
世界的に感染拡大が止まらない新型コロナウイルスの影響により、マット界は大きなダメージを受けた。それは「試合(興行)ができない」ということだけではない。選手や元選手が経営する格闘技系ジムも休業を余儀なくされてしまったのだ。プロ選手の練習に支障が出るだけでなく、経営そのものが揺らぎかねない事態である。
その中で、ZOOMなどを使ったリモートレッスンを始めるジムも出てきた。東京・高円寺にある「FLENJI(フレンジ)」もその一つだ。FLENJIはZERO1所属のプロレスラー・日高郁人がプロデュースするパーソナルジム。インストラクターは日高とともに元レスラーの澤宗紀が務める。
非会員でも参加可能なFLENJIのZOOMレッスン。ある日の参加者は8組だった。「組」というのは家族で申し込む者もいるためだ。
「家が遠いとか仕事が終わるのが遅いとか、いろんな理由でジムに来られない人もいると思うんですが、リモートレッスンなら都合がつきやすいというメリットはありますね。宮本裕向のオンラインセミナーには、全国から彼のファンが参加してくれました」(日高)
プロレスラーらしいのは、レッスンのスタート時にゴングを鳴らすこと。そこから澤が傘を使ったストレッチを指導する。誰もが知っている「柔軟体操」とは違うやり方が新鮮だ。
その後もスクワットなどさまざまなメニューがテンポよく行なわれていく。1レッスン30分、各メニューは10回と軽めだ。「お子さんもいますし、ついていけないという人ができるだけいないようにしてます。なおかつ運動慣れしている人にも新鮮なものになればと。まずはこのレッスンでやり方を覚えて、あとはそれぞれが自分に“効く”回数でやってほしいですね」と日高。澤は「1つの種目を2セットやったりすると、意外に間がもたないってことに気づいたんですよ」という。そこは“映像コンテンツ”としてのクオリティも問われるということか。

(各メニューの開始と終了はゴングで)
レッスンを取材していて気づいたのはアレンジされたメニューの目新しさとテンポのよさ。それに2人の指導が醸し出す明るい雰囲気だ。画面をチェックしながらフォームを修正したり「〇〇さんうまいですね!」と声をかけていく。ライオンプッシュアップ(プロレス式腕立て伏せ)は「ストレッチの要素もあるので、僕は試合前にも欠かさずやってます」と日高。こうした“豆知識”もファンには嬉しい。
レッスンの最後はミットを持った(画面上の)澤に向かってパンチ100連発。澤曰く「ちょっとしたVR(笑)」だ。これはフォーム云々より、とにかく思い切り体を動かすのがポイントだろう。
「FLENJIのキャッチフレーズは“運動なんか楽しんじゃえ!”なので。みんなに楽しんでもらうのが一番ですね。そのやり方として、ZOOMレッスンというのは新しい発見でした。ツイッター(@flenji_gym_ss)でも申し込めますので、気軽に参加してほしいです」(日高)
「飽きずに運動をしてほしい。体を動かす楽しさを伝えたい。これはプロレスラーとして“プロレスって面白いんですよ”“一度、見に来てもらえれば”と伝えようとしていたのと同じだなって。そういう意味ではFLENJIのレッスンはレスラーらしさが出てるのかもしれないですね。よく考えるのは“運動”とか“トレーニング”に代わるような言葉がないかなっていうことなんですよ。なんか言葉自体に厳しいイメージがあるじゃないですか。なので、FLENJIでやることに関しては遊びだと思ってください(笑)。遊びに来る感覚で参加してもらえれば」(澤)
リモートレッスンは時間、場所、人数の自由がききやすく、「お試し」という意味では体験レッスンよりもハードルが低い。ファンイベントとしての機能もある。
「今は会場での試合がないので、ファンの方同士がZOOMで久しぶりに顔を合わせる、なんていうこともあるんです」(日高)
FLENJIのコンセプトやあり方とリモートレッスンは見事にフィットしていた。日高によると、いずれ通常営業が可能になってからも何らかの形で続けたいそうだ。
文/橋本宗洋
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