将棋の対局と言えば、静寂の中で時折「う~ん」「いや~」と対局者が悩んだり「負けました」と投了を告げたりする声が聞こえるぐらいで、あとは真剣な表情ぐらいしか棋士の様子をうかがうことはできない。ところが、これが対局を見る側にまわると、途端に素の表情が出てくる。ましてや、これがチームメイトを応援するともなれば、普段はファンが見ることができない表情、発言まで出てくる。
将棋においては、表情や仕草を出すことは、相手に状況を悟らせることにもつながるため、よしとはされない。また勝利した際も、敗れた相手に敬意を払ってガッツポーズなど喜びを表現することもない。対局後の感想戦では、多少表情が緩むこともあるが、大声をあげて何かをする棋士もいない。
ただ、プロ将棋界初の団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」では、棋士の素顔が丸出しだ。3人1組のチーム対抗戦だが、対局者以外の2人は「作戦会議室」と呼ばれる場所で、チームメイトの戦いぶりを見守っている。ここでは声を張り上げても対局者には聞こえないため、頭に浮かんだことや思いを自由に発言できる。仲間がチャンス、ピンチともなれば、その変わりようは驚くほどだ。
たとえば豊島将之竜王・名人(30)と本田奎五段(22)の戦いでは、本田五段を指名したチーム三浦のリーダー・三浦弘行九段(46)のリアクションが実に豊かだった。将棋界のトップに立つ豊島竜王・名人を、新鋭・本田五段が追い詰めた終盤から、一気にテンションがアップ。「いやいや勝ちだ、勝ちだ!勝った!勝った!勝った!」と、興奮を表すように同じ言葉を連呼。表情もどんどん緩んでいった。
ところがさらに終盤が進み形勢が悪くなると「え~!」と首をもたげてがっくり。「ううううう」と呻くと、さらには敗勢まで進み「いや~逆転してしまったか」と、まだ本田五段が投了する前に「負けました…」と語り、手元のコーヒーを飲み始めた。
すっかり諦めモードでモニタを見ていた三浦九段だが、ある一手を契機に、再びモニタにかぶりつく。豊島竜王・名人が見せた一瞬の隙を本田五段が的確に突くと「あ、来た来た来た!」と前のめりになり、さらには「打て、打て、打て!」と、また連呼。見事に勝利を収めると「よし!」とひとこと。その後は見ている方が疲れたとでも言わんばかりに、静かに対局後の2人を眺めていた。
イベントなどでもその人柄を知ることができるが、棋士がどんな様子で将棋を観戦しているかを見れば、戦う棋士の姿も、また一味違って見えるようになるかもしれない。
◆第3回AbemaTVトーナメント
持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行い、1回の対戦は三番勝負。3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝賞金1000万円。
◆出場チーム&リーダー
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段、三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)
(ABEMA/将棋チャンネル)