拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?
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 史上最多となる75万人が押し寄せ、その経済効果は100億円を超える巨大マーケット、コミケ(コミックマーケット)。今回はAmazonも初出展するなど、グローバルなイベントになりつつある。

 コミケで売られている作品のほとんどは「同人誌」と呼ばれる自主制作本だが、それらは第三者が原作者の許可なくストーリーの続きを勝手に描いたり、別の物語を生み出す、いわゆる「二次創作」も含まれる。参加者からは「ポケモンの素敵さとかポケモンのヤバさとか魅力とか素晴らしさを詰め込んでいる」「本編が暗すぎるのでちょっと同人誌で楽しさを増していった方が(盛り上がる)」等、オリジナルでは感じることができない楽しみがあると熱弁する一方、「原作にない設定で盛り上がらないで」「人のモノにただ乗りで金儲けってどうなんだ?」「二次創作は著作権侵害だろ!」といった声があるのも事実だ。

拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?

 出版社が作成する二次創作に関するガイドラインには「画像・映像データをコピーして使用することは禁止」「自分で描き起こしたイラストの使用は問題なし」「グッズは商業目的での制作・頒布を禁止」「公序良俗に反するものは禁止」「第三者の権利を侵害しない利用に限る」といった例がある。そのため、過去には著作権を巡って裁判に発展、販売中止に追い込まれた作品もあるというが、二次創作はコスプレやゲーム実況、音楽のカバーなど、今やあらゆる文化で行われており、それこそが日本のコンテンツパワーを支えているという側面もある。

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 こうした問題に詳しく、「表現の自由を守る会」の会長も務める自民党の山田太郎参議院議員は「著作権には大きく人格権と財産権の議論がある。前者は作ったものに手を加えられて汚されないよう、原作者の名誉を守ることで、後者は作ったものには価値があり、それを流通させることによって得られる利益を守ることだ。この2つは分けないといけない。財産権に関しては海賊版の定義が国会で議論されて決まっており、有償著作物、有料で売っているものを原作のまま複製したり、ネットで配信してはいけないということだ。そして、いくら二次創作だったとしても、作ったものにはオリジナリティー・創作性があれば、それも著作権で守られる対象だということ。大切なのは、得られるはずだったものが害されたのかどうかで、二次創作によってオリジナルが売れるということもある。そもそも今の時代、どんな大作家も、全く何もないところから突然ポンっとアイデアが湧くということはないのではないか。やはり小さな頃から絵を真似て描いたり、その先のストーリーを作りたくなったりする。それらを同人誌として出す人もいる。その気持ちはよく分かる。ただ、権利が必ずしも原作者だけにあるわけではなく、出版社との関係や、育ててくれた、支援してくれた会社・団体との関係もある。それらに配慮したとき、おおっぴらに二次創作をやられてしまうのはまずい。それも踏まえると、非常に微妙な問題だ」と話す。

■「原作へのリスペクトが根っこにある」

拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?

 「大好きに尽きる。手塚先生の絵とかいいよね。素晴らしいよね。面白いよね。かわいいよねっていうのを描きたい」。

 そう話すのは、今回のコミケにも出展した漫画家で京都精華大学マンガ学科の特任准教授も務める田中圭一氏だ。1984年にデビューし、ギャグ漫画家として活躍。2002年には故・手塚治虫氏の絵柄に下ネタギャグという作風を確立した。流行語大賞にもノミネートされドラマ化もされた代表作『うつヌケ』など、手塚氏にそっくりなタッチで知られ、手塚作品の続編を公式に執筆したこともある。

拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?

 コミケへの出展は2013年からで、『宇宙戦艦ヤマト』や水木しげる氏などの絵柄をオマージュした同人誌を制作してきた。「私はオリジナルで勝負し、10年が経った頃に手塚先生のタッチにわざと変えていった。改めて“この絵っていいじゃん。何でみんなこの絵がいいって分からないの?”と。“漫画界の清水ミチコ”を目指しているので。モノマネ芸人というのが存在するなら、同じような漫画家がいてもいいじゃないかと思って始めた。そもそも多くの漫画家が最初に模写や自分の好きなキャラクターを描くことから入っていく。そこにはその絵が好きで、リスペクトが根っこにあるわけで、私もただ乗りしたいために絵を変えたわけではない。原作者が全員二次創作に不愉快な思いをしているかというと、そうではないという気がする」。

拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?

