やはり天性の格闘家ということか。レスリング一家に育ち、自身は女子レスリングというジャンルのパイオニアである山本美憂は、40代にしてMMAファイターとしてもトップ戦線に躍り出た。
RIZIN参戦当初はグラウンドで苦しんだが、2018年、2019年の戦績は5勝1敗と大きく勝ち越し。RENAに2連勝した浅倉カンナを下すなど飛躍を果たした。今年はさらに実力を上げ、勝負の年にしたいところだったが、RIZINは新型コロナウイルスの影響で大会をキャンセル。美憂も今のところ試合の予定はない。
グアム在住の美憂はインタビューで「こっちもジムは全部クローズです」と答えている。自宅でも練習はできるが、その充実度はどうしても違ってしまう。格闘技は肉体のぶつかり合いだから「組み合う練習が今まで通りできない」影響は大きいのだ。
試合がなく、練習も満足にはできない。だがそんな日々を、美憂は「意外に楽しい」と言う。
「試合があると試合のプランに合わせた練習をする。でも今は自分の好きなじゃないですけど、スキルアップができるので。このコンビネーションをやってみようとか、こういうフットワークで、とか。自分の弱点を克服して“今みんなに追いつけ”って」
試合が決まれば、練習は作戦に沿ったもの、対戦相手の対策が中心となってくる。しかし今は試合が決まっていないから、基本的なスキルアップや“オプション”的な武器の開発に取り組むことができるわけだ。
「せっかくやってきたのに、ここで止まったらもったいない」とも話すあたり、天性ともいうべきポジティブさ。それもまたファイターとしての才能だ。
「寂しいですけどね、試合がないっていうのは。でもどのアスリートも同じ状況だから。しっかり目標を持って頑張らないといけない。終わりが見えるようにするためには、いま我慢しなきゃいけない」
我慢するのは「我慢する時間」を短くするため。そこに自覚的だからポジティブでいられる。“倒すべき敵”が見えているのだ。美憂は言った。
「まずこいつ(コロナ)を倒して、(試合の)相手を倒しにいこう」