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 日本時間の8日朝、アメリカ軍が駐留するイラクのアサド空軍基地に十数発のミサイルが着弾した。イラン国営放送によると、「殉教者ソレイマニ作戦」と名付けられたこの攻撃はアメリカによるイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害の報復作戦だといい、「少なくとも80人のアメリカのテロリストが死亡した」と報じた。

 さらにイランの最高指導者・ハメネイ師は「アメリカへの攻撃は、十分なものとは言えないだろう。大事なのは、この地域からアメリカが消えることだ」、アシェナ大統領顧問も「アメリカの反撃があれば、中東地域で全面戦争になる」と警告した。一方、ザリフ外相「我々は事態のエスカレートや戦争を求めてない。ただ、侵略から自分たちを守るつもりだ」と投稿している。

 また、トランプ大統領は今回の攻撃による米側の死傷者はいないとした上で、軍事行動による対抗策は取らず、経済制裁を強化することで問題に対処する考えを示している。

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 8日のAbemaTV『AbeamPrime』に出演した北海道大学の鈴木一人教授(国際政治学)はイランではシーア派民兵が米軍基地を攻撃し、民間人が亡くなってもいる。それでも大統領選を控えたアメリカは泥沼の戦争はしたくないだろうという計算がイランにはあったはずだ。それでもソレイマニ司令官の殺害は計算外だったと思う。イランとしても殺害された場合には報復すると宣言していたし、国民の人気や支持がかなり厚い人なので、報復をせざるを得ない。ただし、標的は軍事施設に限り、殺すのは軍人。そして、わざと外したのか外れてしまったのかは分からないが、犠牲者が出ないような形で攻撃をしたと考えられるし、アメリカは“死傷者はいない”と発表している。アメリカは1人がやられたら25人くらいやらないと釣り合いが取れないと思っているが、ゼロには何を掛けてもゼロなので抑制せざるを得ない。イラン側が“ソレイマニ1人に対して、アメリカ人80人を殺したんだ”と主張しているのは、いわばバランスを取ったというような宣伝、情報操作したと考えることができる」と話す。

 その上で鈴木氏は「周辺国への拡大も心配しなくていいだろうと思っている。あくまでも軍人や軍事施設という範囲の中でやるというようにと、ある意味で両国がゲームを狭めている。これが第三国に拡大するのは、アメリカが過剰な反撃をした場合だ。そうなればイランがサウジアラビアやカタール、バーレーンといった、米軍が駐留している所を狙うことはあるとは思う。ただ、シーア派民兵には色々な種類があり、レバノンのヒズボラやソレイマニと一緒に亡くなったムハンディスが率いていたカタイブ・ヒズボラは親イラン派で指示にも従うが、例えばイラクのシーア派の指導者シスターニに忠誠を誓うマフディー軍などはイランとの思惑にズレが生じてくる可能性がある」とした。

 また、鈴木氏は「ソレイマニという人物が残虐で非人道的というのは、アメリカが作ったある種の幻想というか、イメージだ。確かにイラク戦争の際には路肩爆弾による大きなテロも起こしているが、アメリカが始めたイラク戦争に対し、シーアの人たちが自分たちを守るためにやった戦いでもある。テロは卑怯でひどい戦法ではあるが、それしか対抗する手段がなかった。見方を変えれば、アメリカは最初からイラク戦争をするなという話にもなる」とも指摘した。

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 時事総合研究所客員研究員の池滝和秀氏も「イランは外交政策的に軍事と結びついていて、ソレイマニ司令官はそれを指揮していた。必ずしもテロだけではなくて、イランの外交政策を担っていたというような評価もできると思う。その上で、ソレイマニ司令官の殺害についてはイラン側もかなり驚いたと思う。今まで相当自由に動き回っていただけに、予想外の攻撃だっただろう。しかし、アメリカは強大な軍隊を持っている。そこで民兵やシーア派の関係性でアメリカと伍していく。もちろん政権側としては抑えにかかっていると思うが、イランの革命防衛隊にはかなりハードコアな人たちもいるので、彼らがイラクやレバノンで不穏な動きをするとか、アメリカやその同盟国に対する非対称戦争型の攻撃を続けていくといった可能性はある」との見方を示した。

 パックンは「全面戦争をやっても勝ち目はないと分かっているイランの戦略は分かりやすいと思う。革命防衛隊としての報復は終わり、うまい具合に国内へのアピールもした。ただ、手下の民兵がどういうことをするかは分からないし、イランは彼らの行動に対する責任は取らないと思うので、この先が怖い。イスラム教の、特にシーア派は殉教者に対する思いが強いので、さらに大きなことが起こすのではないかと。その恐ろしさを分かっていたからこそ、ブッシュ大統領もオバマ大統領もソレイマニ司令官を攻撃しなかった。ソレイマニ氏は真っ黒な人物ではあるが、今回のことでアメリカはどれだけの敵を増やしたか。グレーから黒に近い人を山ほど増やしたのではないか。そして何かが起きた場合、イランが抑制的にしようとしても、アメリカがそのバランスを崩す可能性は十分あると考えられる」と危機感を露わにしていた。

 ロイター通信は日本時間の9日朝、ロケット弾2発がイラクの首都バグダッドのアメリカなどの大使館が集まるエリアに撃ち込まれたと報じている。イラク当局によれば、少なくとも1発はアメリカ大使館からおよそ100メートルの場所に落ちたが、今のところけが人は出ていないという。また、どこから撃たれたものかはわかっていない。両国の今後の動きが注目される。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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トランプ氏「イランに軍事力用いたくない」
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