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(鈴木&中井という信じられないタッグが実現)

 『ハードヒット』はパンクラスでデビューし、現在は全日本プロレスを主戦場とするプロレスラー・佐藤光留プロデュースの大会だ。基本的にルールはロープエスケープ、ダウンのロストポイント制。つまり“UWF系”のプロレスだ。格闘技術に自信を持つプロレスラー、プロレスのリングに意欲のある格闘家などさまざまな選手が出場、グラップリング(組み技限定)大会も開催される『ハードヒット』は実験的なリングであると同時に、従来のプロレス・格闘技界では想像できなかったカードが実現することも。

 12月30日、初進出となった竹芝のニューピアホール大会では、エキシビションのグラップリング・タッグマッチが行なわれた。鈴木みのる&中井祐樹vs藤原喜明&近藤有己。U系、総合格闘技を長く見てきた者には感涙ものの顔合わせだ。

“関節技の鬼”藤原、その弟子にあたるのが鈴木。近藤は鈴木たちが設立したパンクラスの新人一期生だ。パンクラスだけでなくPRIDE、UFCでの試合も記憶に残る。この3人に中井が絡むのだからたまらない。

 中井は1990年代、グレイシー柔術が表舞台に登場した“対バーリ・トゥード”時代の修斗で活躍。95年の『バーリ・トゥード・ジャパンオープン』トーナメントにおけるジェラルド・ゴルドー、ヒクソン・グレイシーとの死闘はあまりにも有名だ。中井はその後、日本におけるブラジリアン柔術のパイオニアに。現在は日本ブラジリアン柔術連盟の会長を務めている。

 グラップリングマッチとはいえ、エキシビションだけに試合は“自由度”の高い展開になった。中井はツイスターをはじめ多彩なテクニックでシビアな寝技を見せる“シューター”ぶり。藤原はグラップリングだというのに張り手、頭突きを繰り出し、近藤とダブルでアキレス腱固めも。これを堂々、許可したレフェリーは和田京平であった。

 15分の試合時間はあっという間に終了。ここで鈴木がチームを入れ替えての延長戦をアピールし、鈴木&藤原の師弟コンビと中井&近藤の対戦に。この延長戦もタイムアップとなったが、鈴木に引き込まれて中井と近藤が場外乱闘を展開するというレアな場面も見られた。この4人がリングで見せることなら何をやってもグッとくる。そんなトータル20分を終えると、鈴木はこの試合のオファーを受けた理由を語った。

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(藤原組長と近藤の合体アキレス腱固めも)

「今から30年くらい前、俺がパンクラスを創った時に(中井は)修斗のチャンピオン。同じようなことやってたのに、俺らのほうが上だ、一番だってやってた。でも敵は隣の修斗じゃないし柔術じゃない。パンクラス、プロレスじゃない。敵は世界だ。プロレスも格闘技も世界を目指そう」

 これに中井も応える。

「僕はずっと格闘技をやってきて、プロレスも好きで。(修斗とパンクラスが敵対していたのは)全部、終わった話です。一生に練習しようかという話もしてます。総合格闘技もプロレスも“対世界”を目指してます」

 鈴木が言うように、初期の総合格闘技界において修斗とパンクラスはライバル関係にあった。パンクラスのバックボーンであるプロレスに嫌悪感を抱く修斗関係者もいたという(修斗の創始者も初代タイガーマスク、佐山聡なのだが)。

  だが時代は変わった。総合格闘技はMMAとして世界的スポーツになり、日本のプロレスも海外のファンに支持されている。パンクラスを作った鈴木は新日本プロレスを主戦場にするようになり、中井は指導者として世界に向き合っている。

 決着のないエキシビション。笑いの要素も強かったこの試合。しかしその背景には、ジャンルを築いてきた者たちの歴史があった。ハードヒットはベテラン格闘家も多く参戦する。この日はロッキー川村vsKEI山宮という一戦も。ここはある時代を全力で生き抜いてきた人間が再会する場所でもあるのだ。

文・橋本宗洋

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