 また、同人誌については「商業誌で許諾をもらって描く場合は当然ロイヤリティーを払う形になるが、同人誌は二次創作として無許可でやっているので、ロイヤリティーを払うことはない。許諾を取って描いていいのであれば取りたいが、著作者としてもどこまでがOKでどこからがNOという線引きが難しい。今さら話を仕切り直すのは難しいと思う。そもそも二次創作がオリジナルを作ることを阻害しているとは思えないし、ルールが決まれば従うし、そうでなければ現状のまま楽しむ」と説明する。

■「弱い一次創作をさらに弱くしている」

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 一方、「二次創作のファンは原作のファンではない」として二次創作に反対の姿勢を示すのが、小説家の幾谷正氏だ。

 「先日『美少女戦士セーラームーン」を全話観て、ものすごく感動した。感想をネットで検索していたら、セーラームーンのエッチな絵がいっぱい出てきた。うさぎちゃんたちが地球を守るために戦ってくれた素晴らしい作品に対して、何てものを描くんだという気持ちが自分の中にこみ上げてきてしまった。そういうイラストを描いたり、それらを褒めそやしたりしているような人たちは、本当に原作のファンなのだろうか。そして、自分にも純粋に原作のオタクとして二次創作が好きだった時代はあった。しかし気付くと二次創作の同人誌に10万円くらい使っているのに、原作のコミックやCDには1000円ちょっとしか使っていなかった。つまり、自分は原作者や公式なコンテンツに関わっている人たちに全く還元していなかったということだ。自分が小説を書き始めたときに、それが本当に正しいことだったのかと、改めて疑問を持つようになった。そのことの贖罪というか、罪悪感から、二次創作に反対している」。

 さらに幾谷氏は「自分の場合、一次創作として小説を書いてデビューし、書き続けている。その立場からすると、自分が一生懸命書いた作品を横からもぎ取られて、勝手に変えられたりすると、“俺が動かしている駒なのに、勝手に動かすな”と思ってしまう。二次創作を本当は嫌がっているのにそれを表に出せなくて困っている原作者もいるのではないか。田中先生には失礼なことを言うが、結局オリジナルから逃げて二次創作に走ったのではないか。自分の後輩にも二次創作に走った作家がいるが、スカウトされて、それで二次創作でやっていたものがコミカライズされた。しかし締切があったり、権利を半分持っていかれ、厳しいチェック、規制も入ったりする。結局、“公式”の仕事はめちゃくちゃ面倒くさいとなって、二次創作に戻ってきた。結局、国全体でオリジナルを育てようという気概がなくなってしまうのではないか。強いものをより強くして、弱い一次創作をさらに弱くしている」と主張した。

■「原作者への還元の仕組みづくりを」

拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?

 両氏の主張を踏まえ、ドワンゴ社長を務める慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「音楽には歌い手、作曲家、歌詞をつけている人という3つの権利者がいて、原曲を他のうまい人が歌い感動させたりする。そして日本ではカラオケが生まれたおかげで、JASRACも含めて制度が整っている。一方、漫画の世界観はこれとはだいぶ違っていて、同人誌やコミケについてもそういう制度がない。そして、どういうルールを作るべきかという話の前にネットが来て一気に広がってしまった。ニコニコ動画の中にはクリエイティブ・コモンズを真似たニコニ・コモンズという収入の還元の仕組みを作っているが、そういう考え方がなかなか広がっていかないし、仕組みを整える人もいない。これだけの規模になった同人誌を守ろうとするなら、内部ルールや礼儀を用意しておくべきだと思う。まずは誰かの作品からインスピレーションを受けて同人誌を作った人は、そのことを表示して欲しい。根本的な解決にはならないものの、それだけで一次創作者と二次創作者の距離をだいぶ縮める」と話す。

拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?

 また、幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏も「活字の本とは環境が違うが、僕の場合、基本的に本の内容は全てフリーで、SNS上で盛り上がってほしいと思っている。表紙のパロディーなど、色々なことをやってくれる人が出てきて、それが広がれば広がるほどオリジナルも読まれることになるからだ。ただ、世界観を大事にするような作品の場合は違うと思うし、オリジナルを作ったクリエーターに何かしら還元されるような仕組みがあった上で、二次創作の市場を育てていくべきだと思う」との考えを示した。

拡大を続ける“同人誌”市場、「二次創作」への批判も…原作へのリスペクト・還元をどう考える?

 山田氏は「私は決して二次創作は悪いとは思わないし、たまたま創作したいものが二次創作だったということでいいと思う。キャラクター性とストーリー性の問題は裁判でも議論されている。キャラクターを真似て、ストーリーはオリジナルというケースもあるが、両方が真似だったら海賊版になってしまう。大切なのは一次創作か二次創作かではなく、海賊版かどうかだ。田中先生の二次創作によって手塚先生のオリジナル作品が売れなくなるかというとそうではないので、海賊版には当たらないし、手塚先生の作品の人格権を相続された方が訴えるか・訴えないか、気に入るか・気に入らないかの観点でもそうではないだろう」と指摘。

 「権利者がガイドラインを作ると、どうしても厳しくなってしまうところもあるが、トラブルを避けるために、“私の作品は全て真似され、変えられたら嫌だ”あるいは“全部自由に使っていい”“ここまでは変えていいが、ここからは変えないでね”というマークを表紙などに付ける、クリエイティブ・コモンズという考え方も進んできている。クリエイティブ・コモンズがいいのか、フェアユースがいいのか。あるいはパロディ合法化に踏み切った国もある。自民党の中でもそういう議論をすべきだという話にもなっている。これから進んでいくと思う」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:二次創作は悪者か?

冬コミを総力取材! 二次創作は悪者か?
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