(ベルトを巻き、いつでもどこでも挑戦権を守り、ブラジャーを噛み締める青木)
とにかく自由度が高いDDTでは、リングのない場所でもタイトルマッチが行なわれる。3月11日、さいたまスーパーアリーナ全域を使って無観客試合として実施された路上プロレス。その対戦カードの一つがEXTREME級選手権だった。もともとは通常興行の中で行なわれるはずだったが、新型コロナウイルスの影響で大会自粛となり、路上プロレスにスライドされた。
このEXTREME級タイトルは、試合ごとにチャンピオンが自由にルールを設定できるDDTらしいもの。舞台はさいたまスーパーアリーナに隣接するコミュニティアリーナ。王者・HARASHIMAに挑んだのはMMAファイターでDDTにレギュラー参戦中の青木真也だ。かつて「お互いのプライドがルール」でベルトを争った2人。今回もルールが注目されたが、それは試合開始直前に判明した。
会場中央、リングのないむき出しのフロアで対峙した両者がTシャツを脱ぐと、その胸にはブラジャーが。そしてゴング前に目隠しをつけ始める。
EXTREME級王座の歴史の中でも、とりわけ伝説として語り継がれる「目隠し乳隠しデスマッチ」だ。ブラジャー着用、目隠しをして闘い、フォール・ギブアップの他に相手のブラジャーをはぎ取っても勝ちとなるルール。“お笑い企画”に見えて、視覚が使えない緊張感は相当なものだという。
HARASHIMAはこのルールでアントーニオ本多と名勝負を残しているが、青木は初体験。日本最高峰のMMAファイターが目隠しにブラジャー姿になっているのはかなりのインパクトだった。しかもネットで全国生中継である。
(卍固めからブラはぎで勝利。無観客アリーナは独特すぎる光景だった)
今回はリングではなく路上ということでスペースも広大。お互いが組み合うまでにも時間を要した。その“探り合い”が緊張感を高め、いざ相手を捕まえ、青木が関節技の体勢に入ってもブラジャーを狙われて大ピンチ、という場面も。やはりこの試合形式、独自の戦術が必要になる。そんな苦しい、文字通り“手探り”の闘いでも青木は奮起。卍固めでHARASHIMAの動きを止め、ブラジャーをはぎ取って勝利を収めた。
タイトル奪取の喜びからか、プレッシャーから解放されたためか、試合後の青木はベルトを巻くだけでなくブラジャーを頭に装着、口にもくわえてベルト&Wブラ状態で勝利の余韻を噛みしめたのだった。
このルールには慣れているはずのHARASHIMAだったが、路上は勝手が違ったのか「どこかアウェーな感じでした」。一方、青木にとってさいたまスーパーアリーナはかつての“ホーム”だ。PRIDE、DREAMで何度もこの会場を訪れた。
ヨアキム・ハンセン、エディ・アルバレスといった強豪に一本勝ちを収め、川尻達也との日本人頂上決戦を制し、逆に大敗を喫した試合もある。RIZINでは第1回大会で桜庭和志に勝利した。今回はその桜庭戦(2015年12月29日)以来のさいたまだった。
「久々にさいたまの控室に試合をする立場で入って。久々だなぁと思ってたらこのルール。2005-2006年くらいから僕の格闘技の歴史はこの会場とともにあった。その幅が広がった。俺しかできないことをやっている自負があります」
青木にとってさいたまスーパーアリーナは“格闘技人生を作ってきた場所”であり“桜庭和志に勝った場所”であり、なおかつ“路上でHARASHIMAのブラジャーをはぎ取った場所”になった。DREAM時代、青木は自分の闘いを「青木真也というスポーツ」と表現したが、その言葉は今の状態にこそふさわしいと言えるだろう。
文/橋本宗洋