きしても「夜はぐっすり眠れます。凹んでも引きずらないのがモットーですね」。今の自分の強みは「勢い」。パートナー・いぶきにも若さと勢いがあると語る。
「勢いしかないですから、10代の私たちは。世羅さんともタッグを組んでるんですけど、その時は安心感があるんです。私がはしゃいでも“はいはい”って感じで軌道修正してくれる。でもTeensは勢い+勢い。誰も軌道修正しないので(笑)。技術や経験も勢いで超えられると思ってます」
記者会見で前哨戦として「コーラ早飲み対決」を挑んでみたりと、確かに王者組を何かと慌てさせたり呆れさせたりするチャレンジャーではある。
アイスリボンは、とりわけ“感情”を大事にする団体だ。プラスもマイナスもさらけ出すのがリング。藤本によると「選手たちには、控室で悔し泣きするくらいならお客さんの前で泣いたほうがいいって言ってます」。すずはアイスリボンに入るべくして入ったとしか言いようがない。本人も「私がアイスリボンに出会ったのは運命」だと言い切る。デビュー1年での戴冠も、アイスリボンの申し子であれば不可能ではないはずだ。
「ホントに超惜しかったんですよ。絶対、すぐやっても勝てると思って」という前回の手応えからしても、アップセットが起きても不思議ではない。これからどんなレスラーになりたいか聞くと「食って、鍛えて、寝て、デカくなりたいです」。いずれデスマッチをやりたいという夢があるから、それにふさわしい体を作りたいのだという。
「世羅さんのデスマッチを見て“女子でもこんな凄いことするんだ!”と思ってプロレスラーになったんです。いつか世羅さんとデスマッチがやりたいって、密かに思ってるので。女子のデスマッチに反対する声もあると思うんですけど、私はやります。団体の顔になるしデスマッチもやる。もう決めたんでやります(笑)」
自分に不可能なことがあるなんてこれっぽっちも思っていない。そういう選手を見るのは本当に気持ちがいい。彼女の存在は、団体のスローガン“プロレスでハッピー”そのものなのである。
文・橋本宗洋