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(今は団体に反旗を翻す立場。王座防衛後も目の鋭さは変わらず)

 3月14日、アイスリボンが今年2回目の後楽園ホール大会を開催した。今年は“聖地”で合同開催合わせて11大会、5月4日には3年連続となる横浜文化体育館でのビッグマッチも控えている。飛躍の年とするためには、団体としての戦力アップが必須の状況だ。

 メインイベントは団体の頂点に位置するICE×∞のベルトをかけたタイトルマッチ。一昨年大晦日以来、引き分けでの王座返上はあったが誰にも王座を譲っていない雪妃真矢が、最強の挑戦者とも言える柊くるみと対戦した。

 パワフルかつ情け容赦ない攻撃で“人でなし”とも“怪物”とも呼ばれるくるみ。チャンピオンにとっては真価が問われる“壁”でもあった。また雪妃は2月の後楽園大会で外敵である「エネミー軍」への合流を表明し、選手会長を辞任している。自己主張がなかなか見えてこない中堅どころの選手たちを突き放し、奮起を促すためだ。

 逆にくるみは、自分を表現するのが下手な選手たちに寄り添う姿勢。後輩たちに対するスタンスの違いもあっての対戦決定だった。

 序盤、くるみはいきなりエプロンで「人でなしドライバー」を敢行。リングの固い部分に雪妃の頭を突き刺すと、場外戦で主導権を握る。対する雪妃は腕への一点集中攻撃。関節技はもちろん腕に蹴りを叩き込む場面もあった。大技の攻防もギリギリでクリアすると、最後はアイシクル・バックトライアングル。横三角絞めから自分の体を起こし、腕を固めるサブミッションだ。くるみは完全に動けない状態となり、レフェリーが試合を止めた。

 飛び技も武器とする雪妃だが、この試合では蹴りと関節技、一点集中攻撃とシビアな闘いぶりが際立った。そうでなければ“怪物”は倒せないということだろう。

「くるみさんはキャリアのすべてを総動員しないと勝てない相手。私はアイスリボンでは体が大きいけど他団体に出ると細い。大きい相手にも小さい相手にも勝つにはどうすればいいか模索してきたし、場外も凶器を使ったり使われたりする闘いもしてきました。そこから作られたのが飛ぶ、蹴る、投げる、極める、なんでもやる試合。それが今日の結果につながりました」

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(勝負どころで必死の形相。この三角絞めから腕を固めて勝利)

 オールラウンダーである雪妃には、ファイトスタイルに“これ”という軸がない。そんなイメージもあったのだが、実はそれこそが彼女が磨き上げたスタイルなのだ。他団体も含めて経験してきた“修羅場”が、4度目の王座防衛につながった。くるみに勝ったことで「私が信念を持ってやってきたことが結果に出た。自信になりました。私は私の信じることをやろうって」とも。

 試合後、雪妃がマイクを握って「すいませんね、雪妃真矢が防衛しちゃいましたよ」と毒づくと、一部のファンからブーイングが発生した。これに雪妃は「面白くなってまいりましたって感じですね」。観客から、単に“応援する”というだけではない反応を引き出せるようになったことにも手応えを感じているのだ。

 フェリス女学院卒、元銀行員という経歴も注目される雪妃。しかし見るべきは「異色の経歴を持つ美女レスラー」にとどまらないために、彼女がどれだけ必死になってプロレスに取り組んできたかだ。リングで見せる“華”の部分でさえ、単に天性のものではない。コスチュームにせよメイクにせよ、雪妃はとことんこだわる。“雪妃真矢”のあらゆる要素が努力の賜物。そう言っていいかもしれない

 次の防衛戦は5月4日の横浜文化体育館大会。挑戦者は鈴季すずに決まった。17歳、デビューからわずか14.5ヵ月のすずだが、3.14後楽園では取締役選手代表の藤本つかさに勝利。次期エース候補の最右翼に躍り出た。

 自分を脅かす存在の出現は、雪妃も望むところだろう。自身にとっては3年連続での文体メイン。1年目は挑戦者、2年目は王座決定戦だったから、チャンピオンとして赤コーナーに立つのは初めてだ。

「文体で最後に入場して、赤コーナーに立つ。どんな景色なんでしょうね。それを夢見てたんです。やっと勝ち取りました」

 周囲からトップに立つことを期待された。しかし団体最大のビッグマッチ、そのメインの赤コーナーは誰かに用意してもらったものではない。何度となく修羅場をくぐり、勝ち抜いて掴んだものなのだ。

文/橋本宗洋

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