全国で休校が続く中、入学や進学の時期を4月から9月にずらす案について、安倍総理は29日の衆議院予算委員会で「前広に検討する」と話した。
同日にウェブ会議で行われた全国知事会では、賛同する声が聞かれた。大阪府の吉村知事は「先進7カ国G7は全部8月9月入学で、日本だけ4月入学。（9月入学は）世界のグローバルスタンダード。大きな方向性として、今このタイミングでできなかったらもうずっとできない。日本がガラパゴスのようになってしまう」と主張。一方で慎重な意見もあり、愛媛県の中村知事は「性急な導入には反対。集中すべきは感染拡大阻止への取り組み及び医療体制の整備である」とする意見書を提出した。
現時点で、学校は「できるだけ早く再開する」というのが基本方針だ。ただ、5月末までの休校をすでに決めている自治体と、感染者がいまだゼロの岩手県など連休明けには再開できそうな自治体があるなど、ばらつきが生じている。
もし9月スタートになった場合、どのような影響が出るのか。休校が長引いた学校の生徒らは授業の遅れを取り戻せるほか、海外で主流の秋入学に合わせることで留学生の受け入れが容易になるなどのメリットがある。一方、連休明けから再開した学校の生徒らは同じ授業を繰り返すことになり、さらに4月からの会計年度や就職時期、部活動や大会などの開催時期を検討する必要が出てくる。
緊急事態宣言の延長が見込まれる中、にわかに浮上した9月入学。東京都立大学法学部准教授の佐藤信氏は「妥当性に疑問がある」との見方を示す。
「今から9月入学に変えていくのが現実的かといわれると難しいと思う。報じられている限り、妥当性もあまりないように感じられる。強く押しているのは一部の知事だが、オンライン化でどうにか学校を再開しようとしているのを“サボる”ように見えてならないのが正直な感想だ」
現在、大阪の高校生3年生の学生が、インターネットの署名サイト「Change.org」を通じて9月入学制の導入を提案する署名活動を行っている。しかし、佐藤氏は9月入学となった場合に影響が広範囲に及ぶことを考える必要があると指摘する。
「彼らは高校の始業や入学を変えようとしていると思う。ただ、そこを変えるとなると当然、下は中学校から保育園や幼稚園まで、上は大学から会社の入社時期や会計年度まで変えるようなことが出てくる。学校は関連する様々な法令の改正が必要で、会計年度も大規模な関係法規の改正が求められることになる。仮にそこまでを想定するととても9月までに間に合わせるのは現実的ではない。また学校だけ変える場合には、新卒採用が先延ばしになったり、転勤が子どもの学校の年度と合わなくなったりする。つまり、若い人たちだけではなく社会全体が対応できるかまで考える必要があるが、今の時点ではそこまで議論が進んでいないのではないか」
すでに4月に入学式を行い、オンライン授業による対応を進める学校もある中、学校の役割は変わってくるのか。佐藤氏は学校の“セーフティーネット”が機能しなくなることを危惧する。
「目の前に生徒がいてオンラインで教育できるチャンスがあるにも関わらず、それをあえて提供しないという選択肢はない。同時にとても大事なのは、学校がセーフティーネットとしても機能していること。こうした状況で自宅にこもらざるをえなくなって精神的な不安を覚えたり、家庭内で虐待が増えたりするということが言われている。それに気付くのに学校は大事な役割を担う。学校の入学や始業を半年遅らせるというのは、そこを欠くおそれもあって、とても重い決断を伴う」
9月入学のメリットとされるグローバル化の観点。佐藤氏はそうした側面はあるとした上で、“カレンダー重視”の考え方には苦言を呈した。
「例えば僕が学生だった2012年ごろに東京大学もそれを検討していた。しかし、その議論は大学のカレンダーだけを変えてグローバル化するということ。大学、しかも東大のように留学生も多いところではそうかもしれないが、社会全体が同じように留学したり、留学生を受け入れたりするわけではない。『グローバル化』という旗印は社会全体のカレンダーを変えるのに十分な理由かは疑問に思う。世界には9月入学ではない国も多くあるなか、どんなカレンダーでも留学に行く・来るという人はいる。グローバル化したいなら、留学のための支援を用意したり、研究予算を増額して国内の大学の魅力を高めたりといったことがまずやるべきことで、カレンダーだけ変えればいいという問題ではない。
カレンダーを変えればグローバル化できるという発想の根底には“カレンダー重視”があるように思う。皆が同じ年齢で同じように上の学年に上がっていくシステムは絶対ではない。留学でカレンダーがズレると就活に影響するという声もあるが、以前から問題視されている新卒一括採用を通年採用に切り替えれば問題にならないはずだ。カレンダーに囚われず、本当は何を実現したくて、そのために何が適した政策手段かを具体的に考えるべきだ」
（ABEMA／『けやきヒルズ』より）
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