「特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で、自身の専門知識やスキルを提供して対価を得る人」(一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)と定義されるフリーランス。政府が推進してきた「働き方改革」の中で注目が集まったこともあり、2015年には913万人だった人口は2018年には1119万人と、大きく増加する傾向にある(ランサーズ株式会社調べ)。
そんなフリーランスの人たちを、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛・休業要請が直撃している。株式会社クラウドワークスのアンケートによれば、実に65.1%の人が「減収になった」と回答するなど、中小企業・小規模事業者とともに厳しい経済状況に置かれているのだ。加えて、子どもの休校で仕事を休む場合の「小学校休業等対応支援金」の一律給付額も、企業に所属する正規・非正規雇用の人たちの給付額が日額8330円(雇用保険から)なのに対し、フリーランスの人たちは日額4100円と、大きな差が開いてしまっている。
エンターテインメントの世界に身を置くフリーランスの人々の状況はさらに深刻だ。俳優の西田敏行が理事長を務める日本俳優連合は「政府のご意向に添い、イベントなどの中止(キャンセル)を受け入れております。私たちにとっては仕事と収入の双方が失われ、生きる危機に瀕する事態です」と声明を発表している。フリーでアーティスト活動を行っているELKst.のSHOTsさんと妻のJULYさんも、収入源の一つであるライブ活動が行えず、困窮した生活を送っている一人だ。『ABEMA Prime』の取材に対しSHOTsさんは「緊急小口資金や緊急経済対策の持続化給付金の目処も立たないことから、音楽活動を一時諦め、運送会社の会社員として働く道を選んだ」と明かす。
ところがこうした苦境に対し、ネット上には“自己責任”を主張、国や自治体が補償を行うことに否定的な考え方をする人たちもいる。緊急事態宣言に伴う影響を考慮に入れたとしても、行政や私たちの社会が手を差し伸べる必要はないのだろうか。
■「騒いでる人は情けないよね」“フリーランス王”の理論とは
「独立したら自責だよ、全て。みっともないから、騒がないでほしいよ」。自身のYouTubeチャンネルでそう語りかけるのが、年商10億円・自称“フリーランス王”の株本祐己・StockSun代表だ。
株本氏は“結果的にフリーランスにならざるを得なかった”ケース、そして現下の状況も踏まえた上で「基本的にフリーランスは会社員の2倍以上の時給でやっている。つまり会社員が400万を1年間かけて稼ぐところを、フリーランスは半年で稼げるということだ。もし半年間に仕事がないんだったらバイトすればいい。それだけの話だ。また、会社員は満員電車に乗り、朝から夜まで管理され、保険や税金もしっかり納めている。しかしフリーランスは経費で落とすなど、普段からいい思いをしている人ばかりだ。それなのに、こういうことになると会社員と同じ権利を求めるのは違うかなと思う」と主張する。
「僕もフリーランスだし、稼ぎが50%、30%と落ちている人は周りにいっぱいいる。その時点で生活費を下回ってしまった、赤字で生きていけないという人は、普段からちゃんと仕事をやれていない、完全に努力不足だから報酬ももらえていない、ということだ。それなら好きな仕事をしながら赤字の分はバイトをして補填するというのが正しい選択で、国に甘えるのは違うと思う。そして、結局は“需要と供給”だ。自分が求める単価と需要が合っていないから企業が契約解除してしまうわけで、単価を下げて“10分の1の時給で働きます”と言えば契約を継続するはずだ。最悪、“100円で働きます”と言えばいくらでも雇ってもらえる。そうやって需要に自分を合わせコントロールするのがフリーランスだ」。
さらに「戦闘力を上げるのが大事。本当の意味で人生って安定する」とし、「僕の会社には“新卒フリーランス”が5人いるが、僕のオンラインサロンではスキルを動画で学べたり、共有したりできる。そうやって、学びつつ自分の労働力をお金で売ることができる。それが僕の理論だ」と説明した。
■「貧困は社会責任。安易な自己責任論は危険だ」ほっとプラス藤田氏
こうした意見に対し、貧困問題などに取り組むNPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典代表理事は「フリーランスの貧困は社会責任だ。安易な自己責任論は危険だ」と反論する。
「落ち着いて、原則論で考えてほしい。まずは企業がきちんと研修をし、給料を補償していく。雇われた人はスキルを身に付けたり人脈を広げたりしていく。その上で、そうした経験を元に独立していくこともあるということだ。ところが正社員を育てる余力がなく、残業削減にも対応しきれない企業にとって、労働基準法が原則適用外のフリーランスは使いやすい存在。政府の働き方にとってもフィットする。社会保険料や様々な福利厚生を負担したくないという思惑から、本来は雇用されないといけない人が業務委託契約という形でフリーランス扱いされている部分もある。全員が自分の意志でフリーランスを選んでいるというわけではないということも理解してほしい」。
