何発もの蹴り、パンチを受けながら3ラウンド戦い抜いた健太の気持ちの強さに、ムエタイの本場・タイのファンからも惜しみない拍手が送られた。
10日に行われたONE Championship「タイ・バンコク」大会。WBCムエタイ日本王者でKrush70kg王者、日本のキック・ムエタイの世界で頂点を極めた山田健太(健太)が、ONEの舞台で本場ムエタイのビッグネームとの3戦目に臨んだ。強打を浴びながらも応戦した32歳は、折れない心で3ラウンド戦い抜き、3-0の判定で敗れた。
ペットモラコット・ペッティンディー・アカデミー (タイ)、ムアンタイ・PK センチャイムエタイジム(タイ)と強いタイ人ファイターに連敗中の健太。今回も7度のムエタイ世界王者に輝いている強豪センマニーが対戦相手として選ばれた。22歳と若くして複数階級の王者となり、ファイトマネーはムエタイ界随一という、この国の分厚い選手層が誇る実力者の1人だ。
もちろん地元タイでの人気は絶大。日本からの挑戦者と英雄の対戦を静観するような会場の空気。日本からの応援団からか「健太コール」だけが鳴り響いた。
試合開始と共にセンマニーのモーションの見えない左ミドルが健太に襲いかかる。同じようなテンポでパンチとミドルが交互に来る。健太も反応しスウェイバックしワンツー、しかし近い距離からのミドルとプレッシャーに追い込まれていった。健太が蹴りをキャッチして反撃に出る場面も見られたが、センマニーの前に出るパワーが常に上回る。一定した距離で放つ左ミドルが何度となく健太の右腕を捉えた。
脳裏をよぎるのは同じONEでバンタム級のタイトル戦を戦った鈴木博昭とノンオー・ガイヤーンハーダオ戦だ。徹底したノンオーの右ミドルに腕を破壊された鈴木、あの試合と展開は酷似している。手が出ない健太しびれる腕を我慢しての肘も空を切る。センマニーは着実にダメージを奪う打撃を重ねながらラウンドを終える。
その後もセンマニーの猛攻は続き、健太は眉を数カ所カット。しかし、鮮血を滴らせながらもどんどん前に出続けると、センマニーが後退する場面に地元タイのファンから大きな歓声があがった。
そして3ラウンド。センマニーの一貫した強いミドルに翻弄されながらも、後退しない健太。仕留めにかかるセンマニーが1発、2発、3発とミドルを右腕に叩き込む。ダメージは大きいが健太も引かない。動かない右腕をフルスウィングしてフックを放ち僅かな可能性にかける。残り1分、センマニーの顔面に一発叩き込むと、センマニーも下がりながら勝利を確信し試合をコントロールに入る。
気骨ある戦いで生き様を見せてくれた健太だが判定は当然ながら0-3の完敗。ムエタイのど真ん中に挑んだ「掴めアジアンドリーム」だったが連敗を抜け出すことはできなかった。
試合後、健太は「ミドルキックは腕で受けちゃダメ。絶対」とツイッター上に投稿。真っ赤に腫れ上がった両腕の写真がその衝撃度をもの語っていた。さらに対戦相手のセンマニーと一緒に写った写真も公開して「勝利者賞の盾が欲しかった」と心の内を吐露した。
タイの観客にも認められた折れない心、グッドルーザーとして健太を称賛する声も少なくない。一方でセンマニーvs健太は、ムエタイにおける日本人vsタイ人の現在地、力の差を見せつけられる悔しい試合でもあった。