暴動鎮圧のための連邦軍派遣は「絶対にやってはいけないこと。しかしトランプ大統領はあえてやろうとしている」三浦瑠麗氏
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 アメリカで白人の警察官が黒人の男性を死亡させた事件で、抗議活動が激化し、略奪などが相次いでいる。トランプ大統領はデモが鎮圧できなければ軍を投入すると警告、国内外に波紋を広げている。6日のABEMANewsBAR橋下』に出演したでは、国際政治学者の三浦瑠麗氏と橋下氏が、この問題について議論した。

・【映像】三浦瑠麗さんを迎えてアメリカの人種差別問題を考える

暴動鎮圧のための連邦軍派遣は「絶対にやってはいけないこと。しかしトランプ大統領はあえてやろうとしている」三浦瑠麗氏
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三浦:黒人の地位向上のための政治運動は、首都ワシントンDCの黒人議員団を通じて支援を要請してきた。しかし、政治に繋がっている人は黒人のうちごくわずかにすぎない。政治へのアクセスからこぼれ落ちてしまった人々の問題は長らく対処されないままだった。そうした中で警官による黒人の不当逮捕、暴力に焦点を当て、2013年に正式結成されたのがBLM(Black Lives Matter)という運動だ。当時はすでにSNSも発達していたので、ハッシュタグを使って自然発生的に賛同者がデモに集まるような、ネットワーク型のゆるい運動である所が特徴だ。しかし、当初から過激な運動スタイルを取っており、既存エリートに取り込まれていなかった。

私は2016年の大統領選直前の9月にBLMを取材し、ブルックリンとブロンクスの支部長に会った。彼らはオバマさんのことは基本的に好きだったが、ヒラリーさんのことは猛攻撃していたし、彼らが組織していたデモ自体、ニューヨーク州のクオモ知事(民主党)に対する抗議だった。彼らの主要な関心は国政にはなく、デモの目的は黒人の抑圧や貧困の再生産に加担してしまっている州政府や基礎自治体の政治家を非難することだった。つまり、BLMは民主党対共和党といった全国レベルの政治の構図で理解できる運動ではなかった。当初は多くの人びとから敬遠されていたBLMに今回支持が集まった。今後、どれくらい求心力を集め続け、そしてどれだけの黒人がバイデンを応援するのか。その結果によってはアメリカ政治を変えかねないし、黒人運動の歴史も変えかねない。今、アメリカはそうした転機の可能性に直面しているということだ。

橋下:僕は自由主義、民主主義の体制の方が絶対に良いと思ってはいるが、やはりそういう国でも解決することができずに続いてきた問題があるということ。

中国政府が香港のデモを武力で鎮圧し、国家安全法みたいなものまで導入しようとしていることに対して、「民主主義を守れ!中国はけしからん!」と非難する日本の政治家たちもいるけれど、民主主義国家のアメリカだってこういう問題が生じてしまうという意味では、体制はあまり関係ないということを見せつけられたような気がする。

結局のところ、暴動は収めないといけない。しかしそこに軍事力を使ってはいけないと思う。その意味では、中国を批判している人は今のアメリカについてどう思うのだろうか。

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三浦:基本的にはデモが暴徒化すれば、まずは警察が出て行くことになる。しかし、今回は警察がまさに抗議の対象になっている。だから州兵が出て行くのは正しい。本来、州兵は連邦政府から介入されないように州が持っておく、コミュニティーの防衛軍のようなもの。だが、歴史的には州兵にも人種をめぐる問題があった。当初、州兵は特権的な存在で、黒人は州兵になれなかった。公民権運動の時代、人種差別的な州では白人の州兵が黒人有権者が投票所に行くのを阻止しようとして、彼らを武力で脅かした。その黒人を守ったのが、実は第二次大戦や朝鮮戦争を戦った黒人の退役兵だ。そして、連邦軍が南部諸州の黒人差別を阻止するために投入されたこともあった。そういうねじれもあるということ。

教員など公務員、そして軍は、黒人の地位向上のために重要な役割を果たしてきた。公的機関ゆえにマイノリティの採用拡大に踏み切り、民間よりも彼らを昇進させることができた。また戦時における黒人兵士の貢献はすさまじいものがあった。だからこそ、地位向上が進んでいったという面がある。ところがトランプはそういう歴史をわかっていながら、あえて軍を今回の暴動の鎮圧に出動させようとした。それは、いわゆる中産階級のアメリカ国民の中にBLMへの反感があることを知ったうえでの戦略的判断だろう。暴力に訴えることを諫めた犠牲者の弟など一部の黒人を前面に打ち出し、“マイノリティの擁護者であり、法と秩序を守っているのは俺達だ”という単純化した構造に置こうとしているのだと思う。しかし、こうした文脈における軍の投入は絶対やってはいけないことだ。連邦政府から独立したい州の反発を招くし、軍に対する社会の反感をも招いてしまう。

橋下:今回の警官の映像を見て、アメリカ社会ではまだこんなことをやっているんだと衝撃を受けた。民主主義の社会で、代表を選んで、政治で解決するっていうシステムできちんとできていないということだと思う。中国のことを批判できないんじゃないかと思ってしまった。

三浦:香港人は民主的なプロセスを確保されていない。けれども、民主的なプロセスがあっても、自分たちの状況が改善されないできたのが、アメリカの黒人だということだ。

▶映像:三浦瑠麗さんを迎えてアメリカの人種差別問題を考える

三浦瑠麗さんを迎えてアメリカの人種差別問題を考える
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