新型コロナウイルスの死者が7万人を超え、世界最大の感染国となったアメリカ。なぜこのような危機に直面することになったのか、感染拡大は誰の責任なのか、議論がヒートアップしている。
トランプ大統領は3日、米FOXニュース主催の番組で「中国は間違いをおかしたが、何事もなかったかのように見せかけようとした」と主張。新型コロナウイルスが中国・武漢の研究所から流出し広がったという見方について、これを裏付ける“決定的なものになる証拠”を含む報告書を準備していると明らかにした。また、ポンペオ国務長官も大量の証拠があるとし、中国政府に責任を問うとするなど、中国が隠蔽したことなどが大惨事を招いたというアメリカ政府の“中国叩き”が続いている。
この背景には何があるのか。『ニューズウィーク日本版』はCIA(中央情報局)の元諜報員グレン・カール氏の分析を掲載。「トランプ政権はメディアを巻き込んだ情報操作を行っている」とカール氏は主張している。
例えば、トランプ大統領が新型コロナウイルスへの対応の遅れで非難を浴び始めていた2月、『ニューヨーク・ポスト』が中国の研究施設からの流出に関する記事を掲載。ニューヨーク・ポストのオーナーを務める“メディア王”ルパート・マードック氏はトランプ大統領の支持者だという。また、マードック氏の傘下にある『ウォール・ストリート・ジャーナル』や『FOXニュース』も“中国起源説”に関する報道を行い、トランプ政権の主張を後押ししているというのだ。
トランプ政権が武漢の研究施設からの流出疑惑に言及し、政府機関が調査を依頼。疑惑や政府機関の調査について、トランプ政権に近いメディアが報じ、著名人による記事の拡散や他のメディアも追いかけることで、トランプ政権が言い出した疑惑の信ぴょう性が高まる――。こうした情報操作が行われていると、自らの経験をもとにカール氏は分析している。
トランプ政権の主張に対し、中国は「アメリカは自国の対応のまずさを他国に押し付け、国民の関心をそらすのが目的だ」と猛反発している。中国外務省の耿爽(コウ・ソウ)副報道局長は「アメリカの政治家は自らの問題をしっかり反省し、ウイルスの感染拡大を封じ込めることに務め、他人に責任を押し付けることをやめていただきたい」と主張した。
中国の責任論とアメリカの情報操作疑惑について、『ニューズウィーク日本版』編集長の長岡義博氏は「中国に責任があるかないかという問題に関しては、初期対応の部分で責任はある。ただ、ウイルスが武漢の研究所から流出したものかどうかは別の話で、切り分けて考えなければいけない」「真偽が不明な情報を『政府が調査している』と報じて信憑性を持たせ、いかにもあったかのように膨らませるのは典型的なやり方。CIA出身のグレン・カール氏本人が言うなら間違いないだろう」と話す。
また、このタイミングでの中国叩きの背景には米大統領選があると指摘。「それがすべての理由だ。中国に責任があるという情報を流して得をするのは、間違いなくトランプ大統領。コロナ以前まではトランプ大統領が再選する流れだったが、コロナウイルスの初期対応を誤ったということで批判が強まっている。再選の根拠である好調なアメリカ経済が崩れると一気に危うくなる。責任転嫁のためにこういった情報が出てきているとみている」との見方を示した。
では、米中対立は今後どうなるのか。長岡氏は「コロナウイルスが収束して大統領選が注目のイシューに戻れば、この話題は忘れられていくのでは。過去にもトランプ大統領は、中国との貿易戦争で『中国が為替操作をしている証拠がある』と再三言いながら何も示さなかったことがある。今回も最後はうやむやになってしまうかもしれない」とした上で、「コロナウイルスの拡散がどこから始まったのか、どうやって広まったのか、どこに本当の責任があるかということを、中国政府に国際機関も交えて、政治と切り分けて科学的に究明する必要がある」との認識を示した。
(ABEMA/『けやきヒルズ』より)
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