3月18日、DDTプロレスリングが記者会見を行ない、谷津嘉章のプロレス復帰を発表した。
谷津は1956年生まれの63歳。レスリングでメダル獲得を有望視された“幻のモスクワ五輪日本代表”であり、プロレスラーとしては新日本プロレスでのデビューを皮切りにさまざまな団体で活躍してきた。とりわけジャンボ鶴田との「五輪コンビ」は有名だ。
一度は引退したが2015年に復帰。DDTにも参戦するようになったが、そんな矢先、糖尿病により右足を切断することになってしまう。それでもめげることなくリハビリに励み、オリンピック聖火リレー参加も決定。そしてこのレジェンドレスラーにして“義足の聖火ランナー”が、6月7日に開催されるDDTのビッグマッチ、さいたまスーパーアリーナ大会でプロレスのリングにカムバックすることになった。
会見には谷津、DDTの社長である高木三四郎、川村義肢株式会社の川村慶社長と義足の製作に携わる小畑祐介氏が出席。川村義肢が史上初となるプロレス用の義足を作り、谷津をバックアップすることになった。川村社長は高木の同級生だという。縁がつながってのプロレス復帰だ。
(会見に出席した4人。義足に改良を重ねて“奇跡”に挑む)
「去年の6月に足をなくして、こんな時が来るとは思わなかった。最初は喪失感が凄かったんですが、まず聖火ランナーという目標にチャレンジして。鍛えているうちに“もっともっと”という冒険心が出てきた。足をなくしてからのほうが、何にでもチャレンジしたいという気持ちが強くなりましたね」
会見でそう語った谷津。高木はこうコメントしている。
「かなりの決心だと思います。最初はどこまでサポートできるのかも見えなかった。何か奇跡が起きないかなと。川村社長も即答ではなかったですし。試合では谷津さんの思いをDDTの選手だけじゃなく、たくさんの人に伝えられるんじゃないかと思います。コロナウイルスのこともありますし、みんなの気持ちがめげている中で勇気を与えてほしい」
会見では、プロレス用義足を装着してスパーリングをする谷津の映像も公開された。そこには得意技のブルドッギング・ヘッドロック、監獄固めを仕掛ける姿も。小畑氏によれば、谷津の意見を聞きながら監獄固めをかけやすい形状の義足になっているそうだ。
「プロレスの動きに耐えうるパーツを試行錯誤しました。普通とは違いカカトがついていたり、ひねりのある動きができるクッション性も特徴です」(小畑氏)
(会見では、義足を着用して行うスパーリングの映像も披露された)
川村社長は、谷津のアスリートとしての能力や意識の高さに驚嘆したという。
「ハートが強い方なので、これならいけると思いました。あれはダメ、これは無理と言う人が多いですが、やってみないと面白くない。初めてのことですが、いけると思います」
対戦相手は現在のところ未定。しかし谷津はすでに燃えに燃えている。
「相手は年下の若い選手だろうし、自分にはハンディがあるから遠慮しがちになってしまうと思う。でもそれは谷津のためのよくないし、お客さんにも伝わってしまうから。義足は凶器にもなるから(笑)。手加減するなよと切に言いたい。遠慮すんな、オリャ! と」
義足のレスラーは日本では初。しかも60代となれば、高木の言うように“奇跡”だろう。最初は考えもしなかったプロレス復帰だが、それを可能にしたのは谷津の前向きさだ。
「いよいよここまできたと感無量です。聖火ランナー、そしてプロレス。目標があってよかった。今は足が両方あった頃とは大きく違う気持ちですね。義足を見てください。惚れ惚れするようなフォルムですよ。これを身につけることができるのは、むしろ幸せです」
これから3カ月の準備期間もあるだけに、6月7日のリングでは凄まじいパワーを発揮してくれそうだ。
文/橋本宗洋