(渾身の勝利を決めたノーチラス。正反対の個性がタッグとしての魅力につながっている)
1月3日、DDTの2020年最初の興行でメインを締めたのは上野勇希&吉村直巳のタッグ「ノーチラス」だった。初のKO-Dタッグ王座獲得、しかも勝った相手は長期防衛中の佐々木大輔&高尾蒼馬だ。10度目の防衛を阻止しての戴冠は価値がある。付け加えると、この日は恒例、全席2000円の「お年玉興行」。超満員の観客、さらにはAbemaTVの視聴者にもDDTの新しい力を見せつけたわけだ。
王者チームはテクニック、老獪さ、ハードコアルールでも防衛するタフさなどを併せ持つオールラウンドな実力者。そんな相手に対し、ノーチラスは粘りに粘って上野のBME(セカンドロープからトップコーナーに飛び乗ってのムーンサルトプレス)につなげ、フィニッシュしてみせた。
上野、吉村はともに24歳、2016年デビューの新鋭だ。大阪出身なのも共通点。吉村は入門テストの時から上野を意識していたという。上野はDDTのトップ選手、竹下幸之介と高校で同級生。竹下の試合を見たことがきっかけでプロレス入りした経緯を持つ。打点の高いドロップキックなど早くからポテンシャルを感じさせてきたが、この王座獲得でいよいよ開花したと言えるだろう。ツイッターでスーパー・ササダンゴ・マシンをブロックしていたことがあるなど、謎の“黒さ”を発揮することも。
パートナーの吉村は上野とは真逆の大型パワーファイター。前年の1月3日にシングル王座に挑戦するはずだったが、前哨戦での負傷で欠場するという悔しさを味わった。
「去年の今日、挑戦するはずが病院のベッドの上にいて。そこからの1年、自分の中では一番成長できたかなと」
また吉村は「2020年、DDTの中心に立つのは俺たち」とアピール。上野は「地方も後楽園も、もっと大きな大会も盛り上げていきます」。
(MAOはDDTのゆるキャラ「ポコたん」の中に入ってチャンピオンに奇襲、タイトル挑戦をアピール)
このタイトル獲得によって、上野と吉村は“若手の注目株”から“DDTの主力の一角”へとステップアップを果たした。戴冠の2日後、5日の板橋大会では石井慧介&平田一喜を相手に初防衛に成功。1.26後楽園での防衛戦も決まっている。相手は飯野雄貴&橋本千紘の男女タッグだ。
上野、吉村、飯野、橋本は先月のリーグ戦・D王グランプリでもインパクトを残している。加えてイギリス遠征から帰国したMAOがKO-D無差別級王座に挑戦することも決まった。DDTの若い選手たちには、一昨年まで「DNA」という舞台もあった。いわゆる“若手ブランド”だ。ここで育った世代が、今年はいよいよDDTを本格的に背負うようになるのかもしれない。
「飯野も(タッグ王座に)挑戦しますし、若い世代がやっていかないと。みんないろんなことやってますけど、向かっている先は一つ。DDTでよくなりたい、DDTをよくしたいということなので」
そう語ったのはKO-D無差別級初挑戦となるMAO。1月27日には、マッスル坂井による新イベント『まっする』(ひらがなまっする)も開催される。これは『マッスル 』のスピンオフ的大会であり、DDTの若い選手の「力をお借りして」(坂井)新しいことを始めようというものだ。
こうした流れの中で上野や吉村、MAO、飯野といった選手たちがどう“化け”ていくのか。今年一年で、DDTの勢力図が大きく変わる可能性もある。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング