「障害者雇用促進法」で定められ、官民ともに適用される「法定雇用率」。2年前に発覚した、中央省庁の障害者雇用数水増し問題。当時、8割の機関が公表よりも少ない雇用状況だったが、問題発覚後に採用を進めた結果、去年12月末までに5000人近くを雇用、水増しを解消したことがわかった。
しかし、民間企業も含めた法定雇用率の達成率は未だ48%と、全体の半数以下というのが実態。しかも、来年3月までに、法定雇用率は2.3%(民間)に引き上げられることになっている。
■精神・知的障害者の雇用は企業側に負担感も
そんな中、統計上で伸びているのが、働く知的・精神障害者(ここ10年で10倍)だ。自民党幹事長特別補佐の木村義雄・元参議院議員は、その背景に法改正が関わっている話す。「国連の国際障害者年によって、雇用率の対象に知的・精神障害者が入ってきた。また、精神障害についても範囲が広がってきていて、例えばうつ病になった人や発達障害の人なども手帳をもらえるようになった。将来はノーマルな方々と障害を持った方々とボーダーレスになるのではないかとも言われている」と説明する。
一方、雇う側としては、身体障害者に比べて難しさを感じるのが、知的・精神障害者の雇用だ。あるサービス業人事担当者は「精神疾患の方はどのくらいの仕事ができるのか。症状の深刻さも見えないなど、懸念することが多い」と明かす。
国内初の“働く障害者のための労働組合”、「ソーシャルハートフルユニオン」の久保修一書記長は「製造業など、数える、仕分けるといった仕事であれば雇いやすいが、同僚や上司とコミュニケーションが必要なところではなかなか雇いづらいという背景があると思う。また、車椅子の人の場合、段差が大変だということはすぐにわかる。しかし、うつ病の人にどのようなフォローをすれば良いのか。そうなってくると受け入れる自信がなく、雇いたいと考える会社が少ないのが実際だと思う」と話す。
実際、ある接客業の担当者は「その人に合った新たな仕事を生み出したり、またケアする人を作らなければならない」と話す。
■現実的には難しい法定雇用率の達成
そんな中、2018年に損害保険会社大手のSOMPOホールディングスが設立したSOMPOチャレンジド株式会社(東京・西東京市)では、身体障害者の雇用が進んでいたグループの中でも、精神・知的障害者が強みを発揮できる企業として設立された。現在、40人ほどが勤務をしており、全国から集まった書類の仕分けやパソコンのデータ入力などの事務作業を行っている。
ただ、SOMPOグループとしても、これだけの多人数を雇用するのは未知の試み。障害者を5人以上雇用する場合に、体調面や職場での人間関係をサポートするために専任が義務付けられている「障害者職業生活相談員」を3名雇った。
この相談員の制度について、前出の久保氏は「2日間で合計12時間くらいの講義を受けるだけでできるし、一般大学を卒業しているとか、人事や労務の部署の人で1年、2年相談を受けているということで労基署に届け出をする。しかし実際は、自分がこの生活相談員だったということを知らなかったという人もいるくらいで、機能していない場合が多い」と話す。
■“企業名を公表”のペナルティが怖いが…
こうした取り組みを続けるSOMPOループ全体でも、雇用率は法定ぎりぎりの2.23%。引き上げ後の2.3%には未達なのが現実なのだ。法定雇用率を達成している企業には、1人超過で月2万7千円支給されるが、逆に割り込んだ場合、事業者には1人不足で月5万円納付することが義務付けられている。
久保氏は「調査は年に1回なので、“年60万円”と考えた方が良いと思う。また、指導が入ったり、場合によっては厚生労働省のホームページに企業名が掲載されるケースもある。“ダイバーシティ”や“インクルージョン”を経営理念に掲げない会社はないくらいだが、現実的にはペナルティを払う、あるいは経営陣から“ちゃんとやれよ”と言われ、人事が慌ててかき集める。理念の部分と、とにかく数を入れないことにはどうしようもないんだという現場とのギャップがある」と説明。
木村氏も「やっぱり労基署が怖い。とくに公表されれば、公共事業から除外されてしまう。だから、我慢してお金を払えばいいということでもない。しかし、本来はそれぞれの方の特性に合わせた仕事を見つけられるように注力する流れにしていくべきだ」と指摘する。
■“間接的に雇用を生み出す”取り組みも
一方、他社を仲介することで間接的に雇用を生み出している事業所もある。
わーくはぴねす農園(千葉県 や埼玉・愛知)で働く障害者たちは、雇用関係にある東急ハンズなどの企業から給与を得ているが、勤務先はこの農園だ。また、農園の運営は雇い主の企業ではなく、エスプールプラスという別の会社が行っている。エスプールプラスが農業研修、就労支援を行い、農園で就労するという仕組みだという。エスプールプラス・わーくはぴねす農園の大橋王二事業部長は「本業の中でこれ以上雇用するのはなかなか難しい。それでもしっかりやりがいのある働き場を創出したいという企業が参入してきている」と説明する。
サポート役もおり、従業員の満足度も高いこの事業は多くの企業の目に留まり、現在240社以上が利用。従業員の一人は「やっぱり一番楽しいのは収穫の時だ。月に一度、父と母に大トロと中トロと本マグロのものすごく高いお寿司を買ってあげると、すごく喜んでくれるので、気分が高揚する」と話す。
ただ、彼らが収穫した農作物は福利厚生として雇用先企業の社員に配られることがほとんで、お金を生むビジネスにはなりにくい。ビジネスとしてではなく、あくまで“障害者たちの新たな職場”の創出という面が否めないのも現実だ。
ジャーナリストの堀潤氏は、「やはり“障害者”という主語は大きすぎる。パラリンピックで最も難しいのが障害に応じたクラス分けであるように、100人いれば100通りの障害がある。ハローワークなどで、Aさんは今こういう状況で、といったことが正しく共有できているのか。雇用枠があります、数値を高めます、だけでは動いていかないのではないか」と懸念を示す。
また、木村氏は「むしろ隠れた素晴らしい才能を持っている人もいる。そのような人たちをいかに発見していくかということも、企業のこれからの腕の見せ所だし、国連では“完全参加と平等”と言っている。将来は健常者や障害者という境をなくすという思想に変えていかなければ、最終的な解決はない」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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