(エプロンの山下にボディプレス。“坂崎ワールド”で勝利を手繰り寄せた)
このところ、女子プロレス団体が相次いで“聖地”後楽園ホールを超満員にしている。12月24日のスターダムが観衆1334人、アイスリボン恒例の大晦日大会は1384人の主催者発表となった。年が明けて1月4日、こちらもおなじみとなった東京女子プロレスは1467人とアナウンスされている。いずれも、会場北側をステージにせず、客席として使用しての結果だ。
年末年始は新日本プロレスの東京ドーム大会を目当てに日本を訪れる海外のプロレスファンも多い。そのファンたちは新日本以外の興行も見に行くわけで(何しろ東京では毎日何かしらの大会が開催されている)、各団体観客動員を伸ばしやすい時期ではある。
ただ、これらの女子団体が着実にファンを獲得しているのは確か。昨年はスターダムのブシロードグループ入りもあった。カテゴリーとしての女子プロレスの魅力、可能性があらためて注目されているのだ。
1.4東京女子のメインイベントはプリンセス・オブ・プリンセス王座戦。王者・坂崎ユカに団体一期生のエース・山下実優が挑んだ。坂崎も旗揚げメンバーであり、団体をけん引してきた主力の一人。超満員の後楽園、そのメインにふさわしいカードだった。
「(入場ゲートの)幕をくぐった時に超満員で……この話するとちょっと……」
試合後のインタビュースペースで、山下は涙ぐんでいた。かつては所属選手が少なく、充分な試合数が組めずにアイドルライブとのコラボ形式で大会を行なっていた(それが団体としての特色にもなったのだが)。キャリアのある選手を主力に立ててスタートしたわけではなく、初期の選手は自分たちで試行錯誤しながら、自分なりのプロレスを作っていった。そういうところからの“聖地満員”なのだ。
(“テーブル階段落ち”は史上初か)
試合は、坂崎と山下ならではの“東京女子のタイトルマッチ”になった。まずは場外戦で坂崎が仕掛ける。山下を長机に乗せ、客席の階段から滑り落としたのだ。その机をリングに立てかけるとボディスラムで叩きつけ、エプロンに寝かせた山下にはコーナー上からボディプレス。見事なまでに破天荒な攻撃を次々と繰り出していった。
山下もエプロンでのアティテュード・アジャストメント、ロープに飛び乗った坂崎にバックスピンキックと激しい攻撃を見せる。リング内だけでなくコーナー、ロープ、エプロン、場外さらに客席と、あらゆるシチュエーションを武器にしての攻防だ。昨年3月、博多スターレーンで闘った際にも、両者は派手な場外戦を見せている。
それが“坂崎vs山下のスタイル”であり、トップ対決がイコール“正攻法”でもないのが東京女子ということなのだろう。彼女たちはキャリアを重ねて、どこに出しても恥ずかしくない試合をするようになった。しかしそれは“どこにでもある試合”ではない。
フィニッシュは山下の必殺技クラッシュ・ラビットヒートをかわした坂崎のマジカル魔法少女スプラッシュ。坂崎は2度目の戴冠で初防衛だ。「鬼門だった山下」に勝っての防衛は意味が大きいと坂崎は言う。リング上では「東京女子プロレス、激動の年にしますんでついてきてください」という言葉も。
11月7日、東京女子プロレスはTDCホールでビッグマッチを開催する。キャパシティは後楽園のほぼ倍。大きな挑戦だ。スターダムは大田区総合体育館に進出、3年連続となるアイスリボンの横浜文化体育館大会も決まっている。勢いづく女子プロレス界にあって東京女子はトップ集団にいると言っていい。坂崎の言う「激動」とは“これまでとは違う景色を見せる”という意味だろう。そのために何をすべきかも考えている。
「団体への注目度が上がって、選手のモチベーションも上がって、団体としての意識や技術も上がっていけば、集客という形で心を掴んでいけると思います。1人2人、3人4人じゃなく、東京女子一丸で上げていきたい」
山下は「負けたのは悔しいけど、2020年このまま突き進みたいです。みんなとライバルであり仲間なので、刺激し合って。TDCホールを満員にして、もっといろんな景色が見たいです」。
団体として、みんなで上に。それがチャンピオン・坂崎とエース・山下に共通する思いなのだ。この1.4後楽園では新人の汐凛セナがデビュー、“みんな”がまた1人増えた。その分だけ、東京女子プロレスは強くなっている。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング