今、女子プロレス界の“ニューカマー”としてアイスリボンのリングで存在感を発揮しているのがラム会長だ。昨年6月から参戦、150cmに満たない体格に黒のコスチューム、黒髪ロング、そして白のペイントというビジュアルは怪しくもありキュートなようでもあり、とにかく他にいないタイプのレスラーと言っていい。そして彼女は、もうすぐデビュー15年を迎える。
所属は「暗黒プロレス組織666」。ミュージシャンのザ・クレイジーSKBが怨霊とともに立ち上げた団体で、怪奇派、個性派、実力者ごちゃまぜのエンタメ色の強い団体だ。この団体で、ラム会長は小学生の時にデビューしている。いわゆる“キッズレスラー”のはしりだった。
「プロレスは見てましたけど、特に凄く好きだったわけではなくて。“ゲーム買ってもらえるから”みたいな感じでリングに上がってました。結果、キッズレスラーが増えたので間違ったことではなかったのかなとも思ってるんですけど」
当時の試合のことはあまり覚えていないというラム会長。ただアイスリボンに参戦している今から比べると「温室育ちだった」という。
「男子レスラーばっかりの中に女子、しかも小学生がいるんですから。姪っ子みたいなもんでそれは可愛がられますよね。というか甘やかされてましたね」
ペイントをした小学生女子レスラーが暴れまわり、大人のレスラーに毒づいたりするのだからウケて当然だった。そんな状況を「まあ、これがおいしいんだろうな」と思う醒めた自分もいたそうだ。
2009年に一度引退し、16年に復活。そして昨年からアイスリボンに参戦することになった。以前は男子レスラーとのミックスドマッチが多かったから、一人のレスラーとして“女子プロレス”を経験するのは初めてと言ってよかった。
(2月8日の大会では前哨戦で勝利し、藤本を挑発。王者もラム会長の成長を認めている)
666の名を広めたいという思いからの他団体参戦。ラム会長は「新人のつもりで出てます」という。あらためて受身など基礎の練習も始めた。もちろん、戸惑いはあった。
「みんな大人なので人間関係とかは全然(笑)。ただ私は男子選手からプロレスを教わったので。“最少の技でいい試合をするのがいいレスラー”だと。逆に今の女子プロレスは手数、技数がもの凄く多い。そこは難しいところですね。でも無理に合わせる必要もないのかなって」
いい意味で噛み合わなければ、それもまた試合の“味”になる。“アイドル系”選手も多いアイスリボンで、白塗り黒装束のラム会長は絶妙な違和感を醸し出している。ただ、本人はその見た目と所属団体から想像されるようなダークでゴシックなタイプではないようだ。
「パンクとかメタルとか聞いてそうに思われるんですよね。でも実際は80年代のカルチャーが好きで。マリリン・マンソンを聞いてるイメージかもしれないですけど、実際はマドンナやデヴィッド・ボウイのファンですね。バンドで一番好きなのはブランキー・ジェット・シティ。そんな感じなので、なかなかみなさんのご期待にそえないというか(笑)」
ペイントをしているから、プライベートでファンに気づかれることもない。リング上ではふてぶてしく中指を立てるが売店(グッズ販売)では気さくにファンと話す。そのギャップが「自分にも楽です」とラム会長。「ファンの人と普通に話すだけで喜ばれますから(笑)」。
レスラーとしては「もともとこの顔」だから、今さらキャラクターを変えようとは思わない。といって、イメージに合わせて過剰に自己プロデュースをしようとも思わない。「“ラム会長”は、もともと大人が作ったもの」という言葉も。本人にとっても“他人ではないが自分そのままでもない”絶妙な距離感の存在がラム会長なのだろう。
しかしプロレスそのものに醒めてはいない。アイスリボンのリングに上がり、本格的に取り組めば取り組むほど、このジャンルの面白さが分かるようになっていった。
「プロレスは単に闘うだけじゃなくて、そこに美しさがありますよね。それに、どんな人間にも武器が作れるというか。私みたいに体が小さくても、プロレス脳を使えば何かやり方がある。一発逆転できる。そういうところがプロレスの魅力だと思います」
2月24日のアイスリボン後楽園ホール大会では、フリーの山下りなと組み「エネミー軍」として藤本つかさ&つくしの「ドロップキッカーズ」が持つタッグ王座に挑戦する。アイスリボンに新しい風を吹き込ませる。そんな狙いがあっての王座挑戦だが「ベルトが一番の目標ではないです」と言う。
「もちろんベルトを巻けたらいいなとは思うんですけど、私がチャンピオンベルトを巻いてもそこまでメリットないのかなと(笑)。ベルトがステータスになるタイプのレスラーではないと思って。今回も、りなちゃんと組んでドロップキッカーズと闘うっていうのが一番大事で、楽しみなんです。タイプが違うチームだから面白くなると思う」
出がアングラなので、そこまで欲はないんですよね……と笑う。ただ今が“デビュー15年の新人”だとして、このまま独自の存在感を極めた時にどんなレスラーになるのかは興味深い。
「早熟にして大器晩成」
これはジャンボ鶴田を評した週刊プロレスの名コピーだが、実はラム会長にも当てはまるのではないかと思ったりもするのである。
文/橋本宗洋