トランプ大統領の責任転嫁? WHO、テドロス事務局長は本当に中国の言いなりなのか
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 新型コロナウイルスの発生源や初動対応をめぐって中国を厳しく批判してきたアメリカ。アザー厚生長官は「流行を隠ぺいするため、少なくとも加盟国の1つが透明性を保つという義務に背き、世界にとてつもなく大きな被害を与えた」と非難した。しかし、中国の感染者数が8万人、死者数が4000人であるのに対し、アメリカは感染者数が150万人、死者数は9万人となっている。

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 その矛先はWHOにも。アザー厚生長官は、オブザーバーでの参加を求めていた台湾がWHO年次総会(18日から2日間にわたり開催)に招待されなかったことについても「政治的なメッセージを送るために2300万人の台湾人の健康を決して犠牲にしてはならない」との見解を示し、判断が中国寄りだと批判している。

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 国際政治学者の鈴木一人・北海道大学公共政策大学院教授は「トランプ大統領は圧倒的に出遅れたし、特に2月の間、全く言っていいほど対処してこなかったことが大きな原因だと思う。その意味では、むしろトランプ大統領の責任は非常に大きい。そこに言及しないまま中国の責任だけを追及するのは、かなり分が悪いという印象だ。WHOに対する批判についても、WHOが宣言しなかったら対処できないくらいアメリカは腰抜けなのか、という問題がある。そもそも独自の情報機関からの報告も入っていたはずで、知らなかったとは言えないだろう。やはり何もしなかったのはトランプ大統領のチョイスであって、WHOに責任転嫁するのはおかしい」と指摘。

 WHOや厚生労働省で医療政策に携わった坂元晴香・東京大学大学院特任研究員も「WHOは基本的に自国で判断・対策をすることが難しい途上国に向けてメッセージを出すことが多いので、G7のような国々はWHOの勧告を待たずに独自に対策を取っていくことになっている。しかしアメリカは日本のダイヤモンド・プリンセス号に関しても対岸の火事のような形で眺めていたために、気が付くと国内で手遅れになっていた」とした。

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 徹底した封じ込めで成果を上げてきたにも関わらず不参加とされたことについて、台湾当局は「WHOが中国の圧力に屈した」と憤りを露わにしており、日本政府も、加藤厚生労働大臣が「私どもからは地理的空白をつくるべきではないと申し上げた」と言及している。

 鈴木氏は「中国にとってWHOの問題は政策の中のごく一部にすぎない。むしろ台湾やチベット、ウイグルが中国の一部であるという主張こそ最も重要な政策だ。つまり言い方は変だが、感染症の問題でそこを折れるわけにはいかないということだ。中国が簡単に外交的な立場を変えることをしない以上、台湾はオブザーバーなどの公式なスタイルではなくて、何らかの形で情報を共有するメカニズムを探っていく方が有益だろう」との見方を示した。

■WHO、テドロス事務局長は中国の言いなりか?

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 さらにトランプ大統領は、テドロス事務局長に宛てた「今後30日以内に態度を改めない場合、米国からの拠出金の一時的な凍結を恒久的なものとし、組織からの脱退も検討する」という書簡をツイート、「ここ最近、かなり残念な仕事をしてくれている。中国の“操り人形”だ」と述べ、脱退の可能性すら示唆している。

 WHOのテドロス事務局長は中国が多額の経済援助をしているエチオピア出身であることから、“WHOは中国のなすがまま”という言説も根強い。また、これまでアメリカは中国の実に10倍以上となる4億5000万ドルをWHOに拠出してきた。割合でみても、中国0.21%に対し、アメリカは15.18%と巨額だ。

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 中国の習主席は「中国は常にオープンで透明性があり、責任を持つ態度で即時にWHOと世界各国へウイルス感染状況を知らせた」と反論。WHOの対応についても「テドロス事務局長のリードの元で、WHOは世界のウイルス感染予防協力推進に大きな貢献をした」と称賛、今後2年間で20億ドル(約2100億円)の拠出を表明した。

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 坂元氏は「WHOが何かを決定するまでには、196の加盟国が議論したり、投票したりする。その過程では、中国が加盟国に一定程度の働きかけして議論形成を行っていくこともあるだろう。つまり、テドロス事務局長が独断で決めているわけではないが、WHOの決定が中国の影響を全く受けていないかといえば、それも違うと思う」と説明。「もしアメリカからの拠出がカットされるとなると、WHOの活動に大きな影響が出ると思う。特に途上国での予防接種や子ども、妊産婦の健康に関する活動が維持できなくなる可能性が高い」と懸念を示した。

 鈴木氏は「WHOの職員にはCDCから派遣されている専門家も含め、かなり多くのアメリカ人だし、テドロス事務局長が1人でものごとを決められるわけではない。その意味では、中国とエチオピアとのつながりがあったとしても、止める方法はいくらでもあるわけだ。実質的にはアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本、それに中国という主たる貢献国が力を持っているし、そもそも国際機関の事務局長というのはそんなに権限を持っているわけではない。言ってしまえば、テドロス事務局長も組織をまとめる単なる調整役でしかない」と指摘。

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 「国連や国際機関では改革が進み、民主的に事務局長を選ぶようになってきている。WHOで言えば、以前はアメリカ、イギリス、日本、ドイツ、フランス、中国の巨額の拠出をしている国が密室で決めていた部分があった。2006年にマーガレット・チャンという人が選ばれた時には、対抗馬として専門家会議の尾身茂副座長が立候補されていた。チャン氏は香港の人だがカナダ国籍も持っていたため、西側諸国と中国との妥協で選ばれた。そこから民主的に決めようとなったが、公職選挙法のようなものはないわけなので、中国は人民元の借款を受けていたりする途上国に向けて色々な戦略を展開していく。悪いと言えば悪いことだが、国際社会というのはそういうもの。そう考えると、建前であっても民主的な選び方をしていることに対し、トランプ大統領は“かつてのような密室の方が都合いい”と言っていることになる。しかし、国際社会にとってどっちがいいのかということだ。国際社会の場は、民主的になるとこうなってしまう現実があって、建前を出せば出すほど不利になるのは先進国だ。そういう中で、中国も影響力を増してきているということだ」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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