この記事の写真をみる(2枚)

(場外戦でゴミ箱に叩き込まれる佐々木)

 第1試合にヨシヒコが登場し、メインイベントでは遠藤哲哉と樋口和貞が「KO-D無差別級挑戦剣」をかけて大激闘と、5月2日の無観客配信マッチはDDTらしさが前面に出ていた。バラエティ色の強い試合もあれば激しさ重視の闘いもある。それがDDTだ。

 セミファイナルでは、“カリスマ”こと佐々木大輔がユニバーサル王座の初防衛戦。挑戦者はアントーニオ本多だ。無軌道すぎる行動とコメントで知られる佐々木に対し、アントンも「創作昔話・ごんぎつね」を得意とする個性派中の個性派。2人は同じユニットだったこともあり、ともに“レスリングマスター”ディック東郷の教えを受けている。

 確かなスキルと無鉄砲さとデタラメさが混在する両者の対戦は、DDTにおける一つの“極み”とも言える。5.2無観客試合はレギュラー配信マッチの第1回。その舞台にふさわしいマッチメイクだろう。

 期待通り、両者は序盤から場外戦を展開していく。普段の場外戦とは訳が違う。無観客試合の“場外”はつまり無人。暴れたい放題だ。アントンは佐々木をゴミ箱にぶち込み、佐々木はバーカウンターからビールを奪って勝手に飲もうとする。それをアントンに取られたのだが、口に注ぎ込まれて結果オーライ。ビールの力でパワーアップしたのだった。

拡大する

(コメントはビールを飲みながら。勝因は試合中の飲酒だった模様)

 リングに戻るとアントンが「ごんぎつね」からの目突きを狙い、ナックルで殴り合い、大技は紙一重で切り返す。派手なことやことさらに危険なことはしていないのだが、その絶妙のリズムとタイミングが見る者を酔わせる。無観客であることはまったく気にならなかった。職人技のようでありアートにも見える攻防は、つまりプロレスならではのものだ。

 裏の読み合いを制したのは佐々木。アントンの回転足折り固めを切り返してクロスフェイスロックに捉え、そこからクロスオーバー・フェイスロック。試合後の佐々木が「本多との試合は、相変わらず“プロレスっていいな”って俺なんかでも思っちゃうな」と語るほどの充実した内容だった。

 が、佐々木がまともなことを言ったのはここだけなのだった。クリス・ブルックスに挑戦要求されると「オンリー・ジャパニーズだ」と拒否(ユニバーサルという名の王座かつクリスは初代王者なのだが)。怒りのクリスにKOされると「なんであいつStay Homeしてないんだ! お前ら(取材)もだ!」と八つ当たり。

 ちなみに佐々木自身はStay Home中、「家でピクルス漬けたりしてんだ。凄え不味いんだぞ」とのこと。極上の攻防、その余韻を台無しにすることで名勝負が完成するというカリスママジックに、取材陣一同あいた口が塞がらなかった。「さすが」と言いたい。

文/橋本宗洋

写真/DDTプロレスリング

この記事の画像一覧
この記事の写真をみる(2枚)