NHK連続テレビ小説「なつぞら」で注目を集め、今クールの連続ドラマでは「SEDAI WARS」「ホームルーム」と2作同時主演。数多いる俳優の中でも、その実力から頭ひとつ抜けた存在なのが山田裕貴(29)だ。多くの作品に同時に出演していても全ての役に全力投球。「パフォーマンスが落ちるのが嫌なので、全て100%です」と語るストイックな男の顔をのぞいてきた。
最新作『嘘八百 京町ロワイヤル』(1月31日全国公開)で山田が演じるのは、“陶芸王子”としてメディアにもてはやされる若き陶芸家・牧野慶太役。佐々木蔵之介演じる、社会に評価はされてはいないが腕利きの陶芸家・野田佐輔という自身と真逆の境遇の人間に密かに憧れを持っているというキャラクターだ。
山田はこの牧野という人物について「純粋に土を触るのが好きで、それが楽しくて始めた人。でも、ひょんなことから広告塔として扱われるようになり、すごく悩んでいた。そんなときに佐輔さんと出会って自分の本当の思いに気づいてしまう」と分析。骨董番組に出演しているシーンも、“陶芸王子”としてキラキラ明るく振る舞いながらも複雑な思いがにじみ出るように演じたという。
「僕らの仕事も、夢を与える、元気を与えるお仕事だから、と思われているだろうし、普段もそうであるというイメージを持たれていると思うのですが、そんなことはない。“王子”と呼ばれる人たちは特にそう。清廉潔白で、何も歪んだところが全く無い人だと勝手にイメージを持たれる。でも、人間なんだからそんなはずない。僕は“王子”ともてはやされているわけではないですけど、その気持ちはわかる。牧野を見てかわいそうだなと思いましたし、側から自分を見ている感覚がありました」。過度に期待されてしまう牧野の “陶芸王子”としての姿には同情的で共感も強い。
「人気者になりたいわけではないと思うんです。何をやるにしても。スポーツ選手の人たちも、大会に勝ちたい、試合に勝ちたい、上手くなりたい、金メダルをとりたいと思ってなっている。人気者になりたいと思ってオリンピックに出ている人は多分いないですよね。俳優もそうだと思います。もちろん中には、モテたくて始めましたっていう人もいるでしょうけど、僕は全くそうじゃなかった」
そう言い切れるのは、父親に元プロ野球選手でプロ野球コーチの山田和利を持ち、幼少期より「プロの厳しさ」を間近で見つめてきたからだ。
山田は当たり前のように自分にも厳しくなった。漠然と自分もプロ野球選手になると考えていたというが、中学時代にその夢は挫折。
「自分も野球をやっていたんですけど、自分はプロ野球選手になれないと思った。化け物みたいな選手が周りにたくさんいる。野球のセンスだったり、体格の差を目の当たりにした。そこにアンフェアなものを感じてしまったんです。りんごを握り潰す人とかもいたので(笑)。僕なんかホームランなんて試合で何本も打てなかったんですけど、ぽんぽん柵を超えていく人がいる。そういう人がどんどんレギュラーになっていった。父親がプロ野球選手なのに、僕はなれないかもしれない。男として負けだと思ってしまった」
「もともと心理学や、心のこと、人間のことを考えることに興味があって、『宇宙ってなんでできてるの?』とか。『なんで?』が強い子だったんです。それを職業にできたらいいなと思いました」
山田がそこで見つけたのは、人の気持ちを考え抜く“俳優”という仕事だ。「ここだったら、体格もないし、持っている声や容姿、全てフェアだなと。心にセンスはないだろうと思いました」。人との違いは全て個性。そこに優劣はなく全てがフェア。それが山田が俳優を志した理由なのだ。
さらに、俳優の評価の出方も山田には合っていた。「自分単体で評価を得たり得なかったりする。もちろん作品としての評価はありますけど、全部自分のせいにできるなと思ったんです。『あの作品よかったよ』って言われなかったら、普通だったんだ、全然ダメじゃんってすぐわかる。人の反応、それこそ顔を見ていればわかる。そこが面白いし励みになる」。
責任は自分でとりたい。非常にストイックな考え方に感じるが、山田は「僕は自分のことをストイックだなんて思っていない」と否定。「当たり前だと思っている。その作品は60%の力でいいの?良くなかったらダメじゃんっていうのがあります。(同時期に撮影していても)全て100%で演じたい。パフォーマンスが落ちることが一番嫌です」と、自分自身に甘えを許さない。
牧野は不器用ながらに自分の技に磨きをかけ続ける佐輔に憧れ、影響を受けるが、山田自身はどんな人物に憧れるのか。そう問いかけると、「もちろんここに出演されているみなさんに憧れている部分はありますが、それは心酔してますということではなくて、みんなのいいところ全部もらえたらいいのにと思っています。それがきっと自分自身のオリジナリティになるはず」と共演者への尊敬を述べつつも、「意図的に憧れないようにしている」と意外な回答。
「ある漫画で『憧れは理解から最も遠い感情だよ』というセリフがあるのですが、憧れてしまうと、その人のことがわからなくなるという意味なんです。この人はこうだからすごいんだ、だから自分にはできないやって勝手に思い込んで、理解できなくなるんです。なので、憧れないです。人に期待しすぎると、頑張れなくなる。自分にだけ期待しています」
なりたいのは“ジャンル”になっている人。「歌といえば、ダンスといえば…というような人がいる。“俳優といえば”で自分の名前が上がるようになれれば」。山田は今後も自身の高い期待に応え続け、私たちを楽しませてくれるだろう。
テキスト:堤茜子
写真:You Ishii