定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、インターネット上で抗議の投稿が相次ぎ、俳優やミュージシャンなどの著名人も声をあげている。
8日に衆議院で審議が始まった、検察庁法の改正案。検察官の定年を63歳から65歳に引き上げるほか、内閣が認めれば定年をさらに3年まで延長できるとしている。成立すれば、政治家の不正を正す立場でもある検察官の人事に時の政権が介入できることになり、検察官の中立性が脅かされる指摘がある。
安倍内閣はすでに今年1月、政権に近いとされる黒川弘務東京高検検事長の定年をこれまでの法解釈に反する形で延長しており、それを正当化するかのように提出されたのが今回の改正案だ。Twitter上では「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿が、11日午前1時時点で470万件を超えた。
さらに、演出家の宮本亜門氏が「このコロナ禍の混乱の中、集中すべきは人の命。どうみても民主主義とはかけ離れた法案を強引に決めることは、日本にとって悲劇です」、俳優の井浦新が「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」と、著名人らも抗議の声をあげている。
国会では、野党側が森雅子法務大臣の出席を求めているが、与党が応じないまま委員会審議が始まった。早ければ、13日にも採決される可能性がある。
ネットでの盛り上がりについて、東京工業大学准教授の西田亮介氏は「ネットでハッシュタグを使う社会運動はこの間、ポピュラーなものになってきた。例えば、最近の例だと『#Metoo』の運動があったと思うが、それらと比べても今回の盛り上がりは群を抜いていて、日本でも世界的にも高いランキングに入ってきている印象だ。もうひとつの特徴は、日本の芸能人・タレントは普段、それほど政治について自身の立場を公言しない傾向がある。そうであるにも関わらず、今回多くの人たちが立て続けに立場を明確にした。直接は国家公務員法の一括改正という問題になろうかと思うが、広く検察定年延長問題への抗議することに同意して運動に参加している」と驚く。
また、このタイミングで話題になっている背景のひとつに、新型コロナウイルスが関係すると分析。「コロナの問題で、多くの芸能人やアーティストの人たちも自宅勤務を余儀なくされ、普段よりも携帯に触れたりSNSを見たりする時間が長くなっている。また想像の域を出ないが、普段よりもマネージャーなどとの接触が減り、自分で判断して振る舞う機会が増えているのでは。さらに、多くの人が不安や不満、ストレスを抱えている中で、“自分たちの知らないところで政治だけが美味しいことをしようとしているのは許せない”というある種の被害者感情に突き動かされている印象を受ける」との見方を示した。
議論の大きな争点は、法改正で政権の影響力が増し検察の独自性が揺らぐのではないかという点だ。これについて西田氏は「検察は行政機関でもあり、従来から検事総長、次長検事は内閣によって任免される。特段の事情があって定年を1、2年伸ばすことができるという時に、それが政治の検察への介入をどの程度増やすことに繋がるのか。そもそも民間も、国家公務員も定年が引き上げられている中でも、検事総長の定年は原則63歳のままということで、その位置づけが自ずと従来とは変わってきていると思うが、その具体的影響は明確ではない」と指摘する。
その上で、今回の一連の動きに対して「制度の問題と総体の議論がやや混同されたまま議論されている印象は受ける。もちろん、法律の詳細がよくわからないことと政治的発言の是非は関連しないが、議論が『そういう細かいことはいい』という形で異論や疑問に対して、排他的になりがちな点はやや気になる」と懸念を示した。
一方で、臨床心理士で心理カウンセラーも務める明星大学准教授の藤井靖氏は、Twitter上の議論について「これだけのムーブメントになっていることについては、内容の是非はともかく現象として、中身はよくわからないけどツイートしたりハッシュタグをつけたりする人も多いだろうという集団心理の存在は推測される。中身も見ても賛否両論で、一方の意見だけが盛り上がっているわけではなく、あるいは1人で何回もハッシュタグだけをツイートしている人もいる。更に言えば、芸能人の方も急に声をあげたのかは疑問で、今は時間があるからだと率直に思う部分はある。かといって声をあげていけないわけではもちろんないので、今後他の問題やトピックにも声をあげ続けてほしい」と指摘。
また、黒川氏個人の定年延長と法改正の是非は分けて考えるべきだとし、「いくら専門家でも、今後の検察に対する政府や内閣の影響力がどれだけ高まるかは実際には分からない。なぜなら、結局は人同士の関係において、その都度生じる心の部分の影響が大きいから。とはいえ我々国民からすれば、わからないからこそ法改正でフリーハンドの部分が残って心配になるのは自明のことだし、検察に関していえば今まで幾度となく恣意性を感じる組織だと思ってきた部分もあるので、この機会に他の問題点にもさらに注目が集まればいいと思う」と話した。
これを受けて西田氏は「制度の細部がわからないと政治について何か言ってはいけないということではないことは改めて強調したい。このムーブメントが、今まで日本の社会が経験したことのない大きさになり、世界的にも注目される規模になってきた時に、意図しないまま異論や疑問など議論の可能性や多様性を排除するような動きになってくるとすれば、運動の元の趣旨と異なってくる恐れがある。それは好ましくないのではないか」とした。
(ABEMA/『けやきヒルズ』より)
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