将棋界でも、そのトーク力に定評がある2人がそろえば、その破壊力はすさまじい。2月11日に行われた朝日杯将棋オープン戦・決勝で、大盤解説を務めたのは木村一基王位(46)と佐藤康光九段(50)。次々とファンから爆笑が起こる様子に、同年代の郷田真隆九段(48)が「将棋の解説をしている感じがしないですね」と笑うほどだった。そんな“将棋漫談”一部を紹介する。
決勝は永瀬拓矢二冠(27)と千田翔太七段(25)。どちらも今後の将棋界を担う逸材だ。進行役から昨年、千田七段がベスト4で敗れた時に、2連覇を果たした藤井聡太七段(17)に対して「最近の若いもんには勝てません」とこぼしたエピソードに、木村王位が“先手”を取った。
木村王位 そうした(自分たち)40代は化石じゃないですか(笑)
「千駄ヶ谷の受け師」の異名を持つ木村王位だが、イベントなどではファンからバンバン笑いを取る「千駄ヶ谷のウケ師」。このくらいの反応は、もはや手筋だ。
“後手”となった佐藤康九段だが、一緒になって笑っているだけではない。すぐに切り返しの一手を繰り出した。
佐藤康九段 だってそうですよ。千田-藤井戦でしょ。(年齢)を足して42。2人とも(それより)年上なんですから。
これには、会場も先ほど以上に大きな笑いが。さすがは日本将棋連盟の会長職を担う男。いろいろな場所であいさつをする際にも、将棋同様に独創的なコメントで笑いを取るのは、ファン・関係者の中でも有名だ。そしてここから、トークのテンポも早指し並みに上がる。
木村王位 それは知らない方がよかったんじゃないですかね。今気づきましたよ。帰りにショックを受けそうです。
佐藤康九段 なるようになりますよ。1年ずつ経てば、だんだんその差は縮まりますから。前向きに考えた方がいいですよ。
木村王位 そういう発想が幸せになる秘訣ですか。いやー、そうなんですね。もう普通に見られるカードですからね。
佐藤康九段 平成生まれの棋士が(今期は)準決勝に3人。そういう時代です。
2人ともベテラン棋士に追いつけ追い越せと切磋琢磨し、トップ棋士になった。今や立場がひっくり返りつつあるアラフィフの悲哀も感じさせつつ、その話題を笑いに転化させるあたり、見事な話術だ。
話題は、こちらも同世代である藤井猛九段(49)が考案した「藤井システム」にも及び、ここでもひと笑い起きた。
佐藤康九段 最近「藤井システム」って言うと、藤井九段が気にするんですよ。「藤井聡太システム」なんじゃないかって。それは違うんですよと、お伝えしておかないと。
木村王位 藤井システムは振り飛車ですが、王様を囲わずに攻めるんです。お子さんには玉を囲いなさいって教えますもんね。藤井さん、やってないもん。「木村先生、この前藤井さんに負けたじゃん」って言われたら、もう言うことがない(笑)
一連のやりとりを見て、郷田九段はまたひとこと「いつまででもしゃべっていそうですね」と微笑んだ。ファンからすれば、まさに聞き得で、いつまででも聞きたいトークだったことだろう。