また、藤田氏は「確かに職業を自分で選ぶ限りにおいてはリスクもある。だからと言って、困ったときに助けないというのは話が別だ。国としてフリーランスという働き方を推奨してきたとことも考えれば、これほどの差が妥当なのかは疑問だ。一斉休校に対する支援策についても額が少ないし、やはりちゃんと補償を考えるべきだ。株本さんは“自由な働き方で、稼げる人は稼げている”という主張をされるが、私たちのところに相談に来る方は、地域にとっては不可欠な青果店や飲食店の方々も多い。コロナ収束後も雇用は流動化していくと思うが、スーパーマン、スーパーウーマンだけが社会を動かしているわけではない。なかなか稼げない人たち、時間がかかるという人たちも一緒に社会を回していかなければならない。その意味で、日本は雇用されている人にとってもフリーランスの方にとっても、社会保障が弱い」と訴えた。
■「経営者としては社員を守る方が優先度は高い」
他方、経営者としての視点から、ウツワ代表のハヤカワ五味氏は「会社員には雇用保険があるが、フリーランス、そして会社の代表取締役にはそれがない。その意味では雇用保険制度にも問題があると思う」と指摘。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により旅行事業で1億円以上の損失が出ているというリディラバ代表の安部敏樹氏は「このような状態になると、企業経営としては業務委託の人たちを守るよりも社員を守ることの優先度が高くなってしまうのは仕方がないし、私もそういう判断をすると思う。その意味では、リスクを引き受け、仕事が無くなったフリーランスの人たちから見れば、この問題の加担者だという自覚もある」と話す。
こうした点についても株本氏は「経営者の中で、固定費を抱えるのはリスクが高いという認識が強まっていくと思う。正社員ではなく業務委託にし、業績が下がったらいつでも解約できるようにする方が経営者にとっては安全だ。その意味で、フリーランスの需要が高まると思う。僕もフリーランスをマネジメントする会社を経営しているが、フリーランスを保護すれば保護するほど扱いづらくなるし、業務委託契約をしにくくなってしまうのはリスクだ。切りたいときにすぐ切れる、その代わりちょっと高めに報酬を出す。そういう感覚が一般化することによって、フリーランスが生きやすい世界ができると思う。その意味からもフリーランスは自己責任だ」と主張した。
■安心してフリーランスを選べるようにするためには
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「リクルートが80年代に“フリーター”という言葉を使い、それが流行ったことで、“夢を追ってアルバイトをしている若者”というイメージが強く残った。非正規雇用の人たちが大変な状況になっても“お前ら好きでやってんだから仕方ないだろう”という自己責任論が出てしまったのもそのためだ。しかし、いずれの場合も自分の責任だけでなく社会の責任があるはずだし、特に今回の状況は社会の責任が大きいと思う。労働人口の中でフリーランスの割合が増え、特別な働き方ではなくなってきた今、ある程度は社会が包摂しなくてはいけないと思う」と話す。
その上で「僕がフリーランスとして20年くらい仕事をしてきた中で感じたのは、“会社員だからといって、必ずしも安泰ではない”ということだ。2008、9年くらいに始まった出版不況によって、安定していて給料のいい会社だと思われていた出版社が次々と潰れ、フリーランスのライターたちの仕事が減っていった。それでも取引先が5社、10社とあればなんとかなる。つまり、太い木は安心だが、1本では不安定だ。逆に細い木は頼りないが、何十本もあれば安定するということだ。たくさんの取引先を持つこと、あるいは“複業”と社会的包摂、セーフティーネットとの両輪でやっていけば、フリーランス的な仕事は今後も増えていくだろうし、目指す人も増えるのではないか」。
また、安部氏は「雇用の流動化を進めるためにはフリーランスになってもらった方がいいが、そのためには働く全ての人に対するセーフティネットが十分に機能する環境を作らなければならない。それが上手くいっていない以上、僕はフリーランスの人たちを十分にサポートすべきだと思う。しかしその一方で、自分の働き方にリスクがあると思う人ほど投票し、社会参加をすべきだと思う。仮にフリーランス協会が自民党の支持母体だったとしたら、こんな風にはなっていなかったのではないか」と指摘。
さらに「“個人の能力で勝てる”という人たちが“自分は10億稼げる”と言うのも素晴らしいことだが、人々にお金が行き渡らなくなった結果として治安が悪化するなら、それは自己責任論者のお金持ちにとってもリスクになるのではないか。その意味でも、完全な自己責任論と切って捨てることはできない部分があるということを分かってほしい」とも話した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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