左右の連打から繰り出した強烈な左フックで衝撃KOを飾った直後、無観客の会場に魂の叫びが響いた。
5月31日、久々となる修斗の大会が無観客で行なわれた。コロナ禍の現在、世界的にも格闘技の大会はレアなものになっている。しかし闘う場所を求める選手は間違いなくいるのだ。この日のメインは世界バンタム級暫定王座決定戦。正規王者の佐藤将光がONE Championship参戦中のため組まれた。ランキング1位にして環太平洋王者でもある岡田遼と、2位の倉本一真の対戦だ。
倉本はレスリングで天皇杯3連覇の実績を残したトップアスリート。ジャーマンスープレックスを連発するド迫力のファイトスタイルで、昨年は修斗のMVPとベストバウトを受賞している。
プロ無敗で世界のベルトに王手をかけた倉本は、開始早々前蹴りで飛び込むとタックル。バックを狙いながらもケサ固めで抑え込み、スタンドでは左右のフックを強振。バックスピンキックも見せる。対する岡田は隙をついてギロチンチョーク。局面を支配しているのは倉本だが、岡田も落ち着いていた。
2ラウンドも倉本が圧力をかけていくが、バックブローを放ったところで岡田のパンチがヒット。倒れた倉本に岡田が連打を浴びせていく。最後は右ストレートから左フックにつなげて完璧なKO。劇的フィニッシュで岡田が勝利を収めた。倉本はこれが初黒星だ。
(師匠・鶴屋との二人三脚で世界王座を掴んだ岡田)
「俺がチャンピオンだ!」
絶叫した岡田。強敵相手の世界戦は大きなプレッシャーだったはずだが、見事に乗り越えた。勝因の一つは、無観客試合だったことだという。
「普段は大歓声をもらってるんですけど、今回はそれがなかった。でも、それで(セコンドの)鶴屋さんの声がよく聞こえました。だから無観客でマイナスはなかった」
試合中、セコンドの鶴屋浩(パラエストラ千葉代表)は「投げられてもいいから」とアドバイスしていた。岡田によると「投げられるのを嫌がって、それで投げられてしまったら大ダメージ。でも投げられそうになったら自分から投げられてしまえば大丈夫」。あえて投げられ、しっかり受身を取るのも対策だったのだ。また試合前半は攻められてもスタミナを温存する作戦だった。その作戦を冷静に遂行できたのは、セコンドの声があったからだ。
「ここまで何度もやめようと思ったけど、そのたびに背中を支えてくれたのが鶴屋さんでした」
2本のベルトを巻き、師匠への感謝を語った岡田。苦しい闘いを何度も乗り越え、“大人の闘い”で悲願を達成したチャンピオンは、鶴屋から「叶えたいことは口に出して言うといい」と教わってきた。だから修斗世界王座奪取も公言してきた。
そしてこの日、岡田は新たな願いを口にした。
「一日も早くお客さんがいっぱいの会場で試合ができるように。そう口に出します」
激戦区と言われるバンタム級だが誰にも負けない、それは誰よりも修斗を愛しているからだと岡田。自分のキャリアを振り返りながら「苦しくても笑える日が来ます」と新型コロナウイルスの影響に苦しむ人々へのメッセージも。フィニッシュからマイクまで、チャンピオンにふさわしい姿で大会を締めてみせた。
(C)SUSUMU NAGAO/SUSTAIN