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 映画『娼年』ではボーイズクラブの娼夫、『孤狼の血』ではマル暴の新米刑事、『新聞記者』では苦悩する内閣情報調査室の官僚と、様々な役柄を演じてきた実力派俳優・松坂桃李が次に挑むのは殺人犯。「乱反射」「愚行録」で知られるミステリー作家・貫井徳郎の小説を原作としたドラマ「微笑む人」(3月1日(日)よる9時~/テレビ朝日系)で、妻子を殺したエリート銀行員・仁藤俊美を演じる。穏やかな物腰で常に微笑みをたたえる仁藤。彼のイメージからは全く結びつかない犯行に注目が集まるが、さらに世間を震撼させたのは、「本の置き場所が欲しかった」という殺害動機だった。

 松坂桃李は、この一見異様な仁藤という男をどのように理解し、そこから何を感じたのか。そしてどんな役を演じても引きずられることのないそのイメージの理由とは。

自分の“普通”と他人の“普通”は違う「仁藤の場合はそこのずれの差が大きかっただけ」

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――オファーがきたときはどのように感じましたか?

松坂:最初から犯人は誰かわかっているような状態からスタートする物語で、珍しいサスペンス作品だなと思いました。視聴者は尾野さん演じる記者・晶を通して「なぜこの人はこんなことをしてしまったんだろう?」と見ていく。晶の目線で見ることで、人は印象だけでその人を完結させて、簡単に “いい人”“悪い人”と決めつけてしまうところがあると気づく。だけど、実際にはそういうことじゃない。そこは非常に興味深かったです。

――松坂さんが演じたのは“妻子を殺害したエリート銀行員”である仁藤というミステリアスな役柄。感情の起伏を出さずフラットに演じることを心がけたとお聞きしたのですが、難しさはありましたか?

松坂:作品に入る前はいろいろ考えました。どうやって仁藤という人物のつかみどころのない感じを自分の中で昇華させていこうかと。

なので、僕は勝手に想像して「仁藤はこんな男だ」と決めつけないように、彼の言葉通りの人物だと思おうとしました。裏があるわけではない。彼の中で裏も表なんです。微笑んだ感じや、彼の物腰の柔らかさから好印象なイメージを勝手に持ち、人を殺したら「いや、そんなわけない」って他人は勝手に思うんですけど、彼に取っては両方が表。彼の中で妻子を殺害した理由は、本当に「本の置き場所が欲しかった」からなんだと。彼と正面から向き合っていけば、とんでもなくややこしいことにはならないと思いました。

ニュースを見ていても、仁藤みたいな人は実際にいると思うんです。自分の中での“普通”と相手が思う“普通”は違うので、仁藤の場合はそこのずれの差が大きかっただけ。ひょっとしたら自分自身も相手からそう思われている可能性もある。自分の価値観は人と違うし、自分の理解できない、不安を感じてしまうものに対して、どうしても気持ちのいい落とし所を見つけたいんでしょうね。

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――松坂さんが“普通”だと思っているのに、周りからは驚かれることはありますか?

松坂:現場バッグがビニール袋とか(笑)。撮影現場の台本や、ちょっとしたものを入れるバッグを女優さんとかが持っているんですけど、僕の場合はあれがビニール袋なんです。

――特定のお気に入りのビニール袋なのですか?

松坂:ファミマ、ローソン、セブンイレブン、そこらへんにあったものです。気づいたら、ゴミ袋と間違えられて、おにぎりやティッシュのゴミが入ってました(笑)。

――以前、菅田(将暉)さんが、「松坂さんは同じ靴をずっと履いている、靴底が壊れたらリペアして履いている」とおっしゃっていたのですが、それも珍しいですよね。

松坂:ありましたね!(笑)靴底が壊れるまで履いてしまう、長いこと使ってしまう傾向があるんです。お財布、カバン、お洋服もそうです。「替えないの?」って聞かれます(笑)。買うときは「これを長く使いたい」と思って買うことが多いので、それをローテーションで使ってしまうんです。

――ある意味こだわりが強いのかもしれないですね。ひょっとしたら現場バッグもちょうどいいものが見つかったら…。

松坂:そうですね。そしたらコンビニの袋をやめる可能性は大いにあります(笑)。

目撃した尾野真千子の意外な一面に「男性スタッフはメロメロになっていたんじゃないかな」

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――尾野さんとの共演はいかがでしたか?

松坂:この作品は尾野さんとの絡みがメイン。後はずっと独房(笑)。尾野さんとの2人芝居はすごく刺激的でした。素敵な女優さんで尊敬しているので、そんな方と濃密な接見室のシーンを演じられて光栄でした。あんなに重たいシーンなのに、カメラが回っていないところでは、尾野さんは明るく喋ってくださるので、緊張感と緩和のバランスが良かったです。

――尾野さんのこれまでのイメージとは違う意外な一面はありましたか?

松坂:さっぱりした男っぽいイメージを持たれる方が多いと思うんですけど、やはり女性らしい一面も垣間見れまして、「これは好きになる人多いんじゃないか…」と思いました。結構恥ずかしがったりもするんですよ。その姿は、現場の男性スタッフはメロメロになっていたんじゃないかな(笑)。

役に引きずられない松坂桃李のイメージ 意識しているのは?

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――松坂さんはどんな役を演じてもイメージは爽やかなままです。好印象なイメージが崩れないのはなぜなのでしょうか?意識していることはありますか?

松坂:マネージャーさんとよく話をするのは「バランスだね」ということ。自分の好みの作品をやっていくと重たい作品が多くなってしまうし、エンタメ系よりはサブカル系が多くなってしまうので、やれるのであれば、いろんな色が入っている作品に挑戦したい。後々自分が40、50代になってきたときに生きてくると思うので、あまり偏りすぎずにやっていきましょうと話しています。あと、何より僕の事務所は「品とPOP」というのを掲げているので、そこを守らなければいけないみたいです(笑)。

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――最後にこの作品に出演したことで改めて気づいたことを教えてください。

松坂:この作品を通して、印象だけで片付けられないことがたくさんあると気づきました。改めて咀嚼する時間は必要だと思います。

ドラマにしても映画にしても音楽にしても、尺の問題でどんどん短くなっている。みんなすぐに答えが欲しい。前の時代より答え・情報が早く手に入るようになったからこそ、自分で物事だったり、人との向き合い方だったりを短縮するようになっている。そんな時代だからこそ自分で物事を考えて判断するのが大切だと思います。

自分も気づかない間に晶のような行動や発言をしているのではないかと思うんです。自分が気づかない、知らない間にそういう人になっているという怖さがあります。

ものさしって持ちすぎても怖いし。でも持たなすぎても、自分自身がぶれてしまって、影響受けすぎるのも怖い、そのバランスも難しいところなんですよね。

この作品は気持ちのいい終わり方ではないかもしれないですけど、人間の知らず知らず持っている意識に一石を投じるような作品です。少しでも多くの方にみていただきたいです。

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テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

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