2019年は、青木真也のキャリアの中で最も“振り幅”の大きな年だったのではないか。3月、長く主戦場にしているONE Championshipが初の日本大会を開催。そこでライト級王座を奪還したが、次の試合で新鋭クリスチャン・リーに敗れベルトを失う。そして10月の日本大会では再起の一本勝ちを収めた。
その一方、昨年に続いてDDTプロレスリングにも定期的に参戦。2月の『マッスル』両国国技館大会に登場すると、7月の大田区総合体育館大会では男色ディーノに唇を奪われ、生尻を晒しもした。
締め括りの一戦は12月28日のDDT後楽園ホール大会、対戦相手はスーパー・ササダンゴ・マシンである。またしても異色カードだ。試合直前、プロモーションVTRで「街ブラ」ロケを行なうところから普通ではなかったこの試合。ササダンゴは入場すると恒例の“煽りパワポ”で特別ルールを要求した。
それが「プロレス×大喜利ミックスルール」。プロレスと大喜利を交互に実施するという形式で、大喜利イベントで活躍したこともあるササダンゴに有利かと思われた。しかし、試合は予想外の展開を見せる。プロレスルールで青木が圧倒したのは当然として、大喜利でも青木が健闘したのだ。
「青木真也著『ストロング本能』の続編発売が決定。そのタイトルとは?」というお題に対する回答は、ササダンゴが「グランメゾン本能」、青木が「ダディ」。判定は2-1でササダンゴだったが、試合後に「あれ青木選手の勝ちじゃないの?」と異議を唱える関係者も。
プロレスルールに戻ると、青木が腕ひしぎ十字固めを左右の腕に極めて大喜利へ。お題は「2020年に向け、なんとなく気が引き締まりそうな四字熟語を教えてください」。腕を傷めたササダンゴは回答をフリップに書き込むことができず、なんとか口で「安全第一……」。逆に青木は「石井館長」と見事に気が引き締まる回答。3-0の判定をものにして勝利を確定させた。公式記録での決まり手は「石井館長」という、格闘家らしい大喜利フィニッシュだった。
インタビュースペースではササダンゴの隣で一言「俺たちはファミリーだ」の決め台詞。ササダンゴの土俵に乗って“青木流大喜利”の世界を開拓してしまった。青木の潜在能力が凄いのか、それを引き出したササダンゴが凄いのか。数年前までは考えられなかった光景で、青木の2019年の闘いは幕を閉じたのだった。
文・橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング