日本人選手の“対世界”の闘いにおいて、歴史に残る名勝負になったのがDJことデメトリアス・ジョンソンと和田竜光の一戦だ。両者は昨年8月にONE Championshipで対戦。UFCフライ級の“絶対王者”だったDJを相手に和田は大善戦してみせた。判定で敗れはしたが、バックを奪って攻め込む場面も。フルラウンドの攻防で、和田はその実力を世界に知らしめた。
1月31日、ONEマニラ大会で久々の試合を迎える和田は、DJとの闘いをこんな言葉で振り返った。
「シンプルに“DJ強かったな”というのと、あとは触れ合えたことが楽しかったですね。自分が唯一、闘ってみたかった選手をたっぷり体感できました。自分が持っているものをすべて出して、その上でDJがはね返してきた。正直、悔しさはないです。もう一つ感じたのは、DJもやっぱり人間なんだなと。強かったけど、向こうにとって嫌なこともあるし攻撃したら痛いし。自分にも勝つチャンスがあるかもしれないと思えました。今のスキルでは無理です。けどチャンスはある」
1.31マニラ大会で対戦するのはブラジルのイヴァニルド・デルフィノ。キャリア8戦全勝でONE初参戦となる。間違いなく勢いのある選手であり、また過去の試合映像がないため、和田としては対策が難しいようだ。
「負けたことのない選手ならではの強さってあるんですよね。自信満々だから、タッチの差で当てられるパンチがあるんです。負けた経験があると、なかなか思い切っていけない部分がある。“ここでこうすると攻撃を食らうかも”ってなって、そこでコンマ何秒で後手に回るかもしれない。そういう相手に対してどう闘うか。どういう選手かも分からないですし、結局いつも通りにやるしかないですね。選手は持ってるもの以上は出せないですから。今までやってきた練習、試合の経験。その精度を高めていくだけです。今回は大事な試合ですね。大事じゃない試合なんてないんですけど、特に今回はDJとの試合の後で“和田はどんな試合をするんだ”って思われるでしょうから」
単純にDJ戦で掴んだ手応えをここでぶつけるというわけでもないようだ。和田の格闘技に対する考え方は、言ってみれば“大人”である。
「今回の試合で難しいのは、DJとやった時と同じパフォーマンスが出せるとは限らないってことなんですよ。やっぱり強い選手と闘う時はこっちも集中するし、相手に引っ張ってもらう部分があって。DJ戦の動きは、相手がDJだからできたっていう部分があるんです。DJと試合したからって、急に強くなったわけでもないですからね。それは自分が一番分かってますよ(笑)。練習でいろんな人にやられてますし」
和田の“大人のMMA哲学”ともいえるコメントを、もう一つ紹介したい。MMAは団体によって細かいルールが違い、ONEもリング、ケージ両方で試合が行なわれている。そもそも幅広い技術が必要なスポーツだ。そんなMMAに、和田はどう向き合っているのか、
「どんな相手でもどんなルールでも“KOすればいい”とか“一本取れば同じ”みたいなことを言う人もいますけど、僕はそういう考え方が大っ嫌いで(笑)。そりゃあみんなKOとか一本で勝ちたいですよ。できるならしてます。でも実力が拮抗してくると簡単にはできない。ルールや判定基準に対応していく必要もある。常にギリギリの闘いの中で、ちょっとでも勝つ確率が上がる方法は何か。いろんな難しさに直面しながら、そのたびに工夫していくのがMMAなんだと思います。本当に細かい勝負もあって。たとえば自分の表情一つで相手のメンタルも変わってきますから。疲れた顔を見せたら相手は強気になる」
もちろん、ファイターだから“達観しすぎ”も怖い。これからのキャリアについて聞いてみると、やはりそこは意欲満々だった。
「もちろん目標は全勝です。ここから1敗もせずにタイトルマッチに行くつもりでいますから。これからまだ数年は進化できると思ってますし、進化してると思えるうちは頑張りたいです」
あらゆる意味で、和田竜光というファイターはバランスが取れてきているのだろう。今回の試合、その“大人の魅力”をたっぷり味わいたい。
文/橋本宗洋